初めての、恋
予約していたゲーム機【PN5】をとソフトを受け取り、増えすぎた荷物を抱えて疲弊しながら帰路へとつく。
家に帰り着くと二人はやれやれと玄関に荷物を置き、手ぶらでリビングに入ってぐったりとソファーに座り込んだ。久しぶりに出かけたのもあるが、荷物が多すぎて、それで体力を奪われてしまった。特にゲーム機は嵩張る上に重さもあり、片手にぬいぐるみと洋服の入った袋を持って歩くのはかなり苦労した。一方の晶も途中でコンビニのくじを引いて一等の巨大なうさぴょ丸ぬいぐるみを手に入れたので、結果として二人して大荷物を抱えるはめになってしまったのだ。
「な、なんか久々に疲れました」
「私もだ。仕事以外でこんな疲れたのは久々かもしれんな」
「あはは。結構歩きましたもんね。明日筋肉痛になるかもしれませんね」
「私は大丈夫だ。普段から鍛えてるからな」
「えー! ズルいですぅ!」
「別にズルくはないだろう。普段から鍛えないのが悪いのだ。風呂に入ってよくマッサージしておけ」
「そうだ。今日、入浴剤買ったんですよ。黄昏に佇む憧れのあこの子の香りですって」
「どんな香りだそれは……ところで腹減ったな」
「そういえば結局買いそびれちゃいましたね。何か作りますね、ちょっと待っててください」
と晶が立ち上がろうとする。
「待て。こういう時はコレだ。必殺・デリバリー」
黒崎は出前アプリを立ち上げる。
「あ! 瑠衣ちゃんに見せてもらった事あります!」
「どれにする。好きなの選んでいいぞ」
晶にスマホを手渡すと、黒崎は大きく欠伸をした。
「えっと、えっと、あの! 私、ピザ食べてみたいです! あ、これ、これ美味しそうです!」
「ん」
と再びスマホを受け取り、慣れた手つきで注文する。
「よくデリバリーするんですか?」
「まあ基本土日は家から出ないからな」
「以外とインドアなんですね」
「まあな。タバコ吸って酒飲みながら一日中ゲームするのが休日のルーティーンだ」
「えええええ!」
「安心しろ、ここでは酒もタバコもやらんよ」
「別に構いませんよ? というか実はお酒は私も飲んでみたくて……でもやっぱり罪悪感があってスーパーで見かけても買えません……」
「まあ、酒はやめといた方がいかもな」
「ううー、飲んでみたいです」
「まあ、缶チューハイならジュースみたいに飲めるからイケるかもな。じゃあ今度飲んでみるか」
「は、はい!」
晶は瞳を輝かせながら、ずいっと身を乗り出す。
それから、二人はピザを食べながら、ゲームをした。
魔物を倒しながら世界の謎に迫るというオープンワールド型の単純なアクションゲームだったが、ゲーム自体が初めての晶はかなり苦戦していた。
コントローラーを持って必死に右へ左へ上へ下へ体を動かし、時には黒崎の顔面に肘鉄を食らわしながら、ゲームを進めた。そんな彼女がおかしくて、思わず笑ってしまい、ちょっと怒られたりして、そんなふうに二人は時間を忘れてゲームで遊び続けた。
「ん……」
どれだけ眠っただろうか。
ふと目を覚まし、眠い目をこすりながら壁の時計を確認すると、もう既に朝の十時を周っていた。さすがに寝すぎたな、と視線を落とすと、ピザの空き箱と食べかけのポテチの大袋、そしてコーラのボトルが机を占拠し、堕落の象徴とも言える光景が広がっていた。
「あー……だいぶ散らかしたな……」
寝ぼけた頭で目の前の光景を眺めながら左手で髪を掻き上げつつ、膝の上の物を撫でる。
「ん……?」
無意識に撫でたものの、それが何かわからなかった。
