第9話 俺の婚約相手 ※セドリック視点

 婚約者のシルヴェーヌと初めて出会ったのは、5歳か6歳の頃だった。


 その時の婚約者との初めての出会いを俺は、あまりハッキリとは覚えてはいない。だけど、両親に無理やり連れて行かれて面倒だと思った。それだけは、なんとなく記憶に残っている。


 その頃のシルヴェーヌは、可愛らしかった。とても無邪気で、明るくて、元気な女の子だったと思う。


 でも、その印象は俺の記憶違いなのかもしれない。今の彼女から、そんな雰囲気を微塵も感じない。今のシルヴェーヌは、全く逆だった。せっかく美しくなったのに、無口で、陰気だった。それで台無しである。


 常に、他人を寄せ付けない冷たいオーラを放っていた。まるで氷の彫像みたいだと、誰かが言っていた。俺も、そう思う。


 定期的に行われる顔合わせの席で、彼女はいつも俺を睨みつけるようにして見てくる。そして、何も言わずに向かい合って座ったまま。この時間、いつも息が苦しくてツラい。


 誰が見ても分かる通り、俺達の関係は最悪だった。


「お前はいつも、不機嫌そうだな」

「……」


 話しかけても無言を貫いて、俺の発する言葉を聞いているのかすらも分からない。ただひたすら、こちらを見つめ続けるだけ。気味が悪かった。


 彼女が何を考えているのかも、よく分からない。なんで、こんな事を続けるのか。


 向こうから歩み寄ろうとする気もないようなので、俺はもう必要以上に彼女を構うことは止めた。婚約者だが、仲良くなることを諦めた。頑張っても無理だろうから。


 あんな女と結婚した後の生活など、想像したくない。そもそも結婚する意味があるのか疑問を抱いてしまうほど。だけど、親が決めたことだから仕方がない。


 俺達が結婚するのは、お互いのためじゃない。両親や王国のためなんだ。そう思うことにして、俺はこの婚約をなんとか受け入れる。


 それでも、嫌なものは嫌だ。

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