第5話 作戦
早速僕達は作戦を立てることにした。
「作戦を立てよう。ただでさえ不利な状況なんだから念入りに準備しないといけんでね。」
「そうだね。」
「じゃあまずは明日、どのルートから行くのかを決めよう。」
「え?明日じゃなきゃ駄目なのか?」
元太君が不思議そうに聞いた。
僕も今日の方がいいのではないかと思っていた矢先だった。
早ければ早い方がいいだろうと思っていた。
「この時間帯は専業主婦の方なら夕飯を作ってるはずだ。今行くのは危険すぎる。」
「なるほどな。」
僕と元太君は納得して玲音君の話を聞く姿勢に入った。
彼は塾で使っているであろう黒い手提げ鞄からノートを取り出し、ページを一枚ちぎって秘密基地から僕の家までの地図を簡潔に書いて見せた。
「駐輪場の坂を下りて住宅街の路地へ。路地は人が少ないから隠れながらならスムーズに行けるはずだ。そこから左に曲がって一つ目の路地を右に曲がる。そのまままっすぐ行って自分の家に入る。あと、靴は目立たない場所へ。それからその時にお母さんがいたら帰ってきて。危険だから。」
「分かった。」
彼は紙に描いた道を鉛筆でなぞりながら僕たちに説明してくれた。
「しゅーちゃん、無事でいてね……。」
「うん、大丈夫だよ美鈴ちゃん。安心して。」
「それより、もし僕がお金を取ってくることが出来なかったらこれからどうするの?」
「信じてるから大丈夫。仮に、無理だったとしてもその時に考えよう。」
「そうだよね、頑張るよ。」
明日頑張るためにも心の中で自分に喝を入れた。
どのくらい話していたのだろう。
辺りは光無しでは見えにくいほど暗くなっていた。
子供が昼ごはんも食べずにこんな時間になるまで作戦を念入りにし続けることで非常に体力は削られた。
考えつかれた玲音君が休憩のような姿勢に入った途端全員が体の力を抜いた。
刻々と過ぎる時間と闇に包まれる黒百合町をぼーっと眺めながらふと意識を玲音君に移した。
「玲音君、今何時?」
「二十二時前だね。明日に備えてもう寝た方が良いかもしれない。」
「まだ早くねぇか?俺はまだ起きとるぞ。」
「そう? 僕は寝るよ。」
玲音君が寝転んだと同時に、先に仰向けになっていた美鈴ちゃんが体を起こした。
「ねぇ、今日立てた作戦をまとめておかない?ノートか何かに」
「そうしようか、僕のノートを使うといいよ。これはメモ用として持っておく。」
彼はこれまでの授業の内容が書かれた紙を破いて、何も書かれていないノートと筆箱を彼女に渡した。
「ありがとう。それじゃあ今日のことをまとめておくね。」
「うん、よろしく。」
彼女は寝転んでノートに話し合った内容を書き始めた。
達筆な字でゆっくりと書かれたノートは見やすかった。
彼女がノートを書き終えると、ノートを閉じ、ペンとノートをまとめて端に置いた。
そして僕達は寝転んで空を眺めた。
「星が綺麗だね。」
「そうだね。」
暗闇の夏の夜空に無数の星と鳴き声が動きを描く午後十時。
最高で最悪な一日に終わりを告げるかのように僕たちは目を閉じ、静かに眠りに落ちた。
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