第10話 運命の相手との出会い ※セドリック視点
彼女と出会ったのは、とあるパーティーでのことだった。婚約者と一緒に居るのが嫌だったので、さっさと別れて一人で会場をうろついていた。
その時、ふと目に入ったのが彼女だった。知り合いではない。今までのパーティーでも会ったことのない子だった。学園でも見たことがない。
どこかの令嬢がパーティーの最中にパートナーも連れず、一人ぼっちで外の景色を眺めている。そういう人も会場には居るだろうが、妙に気になった。
「どうかしたのか?」
「え?」
なんとなく話しかけていた。見知らぬ彼女は、驚いた顔をして俺を見上げてくる。その顔を見てすぐに分かった。あぁ、これは無理をしているな、と。綺麗なドレスを着ているし、化粧もしているから一見すると分からない。だけど、よく見ると表情が強張っていたのだ。
何かあったのだろうか? そう思いつつ話し続ける。
「こんなところに一人で。パートナーは一緒じゃないのか?」
「お父様と一緒に来ました。でも今は、他の方々と挨拶しに行かれたところです」
彼女の言葉を聞いて納得する。なるほど、それで彼女は一人で居たのか。しかし、娘を放っておいて良いものなのか。
俺は、父親の立場ではないから何とも言えないが……。そんなことを考えながら、彼女の横に立って一緒に景色を眺める。
「いい景色だな」
「はい」
「こういう場に来るのは初めてなのか?」
「初めてです」
「そうなのか。それじゃあ、慣れないだろう?」
「少しだけ……」
話しかけると返事をしてくれる。しばらく会話が途切れた。だけど不思議と沈黙が苦にならない。
黙ったまま二人で一緒に外の景色を眺めていると、彼女がこちらを見た。それから唐突に口を開く。
「あの……、どうして私に声をかけられたんですか?」
それは、もっともな疑問だった。確かに初対面なのだから。普通なら話しかけずにスルーするべき。特に、俺のような立場であれば。だからこそ、理由を説明する。
「なんとなく、かな。君が一人だったから。迷惑だったか?」
「いえ、そんなことはありませんけど……」
それからまた、二人の間に沈黙が流れる。だけど先程とは違って、お互い気にしていないようだった。それからしばらくして、俺は彼女に聞いた。
「君は普段、どんなことをして過ごしてるんだ?」
「……普段ですか? 本を読んだりしています。後は、刺繍をしたりとか」
「へぇー、手先が器用なんだな」
「いいえ、器用じゃありません。それぐらいしか趣味がないので」
「いやいや、凄いよ。俺には出来ないからな」
「ありがとうございます」
褒められて嬉しかったのか、彼女の表情が和らいだ気がした。その後も他愛のない話を続けていると、やがて彼女の父親が迎えに来た。
名残惜しくはあったが、引き止めるわけにもいかない。彼女の父親と少しだけ話して、彼女とは最後に一言二言交わした後に別れた。
それが、彼女との最初の出会いだった。ちょっとした出会い。名前も聞かないまま別れたので、それきりで終わる関係だろうと思っていた。
次に彼女と出会ったのが、学園の廊下。
「君は」
「せ、セドリック様! この前は、申し訳ございませんでした! 貴方のことを何も知らないまま、王族の方に対して本当に失礼なことばかり言ってしまって!」
いきなり謝られる。どうしたのだろうと思っていると、彼女は勢い良く何度も頭を下げてきた。
「私は、無知だったことを自覚しました。だから二度と、王族であるセドリック様にあんな真似はいたしません。許していただけますでしょうか!?」
「ちょっと待て。俺は、何も怒っていないぞ」
話を聞くと、どうやら俺が王子だということを知らなかったらしい。それで、態度が悪いと思っていたようだ。なるほど、それでか。
別に、そんな失礼な態度ではなかった。彼女の中では、失礼を働いたと思っていたようだが。
そういえば、パーティーに参加するのも初めてだと言っていた。社交界に出て間もないということだろう。ならば仕方がないと思う。
「俺の方こそ悪かったな。自己紹介していなかったから」
「そ、そんなことないです! 私が何も知らなかっただけですからッ!」
「そうか。なら、謝罪の代わりに君の名前を聞かせてくれないか?」
「は、はい! ロゼッタ・ミレニアといいます。どうかよろしくお願いします!」
「分かった。これからは仲良くしよう。同じ学園に通う、生徒同士として」
「ははい!!」
こうして俺は、ロゼッタと知り合いになった。彼女は謙虚で真面目な性格だった。一緒に居ると楽しくて、とても可愛らしくて、魅力的な女の子でもあった。
だから気がついた時には、俺はロゼッタを好きになっていた。
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