なんだろう、と確認してみると、そこには、膝の上にちょこんと頭を乗せて眠る晶の姿があった。余程いい夢を見ているのか、とんでもなくだらしない顔を見せている。
「おわっ?」
「えへへー……黒崎せんせー……」
「そんなに楽しかったのか……」
子供みたいなやつだな、と、呆れつつ、ソファの肘置きで頬杖をつき、晶の頭を撫でる。すると晶は幸せそうに口元を緩ませ、むにゃむにゃ言い始めた。
「美味しいですぅ……」
「今度は何が食いたい?」
「ケーキバイキング……」
「甘い物は苦手なんだがな」
しかしもう、晶は何も答えない。
膝の上で幸せそうに眠る晶を眺めながら、できる事ならもう少しこの生活を続けたいと思った。けれどそんなこと許されるはずがない。十五も歳の離れた、しかも家族でも恋人でもない赤の他人の男が、こんな若い女性の家に寝泊まりしているなんて本来ならあってはならないことなのだ。
今日中に住む場所を探して出て行こう。
そうしてまた、ただの同僚に戻ろう。
そうしてまた、一人で暮らそう。
「ん……」
ようやく、晶が目を覚ます。
眠そうに目をこすりながら、仰向けになってぼんやり黒崎を見る。そして脱力しそうなほどふにゃふにゃした笑顔を見せる。
「えへへ。おはよーございます」
「もうそろそろ昼だがな」
「ふへぇ。もうそんな時間なんですか?」
のそのそと起き上がり、スマホの時間を確認する。
「先生。今日は何して遊びます?」
「今日は不動産屋に行って、後は仕事をしたい」
「えええええ! まだ家にいてくださいよぉ! そんな急いで探さなくてもいいじゃないですかっ」
「あのな。お前みたいな若い女の家に彼氏でもない赤の他人のおっさんがいていいはずないだろう。冷静になって考えてみろ、この状況はあまりに不自然すぎるだろう」
「家主の私がいいと言ってるんですからいいんですよ」
「そういう問題じゃない」
「それに、なんか凄い雨降ってますよ」
「は? そんな嘘を」
とベランダを振り向く。
カーテンの隙間から、バケツをひっくり返したような雨が見えた。誰かが故意に空から全力で地上に水を流してるんじゃないか、あるいは屋上の給水塔がぶっ壊れたんじゃないか、そんなことを疑いたくなるレベルである。
「嘘だろ……」
「警報出てますね」
晶はスマホで天気を確認し、にっこり笑う。
「くっそ! 放課後は部活があるから行けないんだぞ……」
「あれ。もう顧問任されてるんですか」
「まあな。前任の先生が急に辞めて部活もしばらく休みになってたそうでな。初日に突然言われて驚いたよ」
黒崎は深くため息を吐き出し、頭をガシガシ掻いた。
「あの。もし、しんどいことがあったら、私に言ってくださいね? お話、聞きますから……」
晶が心配そうな顔で見てくる。
「ああ。ありがとう。だが大丈夫だ。私はこう見えて強いからな」
「強い人でも弱音を吐きたくなる時もあると思いますよ?」
「じゃあまあ、その時が来たら頼むかな」
と黒崎はピザの箱の上にポテチの袋を適当に積み重ね、キッチンのゴミ箱に運んだ。晶はそんな彼の背中を少し心配そうに見つめるのだった。
★
晶の父親が一時帰国した時に使用している部屋は寝起きと仕事にだけ使われているようで、ベッドとローテーブルとカーペットがあるだけのシンプルな部屋だ。飾り気も娯楽もないその部屋は仕事に集中するにはちょうど良く、気がつくと二時間パソコンに向かっていた。
無意識にタバコを探してパソコン周辺を手探りし、ここがもう自分の部屋ではないことを思い出す。
(そうだ。私の部屋はもう、燃えてなくなってしまったのだったな)
あの日、全て炎に包まれた。
