異能者(ストレンジャー)
春野日差
Prologue
あらゆる
その世界で、神がかり的に常識を超えた能力を持って生まれた者達がいた。
人々は彼らを、「この世界の異邦者」という意味を込め、こう呼び恐れた。
―
人が道具など使わなければ、文明など発展しなければ、人はもっと平和に暮らしていけたのだろうか。だが、人のもつ欲や好奇心が、そうさせなかった。文明が発展してしまった今、その答えを出せる者はいない。
老人と少年は、森に囲まれたその地で、農作物を作ったり、野生のシカなどを捕まえたりしながら、自給自足の生活をしていた。老人は、祖父だと名乗った。両親は事故で死んだとだけ聞かされた。少年には、森で生活する以前の記憶がなかった。老人は、そのうち思い出す、とだけ言った。少年は老人から、森の外には街というものがあり、人が沢山生活しているが、とても恐ろしい所であると聞かされていた。それは まるで、少年を外の世界から隔離するかのようだった。
少年はある程度の年齢になると、やはり冒険心というものが芽生え、一度、老人の隙をついて、森からの脱出を試みた。が、道に迷ってしまい、帰ろうにも帰れなくなり、そのまま夜になってしまい、挙句の果てに、狼の群れに囲まれるという事態に陥ったことがあった。狼に囲まれたところまでは記憶があるが、その後は、記憶がなかった。目覚めたときには、家のベッドの上だった。なぜ助かったのかもわからない。老人が探し出してくれたのだそうだ。数日眠っていたらしい。それ以来、脱出は試みていない。少年は、このままこんな退屈な生活が続くなら、もう死んじゃってもいいかなと思っていた。それが少年の日常だった。
退屈な生活を送っていた少年だったが、そんな生活は、ある日突然あっさり終わりを迎える。少年が冬に備えて薪を拾いに行っているときだった。数名の屈強な軍服姿の男と、数名のスーツ姿の男達が、老人の元を尋ねてきた。
「ノリロール博士、ヒルブック社長からの伝言です。『少年をひきわたしていただく』以上です。少年は今どこに?」
「あいつは里子に出した。ここにはいない。今どうしているかも知らん。はやく立ち去れ」
「それは嘘だと調べてあります。帰るまで待ちましょう」
「ふざけるな、ここから出ていけ!」
老人は一人の男につかみかかったが、別の男にあっさり取り押さえられた。タイミング悪く、老人が取り押さえられているときに、少年は家に戻った。明らかに異常な事態を目撃した少年が抱いた感情は、ただ「恐怖」だった。異常事態に陥った人々が取る行動は大きく分けると2つ。「逃げる」か「立ち向かう」かだ。しかし、「立ち向かう」を選択できる人はそう多くはない。ましてや、年端もいかない少年だ。無理もなかった。
「逃げろ!!」
「ヒルブック社長からのもう一つの伝言です。いままで少年を保護してくださりありがとうございます。お疲れ様です。安らかにお休みください。」
男が銃を取り出し、発砲した。老人はあっさりと息絶えた。少年の心は完全に「恐怖」で埋め尽くされた。男たちの目的は少年の連行であり、今すぐ命に関わるような事態ではないのだが、今戻ったばかりの少年に、そんなことは知る由もない。次は自分だ、そう思うのが自然だ。逃げなければ。震える足でなんとか数歩踏み出し、駆け出したが、屈強な男たちが後を追い、捕まるのは目に見えていた。自分は身内が殺されたのに、何もできない。無力だ。そんなことを考えながら。しかし同時に少年は、頭の片隅で、もう一つ別のことを考えた。
(あれ、今までいつ死んでもいいやと思っていたはずなのに、なんで今僕は必死に逃げようとしているのだろう?この感覚はなんなんだ?)
どこからともなく声がした。
「ソレハ、生存本能ダ」
少年の意識は、そこで途切れた。
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