第16話『新メンバー』
扉を開けた途端、ムッとした暑さが身を包む。太陽が地を照らし、気分はさながら鉄板の上の肉だ。レオは眩しい日差しに手を掲げながら、街を歩いていった。
8月8日。今日はレオの誕生日である。別にマリア達からプレゼントを貰ったりするわけじゃないが、せっかくなので何か買おうと街に出かけたのだ。
(16歳かー……1年前は嬉しかったな〜ようやく冒険者になれるって。この4ヶ月充実してたし、最高の生活だな)
そんなことを考えながら道を歩く。ある程度生活できる貯金もできてきたので、依頼や任務をこなさない日を作る余裕が出てきた。こうしてのんびりと街を歩いていくと、建設業に励む男や走り回る子供達など普段気にも留めていない人々の平和な生活が見てとれる。
この街の名前はスフィー。ファスから4つ離れた街だ。レオ達特新部隊はとある任務により数日前にスフィーに訪れていた。オスマンが何から用事があるようでしばらくスフィーに留まっている。この街のギルドは南門近くに建てられており、南の大通りに武器屋など冒険者御用達の店が集まっている。
レオが道の両脇に並ぶ店を眺めていると、ギルドから少し離れた場所に2本の剣が交差したマークの看板があった。ギルドの定める規格通りのマークをした武器屋だ。
別に今使っている剣は定期的に手入れしており、刃こぼれもしてないしまだ現役なのだが、「見てみるだけだ」と自分に言い聞かせ、レオは武器屋に入っていった。
濃い色の木材を使った、良い雰囲気の店だ。棚には武器の手入れ用の品が並び、壁には多種多様な武器がかけてある。片手直剣、両手剣、細剣や槍、盾などが銀色に輝き、武器好きの者が見れば心踊る空間だろう。
「おお……!」
レオもそんな感嘆の声を漏らし、壁の武器達を眺め始めた。レオが使っているのは一般的な片手直剣だ。エイジャックの使っているような刀は“斬る”、剣は“断つ”というイメージで運用する。荒々しい戦いが好みのレオが剣を直感で選んだのは必然と言えるだろう。
しかしいつもワンパターンだと面白くない。レオもエイジャックの刀やライフのダガーなどを貸してもらったことがあるが、やはり使い方は武器ごとに全くことなる。色々な武器を使えるなら戦い方の幅が広がるし、何よりかっこいいではないか。
そんな考えが武器を眺めている内にレオの頭に浮かんでくる。
(……スペアに2本目持っとくのもいいよな……? 二刀流とかできるし……)
段々とレオの思考が購入に傾きつつあったその時。レオに向かってここの店主が声をかけてきた。
「……坊主、背中に剣持ってるが、冒険者か?」
「え? まあ、そうっすけど」
「盾は?」
「盾好きじゃないんすよ。視界遮られるし動きづらいし重いし」
「珍しい奴だな。普通魔物に怖がって皆盾持つもんなのに。……フーゥ……」
店主が葉巻を吸うと、カランカランと店のベルが鳴った。店主がそちらを見、レオも釣られて振り返ろうとする……が。
「おうらっしゃー……」
「店主さん! あたしの武器できた⁉︎」
そんな声と共に、新たな客はズカズカと店の中を突き進んでくる。
その女性は緑がかった髪を後ろで一本に束ねた、いわゆるポニーテールと呼ばれる髪型をしていた。顔は強気、勝ち気という言葉が似合いそうな凛々しい目つき、小さな鼻、ニカッとした笑顔が似合いそうな口元など、道ゆく人々がすれ違うと二度見するような美人の部類に入る。
しかし、レオはその綺麗な顔を認識することなく、その女性に突き飛ばされた。
「わっ!」
「ああ、ごめんごめん……って……」
後ろによろけたレオは女性の顔を見、そして一瞬固まった。それは女性も同じだった。レオの顔見ると目を開き、ピタリと停止する。
少しして、2人は同時に声を上げた。
「ああああ‼︎」
「ああああ‼︎」
なんと、2人は知り合いだったのだ。
「レオ‼︎」
「クミン‼︎」
「どうしてここに⁉︎」
「どうしてここに⁉︎」