描きためた絵も、描きかけの絵も、クリアしてないゲームも、画材も、お気に入りの画集も、何もかも。
「さい先悪すぎるだろ……」
ぽつり呟いて、ばたりと仰向けに倒れ込む。
(……私はちゃんと仕事を続けていけるんだろうか)
そんな不安が頭を過る。
四六時中飛んでくる保護者からの理不尽なクレームに電話口で謝罪し、反論すれば今度は校長や教頭に叱られて、同僚教師からは嫌味を言われ、素行不良の生徒達に振り回され、土日も大量の仕事と鳴り止まないクレームの電話に悩まされ……
そして結局体と心を壊し、妹の世話になった。
思い出されるのは、無気力で食事ひとつ取れなくなった自分に文句一つ言わずに寄り添ってくれた妹のこと。毎日膝枕をして頭を撫でてくれて、けして、頑張れだとか早く仕事を探せだとか、そんなことは言わなかった。
「駄目だ……もう、妹の世話になるわけには行かんのだ」
頑張らなければ
そう決心し、体を起こそうとすると、ドアがノックされた。
「あの。お昼できましたので、ちょっと休憩しませんか?」
ひょこ、と晶が顔を覗かせた。
「あ、ああ。すまないな」
と起き上がった瞬間、両の眼からぽろっと涙が零れた。
「げっ!」
「ええ! どどどうしました⁉ 大丈夫ですか⁉」
慌てて晶が駆け寄ってきて、黒崎の顔を両手で包み込んだ。
「すまん、なんでもない。気にするな」
そっと晶の手首を掴んで引き離し、自分の手の甲で乱暴に涙を拭う。
「でも」
「お前が気にするようなことじゃない」
「あの」
と、晶はズイッと顔を近づけてくると、再び両手で顔を包み込んだ。
「私、ちゃんとお話聞きます。いえ、聞きたいです。先生のしんどい気持ち、ちゃんと教えてほしいです。私に何ができるかわからないですけど……でも、吐き出すだけでもきっと楽になれると思いますから……。えと、先生まだ学校に親しい人いないでしょうし、だから、私で良ければ聞かせてください」
彼女の気持ちは嘘ではない。
心配そうな表情で、真剣に真っ直ぐ見つめてくる彼女を見て、黒崎はそう思った。
「別に面白い話じゃないぞ」
頬に触れる彼女の手に手を重ね、ぽつりぽつりと話し始める。
「私が昔働いていた学校はな、地元でも有名な悪ガキ共が集まる偏差値の低い高校だったんだ。ほぼ毎日学校には地元住民からクレームの電話が入り、警察に頭を下げることも珍しくはなかった。加えて保護者からの理不尽なクレームは四六時中私を襲ってきた」
「四六時中⁉」
「ああ。今の学校は仕事用の電話を貸してもらえてるが、前の学校は個人の携帯電話一つで、しかも、いつでも保護者の電話を受けれるように電源を切ることが許されていなくてな……子が子なら親も親、夜中だろうが朝方だろうが休日だろうがお構いなしにクレームの電話をかけてくるんだ」
「地獄じゃないですか……」
「けどな。私が一番辛かったのはそんなことじゃない」
「それ以上のことが⁉」
「美術というものを軽んじられていたことだ」
晶の手に添えた手に、思わずきゅっと力がこもる。
晶がハッとした表情を見せる。
「美術教師は遊んでるだけなんだから楽でいいな、と同僚によく言われたものだよ。生徒だってろくに授業を聞いちゃいないし、作品も適当、それで評価を低くすれば好みで点数つけてるだとか意味わからんことを言われる始末。本当、なんでまた教師になんかなったんだろうな」
当時のことを思い出し、どんどん気持ちが沈んで胃がキリキリし始めた。右手で胃を押さえ、今にも何か吐き出しそうに真っ顔な顔をしてブルブル震えだす。
晶はそんな彼を見ておろおろし、そして、意を決したように、そのたわわな胸で、彼の頭をぎゅっと抱きしめた。
