第7話 稽古
森の中で、レイと私は向かい合っていた。剣先を私の方に向けつつ、彼女は攻撃を仕掛けるタイミングを狙っていた。
覚悟を決めて斬りかかってきたので、それを私は軽く受け流す。良い太刀筋だわ。彼女の剣さばきを見て、素直にそう思った。
「なかなか、やるじゃない」
「ッ! ありがとうございます、セアお姉さま!」
ギルドで引き受けた仕事が予想以上に早く終わって、かなり時間に余裕があった。そして、なんとなく始まったレイとの模擬戦が思った以上に白熱していたのだ。
「もっと、真っ直ぐ立つ意識を持って。常に、姿勢を正して」
「はいッ!」
「姿勢が崩れた時は、地面に足を突き刺すような感覚で。決して倒れないように」
「っぐ! ハイッ!」
戦いの最中に、私は手合わせしているレイに色々とアドバイスする。それを聞いて彼女は、戦い方を修正していく。短時間で一気に、彼女は成長していた。
お祖父様と一緒に剣術の腕を磨いていた頃のことを、私は思い出した。あの頃は、とても楽しかった。どんどん成長して、強くなる瞬間を感じるのが嬉しかった。
彼女の剣の振り方は、まだまだ荒削り。体捌きだって全然で、素直に真っ直ぐ剣を振っているだけに見える。
だけど、レイに稀有な才能を感じていた。身体能力が高く、戦いのセンスもある。そしてなにより、私の動きに必死についてこようとしている姿勢が素晴らしいのだ。
「でも、まだまだ甘いわね」
「はぁ、はぁっ……。精進、します」
彼女の体力が限界のようなので、手を止めた。すると彼女は、膝に手をついて休憩する。かなりキツかったようだ。
レイは額に浮かんだ汗を拭いながら、悔しそうな表情を浮かべて返事をした。
とても良い顔してるわね。彼女を鍛えたら、とても面白そうだなと思った。思ってしまった。
お祖父様も、今の私と同じような気持ちだったのかしら。誰かを鍛えるというのは、とても楽しいことなのだと私は初めて知った。
「ねぇ、レイ?」
「はい、何でしょうか?」
呼吸を整えているレイに話しかけると、彼女は嬉しそうな笑顔を見せてくれた。
「貴女さえ良ければなんだけど……。私が、あなたの師匠になってもいいかしら?」
「え? あ、あの……」
突然の提案に戸惑うレイの表情を見て、すぐに後悔する。こんな事を言うつもりはなかったのに。お祖父様と過ごした時間を思い出して、感傷的になってしまったようだ。
私は、なんて馬鹿なことを言ってしまったのかしら。いつも一人で過ごしてきたじゃない。今更、誰かと親しくなろうだなんて変だわ。
「ごめんなさい。変なこと言ったわね。この話は忘れてくれていいわよ」
剣の師匠になってあげる、だなんて愚かな提案をしてしまった自分に対して苦笑しながら、その話は無かったことにしよう。そう言った瞬間。
「いえ、待ってください! お願いしますッ! 私の師匠になってください!!」
「……本当にいいの?」
「もちろんです! セアお姉さまが良いんです!」
「そ、そう! それじゃあ、よろしくね、レイ」
「はい! よろしくお願いいたします!」
レイは、とても嬉しそうな笑顔で受け入れてくれた。その反応を見ていると、私も心が軽くなる。そして、これからの事を考えてワクワクしてきた。
まさかの展開になったけど、これで良かったと思うことにしよう。私がレイを育ててみたくなったから。そして、彼女も鍛えてほしいと言ってくれたから。
それからしばらく彼女と手合わせをして、その日は時間の許す限り訓練を行った。その後、ギルドに戻った。任務完了の報告をするために。
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