女性の名はロベアス・クミン。レオと同じ学校に通い、卒業後に離れ離れになった、いわゆる幼馴染というやつである。
「……なんだ、知り合いかお前ら」
という店主の言葉も耳に入らず、2人は呆然とお互いの顔を見ていた。しばらくするとクミンの顔が笑顔になっていき、レオに飛びついてきた。
「レオーー‼︎」
しかしレオは横に動き、やけに慣れた最小限の動作でそれを回避。クミンは店の床に倒れた。
「いったああ⁉︎ レオ酷いよ! 数年ぶりの再会なのに!」
「再会していきなり抱きついてこようとするお前が悪い!」
などとお互いに言い合ったが、2人ともすぐに顔を和らげた。
「……変わってねえな、お前」
「レオちょっとかっこよくなった! 背も伸びたし!」
「背え伸びたっつうんならお前もだろ。なんだそのガタイは」
大体3年と半年ほど前、12歳で学校を卒業した頃のクミンは、いかにも元気な女の子といった風貌だった。しかし今のクミンは女性にしてはそこそこ背が高く、レオと同じぐらいだ。さらにその体つきは見るからに鍛え上げられており、どんなに遊び回ってもこんな筋肉はつかないだろうと断言できる。
クミンは立ち上がり腕を組み、口角をニヤリと上げた。その様子はレオとそっくりだ。
「
「……マジ⁉︎」
「マジマジ大マジ。だから武器作ってもらって……あっ! 店主さん!」
クミンはカウンターに肘をついて葉巻を咥えている店主に、慌ただしく駆け寄った。少し塞ぎ込んでいた店主は立ち上がり、煙を吹いた。
「ああ、もうできてるぞ。ちょっと待ってろ」
店主が奥に入り、戻ってきた時に持ってたのは刃が湾曲した俗に言う
「おお……かっこいい……!」
「これって海賊が使うやつじゃねえか」
「うるさい!」
「まったく、これ作るの大変だったんだぞ。こんなの頼む奴いなかったしな」
「振り回しやすいんですよこれ。……ねえレオ! 一緒にパーティ組んで依頼受けようよ!」
作ってもらった武器の代金を支払うと、クミンは早速カトラスを腰に刺し、輝く目でレオを見た。
「まあ明日以降ならいいけど……一時的で組む場合って持続的なパーティから抜けたりする必要あんのかな……」
クミンはそれを聞くと、その顔が驚愕一色に染まっていく。
「え⁉︎ レオ持続的でパーティ組んでるの⁉︎」
「え、うん」
「誰と⁉︎」
「冒険者になってすぐに会った奴と」
「女⁉︎ 男⁉︎」
「……女だけど」
「2人だけ⁉︎」
「うん……」
クミンはレオの胸ぐらを掴み、上下に揺さぶった。
「裏切り者ーー‼︎ あたしがレオのことずっと好きだってこと知ってたでしょーー⁉︎」
「あああうるせえ! それやめろって!」
レオがクミンの手を振りほどくと、クミンは息を荒げレオに迫った。いきなり女性にこんなに迫られたら普通の年頃の男の子ならドギマギして慌てる所だが、レオはうんざりしたような顔を浮かべている。
それもそのはずで、クミンのこの態度は学校に通っていた時の数年間と全く変わっていないのだ。数年間ずっとこんな調子なら、慣れるのは当たり前だろう。
「……その女とヤったの……⁉︎」
そう言って右手の指で輪っかを作り、そこに人差し指を入れる。
「やったって……はあ⁉︎」
「あああ‼︎ その女の喘ぎ声で興奮しながら腰振ってたんでしょー‼︎」
「出会ってまだ数ヶ月だぞ! 変な妄想すんなバカ!」
タウンターの前でそんな会話が繰り広げられ、若干引いている店主など眼中に無いクミンはホッと息を吐き、胸を撫で下ろした。レオは頬を引き攣らせ、ため息を吐く。
「……なーんだ。シてないのか。……フゥ、ちょっと取り乱した。……レオはその子のこと好きなの?」
「……まあ。初めて女子を好きになったよ」
「ふふっ、じゃあその子はあたしの恋敵ってことだ。……すぐにレオをオトしてみせるよ」
「あっそ」
レオが懐から懐中時計を取り出し、中を確認すると大体午後3時の10分前。実はオスマンから呼び出しが3時にあるため、そろそろ移動しなくてはならない。
