第2話 強くなるために

 私が10歳になって、指導してくれていたお祖父様が亡くなった。


 両親や兄弟姉妹との関係も更に悪化した。お祖父様が亡くなったのは、私の修行に無理して付き合っていたからだと責められた。


 私は、そんなことないと反論したかった。だけど、出来なかった。


 お祖父様が亡くなった時、とても悲しくて心が弱っていた。両親から言われた通りで、私のせいでお祖父様が死んでしまったのかもしれないと。罪悪感があったから、言い返すことが出来なかった。


 そんな罪悪感から逃れるために、私は一人になっても必死に腕を磨き続けた。強くなるために。




 修行の一環として実戦も経験しておきたいと考えた私は、冒険者になった。


 顔と名前と身分や年齢も隠し、ギルドに登録したのだ。幼い頃から鍛えてきたから問題なく、任務をこなせた。そして、気付いたらAランクの冒険者になっていた。


 Aランクの冒険者とは、ギルドから認められた数少ない実力者。そのギルドにも、数名しか居ない。実力を認められて、その中に私も入ることになった。


「セア、新しい任務だ」

「はい……」


 セアというのは、私が名前を隠して活動するために使っている偽名である。ここに居る者たちは誰も、私の本名を知らない。


「今回の任務も、かなり危険度が高い。それでも受けるか?」

「受けます」

「そうか、わかった。期待している」


 いつも通り、ギルドマスターから任務を言い渡された。モンスターの討伐だった。今回も危険な任務らしい。私は即答で受けた。今までも危険な任務ばかりだったし、私は大丈夫だと思った。そして、予想した通り何の問題もなかった。


 すぐに仕事を終えて、ギルドの建物に戻る。ギルドマスターに任務完了したことを報告した。


「よくやってくれた。しかし……」

「何か問題が?」


 すると、ギルドマスターが何か言いたいことがあるみたいだった。聞いてみると、彼は口を開いた。いつも聞いている話だった。


「いつも、一人で任務を遂行しているが……。パーティーを組んだりしないのか? 君ほどの実力があれば、引く手数多だろう」

「いえ、必要ありません」

「なぜだ?」

「仲間なんか必要ないからです。私が欲しいものは、強さだけです。強さだけあればいいんです」


 仲間になったら、身元を探られる可能性がある。そうなったら面倒だろうから。


 それに、仲間が居なくても任務は問題なく達成出来ている。むしろ、私には単独の方が都合が良い。そもそも、冒険者の活動は私の修行の一環なのだから。


 ギルドマスターは、他の誰かと組ませたいようだ。どうして、そう考えているのか分からないけれど。


 私は、私のしたいようにする。ただ、それだけ。仲間など要らない。それが、私の考えだった。


「だが、それではいずれ限界が来るぞ。いつまでも、一人でいるわけにもいかないだろう」

「大丈夫です。まだまだ強くなれます。私は強くなりたいのです」

「君は……。それでいいのか?」

「はい、構いません。それが一番良いと思っています」

「……そうか、ならこれ以上は何も言わんよ」


 そう言うギルドマスターだったが、多分また言ってくるだろう。面倒だと思うが、そのたびに断り続ける。彼が諦めるまで、ずっと。


 私は強くなるために、冒険者を続けている。強くなることが最優先の目的だから、仲間なんて要らない。一人が辛かったとしても目的のために、ひたすら努力するしかないんだ。あの夢のように、ならないために。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る