第6話 面倒な輩

 ある日、冒険者ギルドへ仕事を探しに来るとレイが居た。彼女は、他の冒険者達に囲まれて勧誘されている最中だった。


「なぁ、俺達と組もうぜ。一人で仕事するよりも、絶対安全だろ」

「そうよ! それに私達のパーティーはCランクのメンバーが揃っていて、貴女より実力が上なんだから。新人の貴女に色々と教えてあげるわよ!」

「実力がある俺達と一緒に活動すれば、君も強くなれるぞ。どうだ?」

「あ、あの……。えっと……」


 彼女たちの会話が聞こえてくる。勧誘を断れないレイに、詰め寄る冒険者達。ただCランクの実力程度であれば、すぐに追い抜かれそうだと思った。それぐらいの才能が、レイにはある。だけど、余計な口出しはしない。


「ほらほら、遠慮しないでさぁ」

「あの……、すみません。お断りします」

「断る? まさか冗談よね?」

「俺達の誘いを断るなんて、良い度胸してるな?」

「断ったら、どうなるか分かっているんだろうな!?」

「え? ……で、でも」


 面倒な奴らに絡まれているなぁ。しかも彼女、ちゃんと断れないようだ。ギルドの職員たちも、助けに入らないようだし。ここで見捨てるのも気分が悪い。偶然、話を聞いてしまったから仕方ない。私が助けるか……。本当は、関わりたくないけれど。


 私は、面倒な奴らに絡まれているレイの前に立った。


「この子、嫌がってるわよ。嫌がっている相手に無理強いは止めなさいよ」

「あ、セアさん!」


 背中から、彼女の嬉しそうな声が聞こえる。貴女も、ちゃんと自分で断りなさいよ。そう言ってやりたいが、まずは目の前の奴らをどうにかするのが先ね。


「何だよ!? 邪魔すんのか、セア?」

「えぇ、邪魔するわよ」


 私は、腰に差していた剣に手を添えながら言った。それを見た男達が、顔を見合わせてヤバいと呟いた。冒険者は実力主義なので、私が本気になれば、自分達では敵わない事を理解しているようだった。


「……チッ!」

「……糞が」

「……邪魔な女ね」


 小声で、ぶつくさ言う彼ら。ハッキリ聞こえているのよね。


「何か言った?」

「「「何も言ってない」」」


 彼らは悪態をつきながら、そそくさとその場から離れていった。


「ありがとうございます、セアお姉さま!」

「……お姉さま?」

「はい! セアお姉さまです!!」


 懐かれてしまったみたいだ。彼女に好かれるために助けたわけじゃないのに。


「そんなことより、面倒な勧誘なんてさっさと断りなさいよ。嫌だったんでしょ?」

「はい。でも、どう断ったらいいか分からなくて困っていたんです」


 昔を思い出した。私も、新人だった頃に勧誘された。面倒だったので断っていたら相手が逆上して、決闘を申し込まれた事があったのだ。結局は、相手が負けを認めて去ったのだが、それ以来あまりしつこく絡んでくる人は居なくなった。


 まぁ、その時に相手のパーティーメンバーをボコって半殺しにした、だなんて噂が流れてしまったせいもあるけど……。


 あれは、相手の方が悪かった。下品な男で、無茶苦茶だった。だから、反省させるためにやったのよ。理由がなければ、あんな事はしない。


 私のように、相手を怒らせて事件になるような断り方をしなければ大丈夫だろうと思うけど。


「じゃあ、次からはハッキリと断わりなさい。分かった?」

「分かりました。ところで、今日は何の依頼を受ける予定ですか?」


 答えたくないわ。だけど、私が答えなければ前のようにしつこく聞いてきそうね。だから観念して、私は彼女の質問に答えた。


「……特に決めていないけど、適当に良さそうな依頼を探すつもりよ」

「私も一緒に、行っていいでしょうか?」


 一緒に? 前は受け入れたけど、今度はダメよ。私は、ちゃんとハッキリ断れる女なんだから。


「……嫌よ。私は、いつも一人で活動してるんだから」

「そこを何とかお願いします!」


 また、しつこく縋ってくる。何度もお願いを繰り返して。


「ダメだってば……」

「お願いします、セアお姉さま!! 邪魔はしませんし、お姉さまの言う事は絶対に聞きますから!!!」

「…………」


 何でそこまで必死になるのよ。私以外に、他の冒険者達とパーティーを組めば良いのに。どうして、私なんかにこだわるのか。


「どうしても、ダメなんですか……?」


 涙目になって訴えてくるレイを見て、少しだけ心が揺らいだ。普段の私なら絶対に断っている。だけど、何故か断れなかった。


 こうなるかもしれないと分かっていたから、助けなければよかったのよ。さっきの場面で見捨てることが出来なかったから、こうなってしまった。だから、仕方ない。


「……分かったわよ。その代わり、私の言う事は絶対に聞いてもらうわよ」

「ありがとうございます、セアお姉さま!」


 こうして私達は、再びパーティーを組むことになった。まさか、彼女と生涯を共に活動するパートナーになるなんて、この時は思いもしなかった。

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