嘘みたいに柔らかくて温かな二つの膨らみが、ふわふわと顔を包み込む。
「へ……?」
「大丈夫ですよ、先生。もしまた辛いことがあったら、私が抱きしめてあげますから」
「ちょ、おいっ……!」
「こうやって、またお話してください」
晶がよしよしと優しく頭をなでてくれる。
「先生。うちの生徒達はみんないい子ですよ。先生達だっていい方達ばかりですし。都筑先生もきっと話を聞いてくださいますよ。だから安心してください」
「そ、そう……か……」
正直、この先の不安とか今はどうでも良かった。
そんなことよりも、この顔を包み込む柔らかな感触の方が問題だった。
柔らかい。
ふわふわしていて、謎に甘い香りがして、温かくて、心地が良くて。更に頭まで撫でられて、まるで子供に戻ったような錯覚に陥りそうになる。
(柔らかっ……でかっ……気持ちいいっ……)
つい、顔をすりすりしてその感触を堪能してしまう。
「ねえ、先生。私のおっぱいって大きいですよね」
そんな事を言われ、やっと我に返って慌てて晶を引き剥がす。いや、違う。己を乳から引き剥がした。
「いや、すすすすすまん! つい! ていうかお前、何してるんだ⁉」
「ごめんなさい、驚かせてしまって」
えへへ、と照れ臭そうに人差し指で頬を掻く。
「実は私、中学の時はこんなに大きくなかったんですよね。でも高校に入ってから徐々にむくむく成長し始めて、二年生になる頃にはもうGカップにまでなっちゃって。だけどお母さんは私が小さい時に死んじゃってるし、お父さんにはこんなこと相談できないし、お友達もいなくて、一人でずっと悩んでたんです。こんなに大きいなんて、もしかして変な病気なのかなとか、私の体って変なのかなって」
当時の気持ちを思い出しているのか、少し悲しげな笑みを浮かべながら両手で自分の胸を軽く揉む。
「でも、ある日体調を崩して保健室に行った時、保健室の先生が凄く優しく声を掛けてくださいまして。それで、そこで始めて自分の体の事を相談してみたんです。もちろん凄く勇気がいりましたし、おかしいって言われるんじゃないかって不安もありました。でも、先生は私の頭を優しく撫でながら、『背が高い人や低い人がいるように、おっぱいが大きい人や小さい人もいるんだよ、だから何も心配することはないんだよ』って言ってくれたんです。で、私、すごく安心して泣いちゃって。それで、その時、私も保健室の先生になりたいって思ったんです。保健室の先生になって、あの時の先生みたいに苦しんでる子の心の支えになりたいって」
と、黒崎の頭をよしよしと撫でる。
「だから、先生にも遠慮せず私に悩みを相談してほしいんです」
「お前……」
「……えへへ。もう一回、ぎゅってします?」
「生徒の支えになる前に自分がもう少し一般常識をだな……」
「わ、わかってますよぅ! ……わかってるんです。自分のためにも、生徒のためにも、いい加減お父さんから解放されなくちゃって」
晶が黒崎の頬に右手を触れる。
「えへへ。だから、また色んなところ連れてってくださいね」
「ああ、わかった……」
「先生も、ちゃんと私に甘えてくださいね」
にっこりと、晶が微笑む。
★
昼を食べ終えると、二人はソファでまったり寛いだ。
だが気がつくと何故か黒崎は晶に膝枕されており、優しく頭まで撫でられていた。
(いや、おかしいだろう。さすがにこれはおかしいだろう。ちょっと待て、なんでこんなことになった。確か昼飯を食ったら眠くなって欠伸していたら膝に促されて……それで何で私は素直に膝枕されてるんだ馬鹿なのか?)
