第8話 親密に
「たまには、遊びに行きましょう!」
「え?」
突然、レイがパンと手を叩いて音を鳴らした。良いアイデアを思いついた、という感じの笑顔で彼女は言った。私は困惑する。
パーティーを組み、一緒に活動するようになった彼女が急に、遊びましょうと提案してきた。だけど任務を受けにギルドへ来たのに、いきなり何を言っているのよ。
「でも、仕事をしないと」
「いいえ、ダメです! いつも仕事ばっかりで、きっとセアお姉さまは疲れています。少しは休まないと」
「でも……」
確かにここ最近、休みらしい休みを取っていないことは事実だ。だが、令嬢生活の合間に鍛えたり、冒険者の活動をするためには時間を無駄にしたくない。
「だって! セアお姉さまと出会ってから、一度も遊びに行ってないんですよ!」
「まあ、それはそうね……。でも」
彼女と会う時は、仕事をするか修行する時だけ。それ以外に、何かした記憶はない。だとしても今は、遊ぶ暇などないだろう。私もレイ。
「生きるためには気分転換が絶対に必要です。だから行きますよ! 今すぐ!!」
「え? ちょっ……!?」
彼女は私の手を引いて、露天商が集まる広場の方へ連れ出した。抵抗しようとも思ったけど、彼女の笑顔を見てそんな気はすぐに失せた。
「最近、とっても美味しいお菓子を売っているお店がある、って噂を聞いたんです。それを食べてみましょう! セアお姉さまも、きっと気に入りますよ」
(……まあいいか)
たまには、息抜きをしてもいいだろう。私は、彼女と一緒に休日を過ごすことにした。
***
レイが噂で聞いたというお店に行ってみた。その後にも露天商を巡って、髪飾りやアクセサリーを眺めてみたり。掘り出し物の剣や防具などを二人で見付けたりして、久しぶりの休日を楽しんだ。
そういえば、こんな穏やかな時間を過ごしたのはいつ以来だろうか。少なくとも、冒険者として活動を始めてから休んでいないような気がする。ということは、何年も前から休んでいないのかしら。
令嬢生活でも冒険者の活動をしている時も、気の休まるような時間は無かったかもしれない。特に、婚約相手のセドリック様と一緒にいる時には疲れてしまう。だけど気を抜けない。社交界では、そんな相手ばかりだった。
だから、一緒にいても息苦しさや苦痛を感じない相手というのは彼女が初めてだ。もしかしたら、彼女のような存在が友人というのかしら。だとしたら、私にとっては初めての友人。
「ふぅ……。楽しかったですね、セアお姉さま」
「そうね」
夕暮れになり、私たちは帰路についていた。日が沈むまで遊んでいたせいか、レイはとても満足そうな顔をしている。満足するまで遊んで、まるで幼い子供みたいね。
「またいつか、一緒に遊びたいです」
「……うん」
こんな穏やかな時間を過ごすのも、たまには良いかもしれない。私は、そう思うようになった。それに気付かせてくれたレイには、感謝しないといけないわね。
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