第12話 夢とは違う

「心に決めた人、ですか……」

「そうだ! お前のような女を妻にするなんて、耐えられない。俺は、彼女のような可憐で思いやりの心があって、一緒に居て落ち着ける女性と結婚したいんだ。彼女と一緒に幸せな家庭を築きたい」


 そう言いながらセドリックは、横に立っていた女性を抱きしめようとした。


「え?」


 しかし、その腕は空振りに終わる。困惑した声は、私ではなく抱きしめられそうになった彼女から発せられたものだった。


「ちょ、ちょっと待ってください。私、そんな気はありません!」

「な、なにを言っているんだロゼッタ……?」


 何故か、二人が揉めだした。私は置いてきぼりで、二人の会話を黙って聞き続けるしかなかった。こんな場面は、夢では見なかったけれど。


 でも、ロゼッタと呼ばれた彼女の声に聞き覚えがあった。


「……レイ?」


 いつもと違うメイクと服装。だけど、声と話し方には聞き覚えがある。私の知っている人物の声。レイと同じ。私のつぶやいた声に気付いたのか、彼女が振り返った。そして、目を見開く。


「なぜ、その名前を!?」


 それは、彼女がレイであることを肯定するような反応だった。少し考え込み、彼女も気が付く。


「……もしかして、セアお姉さま?」

「ええ、そうよ」


 だけど、こんな場所で出会ってしまうなんて。彼女が貴族かもしれないと思っていたが、まさかセドリックと付き合いがあることは予想外だった。


「お、お前たち何を言ってるんだ? レイ? セア? 一体誰のことだ!?」


 混乱している様子のセドリックは、私たちのやり取りの意味が分からないようだ。まあ、当然と言えば当然だろうけど。


「ち、違いますよセアお姉さま! 私、この人と結婚するつもりなんて皆無です!」

「な、なぜだロゼッタ! なぜ、そんな事を言う! その女に、なんで弁解しようとしている!?」


 どうやら、私が思っているような親密な関係じゃないようだ。セドリックが一方的に彼女に執着しているようだが。


「セアお姉さまが婚約相手だったなんて、私は知りませんでした! 知っていたら、もっと前から全力で拒否していたのに。こんな事になるなんて……」

「そ、そんな……」


 レイは必死になって結婚を否定しているが、セドリックは全く聞く耳を持たない。それどころか怒り出した。


「お前が居るせいで、ロゼッタが俺の元に来てくれないんだな! ならば、お前さえ居なくなれば彼女は俺の元へ来てくれるはずだ!!」


 そう言いながら彼は腕力に物を言わせ、私を床に押し倒そうと突進してきた。私は突進してくる彼を真正面から受け止めて、投げ飛ばそうと構える。


「セアお姉さまッ!?」

「グアッ……」

「え? レイ!?」


 私がやる前に、レイがやってしまった。セドリックの腕を横から掴むと、投げ飛ばしたのだ。そのままセドリック様は頭から倒れこみ、気絶してしまった。


「セアお姉さま、大丈夫ですか!?」


 慌てて駆け寄ってきたレイが、私の身体に抱きついてくる。彼女を受け止めながら無事を伝えた。


「えぇ。私は、大丈夫よ。だけど……」


 マズイことになってしまった。令嬢のレイが、王子を投げ飛ばして気絶させてしまうなんて。こんな展開になるなんて、予想外だった。

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