「先生、眠くなったら寝ちゃっていいですからね?」
「お、おお……」
(いや駄目だろ普通に駄目だろこれ)
そうは思うものの、優しく頭を撫でられていると、それが心地よくてうとうとと眠気が襲ってくる。
こんなふうに誰かに膝枕されたのは何年ぶりだろうか? こんなふうに優しくされるのは何年ぶりだろうか? もう随分と長い間忘れていた感覚に戸惑い、恥ずかしさに顔を真っ赤にする。
同時に自分と晶の年齢差を考え、「いや自分キモッ……!」と唇を噛みしめるのだった。だがそんな気持ちとは裏腹に心地よさで頭がぼーっとしてゆき、眠気に抗おうとするものの、抵抗も虚しく意識は遠のいてゆくのだった。
そうしてついに心地よさげに寝息を立てる。
晶はそれに気が付き、幸せそうにくすくす笑うのだった。
「えへへ。可愛いです」
と、まったり寛いでいると、ポケットの中でスマホが震えた。確認してみると、友人の瑠衣からだった。
「あ。昨日の写真見てくれたんだ」
えへへ、と呑気に友人からのメッセージを確認する。
『え、ちょっと待って誰? ねえアンタ誰と出かけたの? 待って待って、アンタ変な男に引っかかってないよね?』
晶が撮影したハンバーガーの写真に返信がついていた。
自分の分のハンバーガーセットの向こうに黒崎のハンバーガーセット、そして更に彼の体が写り込んだ状態の写真である。だが晶には、それの何が問題なのかわからず、友人が何をそんなに慌てているのか理解できなかった。
『大丈夫だよ、学校の先生だから!』
『変なことされたりしてない? ちゃんとした人なの?』
『なんにもされてないから大丈夫だよ。あのねあのね、先生がね、これから子供達の心の支えにならなきゃ行けないんだから一人でコンビニくらい行けなくてどうするんだって、コンビニ連れてってくれたんだよ! ゲームセンターにも行ったし、昨日は夜中まで一緒にゲームしたよ。凄く楽しかった!』
『は⁉ 家ついていったの⁉』
『ううん。私の家だよ』
『待って待って。本当に何もされてないの?』
『うん。一緒に遊んだだけだよ』
『なんか心配なんだけど……』
『あのね。私ね、勇気をだしてお父さん離れしようと思うの! お父さんには申し訳ないけど、自分のことは自分で決めて生きていきたいなって思うんだ』
『マジで? あの晶が⁉ なに、晶って恋したら変わるタイプだったんだ』
『恋⁉ そんなんじゃないよ、そりゃ普通に好きだけど』
『そうなの? じゃあその人といたらどんな気持ちなのか教えてよ』
『どんな……うーん……なんだろう。一緒にいると楽しいし、ふわふわして、もっとずっと一緒にいたいなって思うし……元気がないとぎゅっと抱きしめてあげたくなって……なんか、きゅんとするかなあ』
『いやもうそれ恋じゃん……』
『そ、そうなの?』
『待って、ちゃんと独身だよね?』
『ちゃんと独身だよ!』
『それならいいんだけど……とりあえず、今度、一回紹介してよ』
『うん、わかった』
ぽちぽちと瑠衣に返信し、会話を終えると、膝の上でだらしなく口を開いて眠る黒崎を見る。
「……………恋……………」
その言葉が、時間差でじわじわ攻撃してくる。
ああ、この気持ちは恋なのか。私は彼に恋をしたのか……じわじわと自覚し、恥ずかしさで耳まで熱くなる。
「私、恋しちゃったんだ……」
自覚した途端、自分のこの気持ちをどうすればいいのかわからなくなって戸惑い、胸の前でぎゅうっと手を握りしめた。それからしばらくじっと恋の相手を見つめ、そして、子犬でも見ているかのように頬を緩ませ、嬉しそうににこにこ笑う。
「えへへー、可愛いですぅ」
恋は盲目とはよく言ったものである。
神滝晶の目には今、目の前の38歳のおっさんが、まるで無邪気な寝顔を見せる子供のように映っているのであった。もちろん、他人が見ればただのおっさんの寝顔である。そこに可愛さなど微塵もない。
「安心してください、私がぜーんぶしてあげますからね」
頭を撫でながら、晶はそんなことを囁くのだった。
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