第11話 夢に見た日

 とうとう、その日がやって来た。待ち望んでいないのに、いつか来るだろうと予感していた日が。


 今朝から、妙な胸騒ぎがしていた。何かが起きる前兆のような気がして、落ち着かなかった。


 夕方から始まるパーティーに婚約者と参加する予定があった。その予定をキャンセルしたいと思ったが、残念ながらそれは出来ない。行くしかないから憂鬱だった。


 ドレスに着替えて、馬車で迎えに来た婚約者と合流する。


「……」

「……」


 挨拶もなく、お互いに無言のまま馬車に乗り込んだ。そして会場へ向かう。今日は、とある大貴族主催のパーティー。セドリック様以外の王族も参加して、貴族も大勢参加しているらしい。


「ようこそ、おいで下さいましたセドリック様」


 到着すると、主催者である大貴族の当主と夫人が出迎えてくれた。私達を見て微笑む夫人。


「招待してくれてありがとう。とても楽しみにしていたんだ」


 セドリック様が笑顔を浮かべてそう言うと、夫妻も嬉しそうな顔をした。


「さぁ、どうぞこちらへ……」


 促されて中へ入ると、そこには大勢の人がいて賑やかだ。立食形式のパーティーなので、皆自由に食事をしている。


 エスコートもそこそこに、婚約者が離れていく。いつものように彼は、さっさと自分の友人のもとへ行ってしまった。


 パーティー会場に一人で居るのは、もう慣れてしまったので苦痛じゃない。そんなことより、このまま何も起きずに早く終わってほしい。そう願った。しかし――。


「シルヴェーヌ、君に大事な話がある」

「……」


 しばらく時間が経って、パーティーの中盤。突然、セドリック様が戻ってきて私に話しかけてきた。


 パーティーの最中に話しかけられるなんて、非常に珍しいこと。しかも大事な話があるなんて言われて、嫌な予感がする。しかも、彼の横に見知らぬ女が立っている。でも、どこかで見たことがあるような顔。けれど、思い出せない。


「おい」


 これ以上はセドリック様の呼びかけを、無視するわけにもいかない。面倒だけど、答える。


「……なんでしょう?」

「婚約破棄だ」

「え?」

「シルヴェーヌ、君との婚約を破棄する!」


 そう言われた瞬間、夢で見た場面がハッキリと脳裏に蘇った。


『シルヴェーヌ、君との婚約を破棄する!』


 あの悪夢と同じ言葉を、セドリック様は私に言い放った。ハッキリ聞こえたから、聞き間違いじゃないだろう。


「どういうことですか? いきなりそんなことを言われても困りますわ」

「俺には心に決めた人ができたんだ! だから、お前とは結婚できない!!」


 彼の声が、会場内に響き渡る。周囲の人たちが何事かと、こちらを見ていた。

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