第3話 婚約相手との関係
今日は、婚約者のセドリック王子と顔合わせのお茶会が行われる日。約束の時間に訪れると、不機嫌そうな表情の彼が待ち構えていた。
「失礼します」
「……」
とても豪華に装飾された部屋の中にあるテーブルに、私と彼は向かい合って座る。だけど彼は返答もなく、視線も合わせようとしない。この時間が苦痛だと、アピールするような表情。
何も言わず席に座った私は窓の外を見ているし、彼も私から視線を逸らして部屋の隅を見つめている。普通なら気まずい状況だけど、いつも通りで慣れてしまった。
「……」
「……」
何の会話もないまま、無言の時間が続く。
しばらくすると、ノック音が聞こえて一人のメイドが部屋に入ってきた。
「失礼します。本日のお茶菓子をお持ちいたしました」
「ありがとう」
彼女が持ってきたのは、美味しそうなケーキだった。こんな、雰囲気の悪い部屋に運ばされるなんて、彼女も可哀想に。運んできてくれたメイドに同情する。
目の前に置かれたのはイチゴやラズベリーなど、たくさんのフルーツが乗っているショートケーキ。テーブルの上に置くと、すぐに退出するメイド。
そして、また二人だけの重々しい雰囲気の空間。
何の会話もない。目の前に置かれたケーキも手を付けない。これを食べたら、何を言われるか分からないから。彼に文句を言われると面倒なので、私は何もしない。
何もしなくても、文句を言われることが時々あった。なので、この抵抗は無駄なのかもしれないけれど。
ちらっと、セドリック様が私の顔を見た。そして、口を開く。どうせ、私を責めるような嫌味だろうと予想する。
「お前はいつも、不機嫌そうだな」
「……」
ポツリと、つぶやいたセドリック様。口を開いたと思ったら、そんなことッ!? しかも、不機嫌そうって……! それはこっちのセリフよ!! 私は顔には出さずに心の中で悪態をついた。
「……何か言ったらどうなんだ?」
「……」
何も言いませんけど? 私が口を開いたら、絶対に面倒なことになるのが明らかなので。
「ふんっ、可愛げのない女め!」
……あなたが、それを言うんですね。そう返してやりたかった。だけど、我慢して口を閉じる。
まあでも、私も人のことを言える立場ではない。あの夢を見てから希望を持つことを止めてしまったから、私の方からも歩み寄ろうと思っていないので。この関係は、改善する可能性は無いだろう。
婚約者と仲良くなろうという努力なんてしていないし、婚約者として最低限の義務を果たすだけでいいと思っている。
婚約相手に決まった時は嬉しくて、舞い上がっていたのに。それも一瞬だけだったのを、私は今でも覚えている。
出会った時から私のことを嫌いだったセドリック様。夢で見たように、他の誰かを好きにならなければいいけれど……、こんな関係が続いていれば無理よね。私だって逆の立場なら、嫌になる。
いつか、その日が来てしまう。だけど、対策しようとは思わない。彼が歩み寄ってくるまでは、私から歩み寄るなんて嫌だ。
こうして今日も関係は改善しないまま。何の成果も得られずに、お茶会はお開きになった。
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