Down to strange days

1

 職業人の庭ワーカーズ・ガーデンにおけるGRP(域内総生産 (Gross Regional Product) )第2位、医療都市アサヒ。優れた医療技術で都市を活性化させ、GRP第2位まで上り詰めた都市である。少し昔に、職業人の庭ワーカーズ・ガーデンにウイルスが蔓延したことがあった。最初、アサヒは各都市に協力的であり、ウイルスに感染した人々の受け入れや、医療技術の共有などを積極的に行っていた。しかし、ウイルスの感染速度があまりにも早く、アサヒ内の病院でも院内感染が度々起こり、危うく医療崩壊を迎えるような状況となった。医療都市アサヒをもってしても、そのウイルスの対抗処置を容易に見つけることが出来なかったのである。そこで時の女市長トト・ブラックは、止む無く『鉄の部屋政策』(Policy of the iron chamber)を発動し、都市を閉鎖してしまった。職業人の庭ワーカーズ・ガーデンの真ん中に位置するこの都市は、岩山に囲まれていたこともあり、他の都市の人々はアサヒに入ることが出来なくなり、ウイルス以外の難病で、アサヒに行けば治ると言われた病気も治せなくなり、大いに困った。当然、他の都市では多くの死者が発生し、職業人の庭ワーカーズ・ガーデンそのものの崩壊危機が訪れていたのであった。しかしその間、アサヒも何もしていなかったわけではなく、ウイルスへの対抗措置として、ワクチン開発にいそしんでいた。そして、ワクチンが完成し、臨床試験も済ませ、さあ、これから世界を救うぞ、というときに、ちゃっかりワクチンの特許を取得し、他の都市では製造できないようにした。当然、他の都市はワクチンをアサヒに頼るほかなく、結果、アサヒはそのワクチンで大儲けをしたというのが、このアサヒがGRP第2位まで上り詰めた経緯である。人々のピンチは、ビッグビジネスチャンスでもあるのである。今ではウイルスに感染しても重症化することを抑えることができるので、アサヒは都市封鎖を解除し、人々の往来は以前のようにできるようになっている。

 そのアサヒ内に、DXディーエックス大学病院という巨大な病院があった。例のウイルスが大流行したときに、ワクチンの共同開発に参画した病院の一つである。その病院で、一人の男が働いていた。男の名は、エバ・ゲリオ。痩身で髪型は真ん中分け、どこか疲れているような顔立ち。エバ・ゲリオは、今は不定愁訴外来で働く勤務医であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る