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「あんた、異能者ストレンジャーなのか?」

「さっきも言ったが、それは知らない。よくわからないんだ」

「麻酔がどうのこうのと言ってたな。さしずめ医者の異能者ストレンジャーってところか?」

異能者ストレンジャーかどうかは知らない。ただ、前に医療の仕事はしていた」


 エバは、アサヒにあるDX大学病院を辞め、新たな土地で再出発をしようと決め、とりあえずこのフジテに来ていたのであった。


「あんた、名前は?」

「まずあんたが名乗ったらどうだ?」

「それは失礼。オレはマサヒ。マサヒ・センターステイだ」

「オレはエバ。エバ・ゲリオ」

「エバか。エバ、あんたみたいな人に会えたのは幸運なのか不運なのか・・・」

「なんだ唐突に。失礼じゃないか?」

「ああ、いやすまん。実は診てもらいたい子供がいるんだ」


エバは、面倒に巻き込まれるのはごめんだな、と思った。


「悪いけど、他を当たってくれないか?」

「他はあたった。村の医者だ。死んだように眠っているが、生きている、とだけ言われた。あとはわからないそうだ」

「じゃあ寝てるだけじゃないのか?」

「それが、数日目が覚めない」

「じゃあ、意識不明なのでは?」

「それが、そういうわけでもないらしい」


 医療に携わっていた人としての好奇心が沸いた。が、面倒に巻き込まれるのも避けたい。悩んだエバだったが、マサヒの次の一言で決まった。


「ただとは言わない」


 貯金はあったが、失業中の彼にとって、収入があるに越したことはない。たいていの病気は治す自信が、いや、確信が彼にはあった。


「いいよ、診るよ。どこにいるんだ?」

「オレの村、イトモイだ」


 イトモイはフジテからはずれた小さな村だそうだ。マサヒはそこで猟士をしているといった。


「猟で森に入った。いつもより深い場所まで行って、さすがに引き返さなきゃまずいかな?ってとこまで行ったら、その子供が倒れていたんだ。もうあたりも暗くなり始めていたから、とりあえず、担いで村までつれていった。次の日目が覚めるかな?と思ったんだが、目を覚まさない。ひとまず村の医者にみせたら、死んだように寝ているだけにしか見えないって言われたんだ」


 マサヒは都会の大きな病院で診てもらおうと思ったが、寝ている子供を動かしたくなかったので、診に来てくれる医者を探しにフジテに来たのだそうだ。が、やはり来てくれる医者というのは、そういなかった。一杯やってからホテルに帰ろうとして居酒屋に寄ったときに、エバを見つけたのだそうだ。


「エバ、今日はどうするんだ?」

「オレも今日はホテル泊まりだ。明日から住居を探そうと思っていた」


 エバはこのフジテに住みたいな、と思えたら、ここで生活をしようと思っていた。引っ越しの下見である。そして引っ越したら、医者になるのはもう止めて、違う職業を探そうとも思っていた。


「そうか。今日はもう無理だから、明日、オレとイトモイに来てもらえるか?」

「わかった。どうすればいい?」

「仕事はいいのか?」

「実は今、失業中だ」

「それは好都合だ。あいや、失礼。明日の朝、ホテル・ダイバーに来てくれ」


 都市であれ、観光地であれ、ホテルはたいてい、ホテル街にまとまって存在する。ホテル・ダイバーはすぐ近くだった。


「わかった。では明日」


 マサヒとはそこで別れた。たいていの病気を治す確信のあるエバにとって、子供を診ることはそれほど問題ではない。問題は、これからどういう仕事を探し、どう生きるかだった。


「まったく、なんでこんな感じに生まれついたかねえ。まあいいか。数日目が覚めないか。ちょっとむずかしい病気だといいな。それなら高めに料金をもらおう」


そんなことを考えながら、眠りについた。それは、彼の皮算用だった。

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