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 職業人の庭ワーカーズ・ガーデンにおけるGRP(域内総生産 (Gross Regional Product) )第4位、興行都市フジテ。かつてエンターテインメント業で街を活性化させ、役者、歌手、芸人等々を目指す人が、老若男女問わず多く集まり、職業人の庭ワーカーズ・ガーデン1の栄華を誇っていた。しかし、時代が、過激な演出や、騒がしいお祭り騒ぎを嫌うようになっていくと、フジテで行われるあらゆる興行に批判が集まり、フジテは規制をかけざるをえなくなり、フジテらしさはどんどんと色褪せていった。加えて、役人の怠慢、汚職、経済政策の失敗などで、今ではGRP第3位都市のテビエスと競い合うまでになるばかりではなく、足元には、発展めざましいGRP第5位都市のテトーレが迫っていた。この都市の凋落はだれの目にも明らかだった。今、この都市の底力が試されていた。衰退しているとはいえ、いまだ大都市のフジテには、ある者はビジネスで、ある者は職を求め、ある者は観光で、今でもそれなりに人が集まる。フジテの歓楽街にある居酒屋「あんびばぼ」で、エバは、数人の男と向かい合っていた。

 向かい合っていたといっても、談笑しているわけではない。睨み合っているのだ。理由は単純にして明快で、野郎がメンチを切ってきた、その程度のものだった。肉体労働系の人が集まる場所でしばし見られる、なんのことはない風景だった。しかし、睨み合っているエバは痩身だ。とてもケンカが得意そうには見えない。肉体労働系の数人のうちの一人が言った。


「おめーの風貌で俺たちにケンカを売るのは度胸があるとは言わねえ。大丈夫か?自分をちゃんとわかってるか?間違いなく無事には帰れなくなるぞ?俺たちは構わねえけどな」


エバは返す。


「いや、睨んでたわけじゃない、見てたんだ。一番強いあんた、今糖尿病だろう。それなのにこんなとこで酒飲んで。悪いことは言わない、今すぐ帰って、今後酒は飲まないほうがいい。ついでに糖質制限もしたほうがいいだろう」

「親方・・・」


 エバには、よくある病気なら、人の顔を見ただけで判断することができた。たまたまいた肉体労働者の親方と呼ばれた人物の顔を見て、初期の糖尿病と判断し、家に帰って静かにしていればいいものを、と、じっと見てしまったのであった。親方の体は、どちらかと言えば筋肉質というより、脂肪の方が多そうな体つきであった。


「な・・・な・・・何を抜かしやがる・・・そんなわけねえだろうが。か、仮にそうでも、てめえには関係ねえだろう!」

「親方、そうなんですか?」

「やかましい、クソガキ、その生意気な口閉じてやる!!」


 親方と言われる人物が、エバの胸倉をつかみかかった。が、エバが親方の腕に触れたとたん、バチバチという音と共に小さな雷のようなものが発生し、親方のつかみかかった腕が、だらんと下がった。


「全身麻酔だと倒れて動かすのが面倒だから、局所麻酔で勘弁してやるよ」

「うおおお!左腕の感覚がねえ!てめえ、今なにをした!!」

「親方!!!」


男たちが身構えた、すると遠くから、


「あんたら、そこまでにしてくれ。」


 と声がした。店の店主だった。白髪頭の初老の男だった。癖なのか、時々首を傾げるような仕草をした。見た所、特に何かの病気ではない、エバは見て取った。


「ここには色んな人が来るが、今みたいなのはそう滅多に見ねえ。常識では考えられない出来事だ。あんた今の、異能ストレンジだろ」

異能ストレンジ!!!ってことはてめえ、異能者ストレンジャーか!」


 他の客もざわざわし始めた。はじめて見るよ、とか、ホントにいるんだ、とか口にしている。「なんて日だ!」などといった叫び声も聞こえた。


「知らないね。俺は自分でそう名乗ったことはない」

「おい、今麻酔っつったな。これはそのうち治るのか?」

「ああ、ほっとけば2、3時間で元に戻る」

「そうか。おいお前ら、やめだ。店変えるぞ。こんなのに関わりたくねえ。酒がまずくなる」


男たちは店から出て行った。


「お客さん、御代はいらない。悪いがあんたも出て行ってくれないか」


 店主が言った。周りをみると、数人の客が帰り支度を始めていた。痩身の男にとってその状況は、人生で何度か体験したことのあることなので慣れていた。


「親切で忠告したのに。はいはい、どうもすいませんねえ」


エバは店を後にした。店の方から、


「シタラ!ヒムラ!アヤメ!今日はもう店仕舞いだ!」


 という声が聞こえた。今日はもう閉店するらしい。随分嫌われたものだ、エバは溜息をついた。店を出て少し歩いたところで、後ろから声がした。


「ちょっと待ってくれ。」


見ると、農業者風の男だった。

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