第14話 それぞれの事情

 レイと一緒に、拠点へ逃げてきた。


 冒険者のギルドが近くにあり、一般市民が生活しているような地区。ここに誰かを連れてくるのは初めてで、貴族の私が居るなんて分からないような秘密の場所。


 外で捜索を続ける兵士達には、この場所が見つかることはないと思う。しばらくは落ち着いて過ごせるだろう。


 冒険者として活動する時の服装と防具に着替えて、武器を腰に差した。私はレイと向かい合って座る。彼女も、私が用意した服装に着替えた。メイクも変えたので、この姿を見ても私達が貴族令嬢だと分からないぐらい変装はバッチリ。


 兵士達と戦うことになっても、武器があるので大丈夫。逃げ出すための時間稼ぎは十分に出来る。倒すことも出来るはず。それぐらい、余裕があった。


 着替えが終わって、私達はお互いの事情について話をした。


「いつか、こうなるだろうと予想していた。だから私は、一人で生きていけるように備えていたの」


 私は自分の事情を、初めて語った。レイは、静かに私の話を聞いている。


 婚約相手や家族との関係は最悪で、貴族社会にも馴染めない。だから、そこから逃げ出して一人で生きていけるように準備をしていた。


 体を鍛え、剣術を極めて、冒険者になって仕事をこなし、稼いできた。


 今の私なら、一人で生きていける。準備は既に完了していた。だから、今の状況を悪いとは思っていない。予定通りだと、受け入れている。


「……そうだったんだ。私も、同じような感じです」


 そして、レイは語り出した。実は、平民だった彼女。ある日、とある貴族と血が繋がっている事が発覚した。それで、ミレニア家に引き取られることになった。突然、貴族社会に放り込まれることになった。本人の意志とは関係なく、強制的に。


 セドリックと出会ったのは偶然だった。初めて社交界に参加させられて、緊張していた時のこと。いきなり、馴れ馴れしく話しかけられて対応した。色々と無礼なことをしてしまい、後で謝罪をすることに。それから始まった関係。


 レイを引き取ったミレニア家の当主は、知り合いになったセドリックとの関係を深めようと必死に彼女を利用しようとしていたらしい。色々と言われて、仕方なく関係を続けていた。


「でも、まさかあんな風に思っていたなんて」


 レイが思っていた以上に、セドリックは彼女のことを気に入っていたようだ。まさか婚約を破棄して求婚するほど惚れ込んでいたとは、レイ自身も知らなかった事実。


「あの方に婚約者が居ることは、知っていました。でもまさか、セアお姉さまだったなんて知らなかったけれど」


 私も顔を隠して活動していたので、当然レイは知らなかった。私がシルヴェーヌで、セドリックの婚約相手だったということを。


「それで私も、ミレニア家には馴染めなくて。いつか逃げ出すために、冒険者になりました」


 彼女も私と同じく、色々と事情があって冒険者活動をしていた。実は知らない間に深い関係があったなんて、驚きだ。


 お互いに隠していたから、こうして話すまで気付かなかった。それを今日、ようやく私達は知ることになった。

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