第13話 逃亡

「おい、お前たち! 待つんだ!」

「逃がすな!」

「王子を傷つけた、犯人だぞ!」

「追えっ! 捕まえろっ!」


 会場のあちこちから、警備していた兵士達が集まってきた。彼らは、怒鳴りながら近づいてくる。私達の周りを囲んで、逃げ出せないようにしている。


「とりあえず、早くここから逃げましょう」

「は、はい。セアお姉さま」


 あの兵士達に捕まったら、酷い目に遭わされてしまうだろう。私が夢で見たような酷いこと。それは避けたい。レイも一緒に、急いで会場から離れなければ。


 彼女は王子を投げ飛ばして、気絶させてしまった。巻き込まれただけと証言しても、信じてもらえないかもしれない。


 一方的に好意を向けていたらしいセドリックなら、話を聞くかもしれない。だけどレイは嫌がったていたようだし。今回の件で、愛情が反転して憎しみに変わったかもしれない。あの人は、嫌いになった相手に対して歩み寄ろうとする気がないから。


 とにかく、まずは逃げることを考えよう。


「レイ、こっちよ!」

「はい、セアお姉さま!」


 私とレイは、その場から走り出した。主催者である大貴族の夫人が、私達を見て悲しげな表情を浮かべていた。せっかくのパーティーを台無しにして申し訳なく思う。だけど、大きな原因はセドリックにある。彼が急に婚約破棄を告げてきたから、こうなってしまった。だから、私達は許してほしい。


 そんな事を思いながら、レイと一緒に廊下を走る。


 普段から鍛えていた私達は、訓練している兵士達にも負けない程の体力があった。会場から逃げ出し、街の方へ走っていく。


 薄暗い建物の間を駆け抜けて、追手を振り切った。このあたりの道は熟知しているので、色々なルートを駆使して撒いたのだ。


「……うん。もう、大丈夫のようね」


 建物の影に隠れながら、兵士達が居ないことを確認する。


「ごめんなさい、セアお姉さま。こんな事に巻き込んでしまって」

「気にしないで、レイ。一番悪いのは、あの男なんだから。仕方がなかったのよ」

「でも」


 申し訳無さそうに謝る彼女に、私は微笑みかける。こうなることは予想していた。少しだけ予想と違っていたけれど。


「おい! そっちは、どうだ?」

「居ない! 街から出ていったのかも!」

「貴族の令嬢が、二人で夜の外に? 馬鹿なんじゃないのか」

「だけど、兵士の追跡から逃げ切ったんだぞ。油断はできない」


 そんな会話をしながら通り過ぎていく兵士達に、発見されないように息をひそめる。


 なんとか見つからずに、やり過ごすことが出来た。まだ私達の捜索は続いていた。私達を見つけ出すまで続けるつもりなのか。


 私達二人に対して、何十人も兵士が投入されている。このままでは、見つかるのも時間の問題なのかもしれない。


 とりあえず、ドレスを着替えないと。


「私の拠点に行きましょう。そこで、装備を整える」

「はい、セアお姉さま」


 引き続き隠れながら、裏路地を通って拠点に向かう。私が冒険者として活動をしている時に利用している、建物の一室。そこに、レイも連れて行く。

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