第22話 未練タラタラ ※とある侍女視点

「セアとレイの活躍について、新しい情報は?」

「こちらに」


 セドリック様が求めている情報に関してまとめてある資料の紙を渡すと、彼はすぐ読み始めた。そして、その表情を笑顔に変える。


「なるほど、二人共よく頑張っているようだね」


 楽しそうな様子でじっくり読み込んだ後、満足げな様子で資料を閉じた。それから彼は、私の方へと視線を向ける。


「彼女達、凶悪なモンスターの巣を壊滅させて村を救ったそうだ。すごい活躍だよ、本当に」

「それは凄いですね!」


 彼の意見に同意する。色々と思う事もあるけれど、否定して機嫌を損ねるわけにはいかないから。


「そうだろう? これから彼女達は、もっと活躍するだろうなぁ」

「はい、そう思います」


 遠く離れた国で活躍している冒険者の話に、セドリック様は大喜びしている。それよりも、自国のモンスター被害について頭を悩ませるべきなのに。そんな事を思ったけれど、もちろん口には出さない。


 そもそも、あの事件によって王位継承順位を降格させられて、王国の政治に関わることは出来ない立場のセドリック様。現在は隠居生活のような状況で、出来ることは何もない。だから、王国の問題について考えても無駄なのかもしれないけれど。


「彼女達が戻ってきたら、きっと俺も……」


 小声で、そんなことを呟くセドリック様。他国で大活躍している二人の冒険者が、自分の元へ戻って来ると確信しているようだ。


 私も、婚約破棄の騒動については知っている。シルヴェーヌという令嬢に婚約破棄を告げて、直後にロゼッタという令嬢にプロポーズしたという話。二人の令嬢は逃げ出して、王子だけが放置された。


 そして、その二人が話題の冒険者だという話も聞いている。


 セドリック様は、居なくなった二人の令嬢に関する情報を集めさせて、毎日それを見て喜んでいる。そして、いつか戻ってくると信じて生きている。


 私は、そう思わない。二人が戻ってくることは、おそらく無いだろう。あんな騒動を起こして、自分勝手に人生を変えられてしまった二人。逃げた先で、新たな人生を満喫しているようだから、戻ってくる理由がない。


 もしかしたら、私の知らない秘密の情報があるのかもしれない。セドリック様だけが知っている、二人が戻ってくると思う理由があるのかも。


 だけど、そうじゃないのであれば戻ってくることは無いだろうな。


 セドリック様は、二人が戻ってくるのを一生待ち続けるつもりなのかしら。彼女達が活躍したという話を聞いて喜んで、ただ待ち続けるだけの人生を送るつもりなの?


 そんな事を疑問に思ったけれども、セドリック様に聞いたりはしない。ただ私は、自分の仕事をこなすだけ。余計なことを口にすると面倒だものね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る