クミンと思いがけない再会を果たしたが、冒険者をやっている以上次会うことは無いかもしれない。ちょっとウザい奴ではあってもさすがに寂しいと感じる。しかしオスマン達を待たせるわけにもいかないので、直にギルドへ向かわなくては。
「……じゃあ、オレはギルドに用があるからここで」
「あ、あたしもギルドに用事あるんだ。一緒に行こ!」
「はいはい……」
まったくクミンはブレないな、とレオは思う。正直ついてくるための言い訳にしか思えないが、まあ鬱陶しいだけで損があるわけでもない。
喧騒を振りまいた武器屋をようやく後にし、2人は並んでギルドへと歩き出した。
「あっつー! もうすっかり夏だね!」
「8月だからな。……てかクミン、わざわざファスから離れてここまで来たってことは何か任務あったのか?」
レオやクミンの通っていた学校、及び実家から1番近いのはファスだ。わざわざ4つ離れたスフィーにまで来るのは、何か事情があるはずだ。
「……実は1週間ぐらい前に、入ってたパーティが解散しちゃってね。そのパーティにいた時に受けた最後の依頼の場所がここだったの。移動するのも面倒だししばらくはスフィーで生活してるんだ」
「ふ〜ん」
などと会話をしながら歩き、直にギルドへと辿り着く。
昼から少し時間が経っているため、ギルドは全体的に人が少なっかった。特に酒場は伽藍堂で、チラホラテーブルで飲み物片手に談笑している者がいるのみだ。
レオはクミンは依頼受けんのかな、などと考えつつ酒場を見渡す。するとすぐにオスマンやマリアの特新部隊の面々を発見した。そちらに歩いて行こうと足を踏み出す。……が。
「あ! オスマンさーん!」
「……は?」
クミンは声を上げると、特新部隊のいるテーブルへと走っていった。
「おや、元気ですねクミンさん。……レオくん、こちらですよー」
「えっえっえっ……?」
困惑しながらもレオはテーブルへと足を運ぶ。
「あれ⁉︎ レオももしかして特新部隊なの⁉︎ 凄い偶然!」
「……お二人は知り合いなのですか?」
「はい! 幼馴染です!」
レオの頭はようやく事態を把握し始める。明るい声で話すクミンに視線が集まり、オスマンはクミンの方に手を向ける。
「……おいまさか……」
「紹介します。彼女が特新部隊の新メンバー……」
「ロベアス・クミンです! 苗字の方が可愛いのでクミンって呼んでください!」
ロベアス・クミン。今年5人いるC級スタートを果たした新人冒険者の1人。今年の特新部隊の初期メンバーとして声かけされていたが、当時は既にパーティを組んでいたことを理由に拒否。そのパーティが解散したことと、魔物の館での一件で特新部隊に欠員が出たことで、この度特新部隊に入ることとなった。
「はああああああ⁉︎」
「はあって何! これから一緒に働けるんだよ!」
レオに抗議していたクミンは、ふと視界に入った綺麗な銀髪を垂らした少女……マリア・ストロガノフの方へと歩いて行った。
「……あなたがレオのパーティの子だね?」
「え……そうだけど……どうして分かったの?」
「そのネックレスだよ」
マリアが首にかけているのは、白く輝く勾玉のネックレスだった。これはオスマンと出会った日に貰った魔力を外付けで備蓄できるものだ。レオも黒色の同じものを首に下げている。
貰ったものとはいえペアルック。当人達は利便性を重視して何も気にせずつけているが、周りから見ればカップルだ。
「2人でおんなじネックレスつけてたら誰だって分かるよ」
「ああ……そっか……」
するとクミンは不敵な笑みを浮かべ、マリアに向かって手を差し出した。
「……名前は?」
「……マリア・ストロガノフ」
「マリア、これからよろしくね」
「う、うん……よろしく……」
その光景を見て、エイジャックは肩を窄める。そんなエイジャックに、レオは懇願する。
「……また元気な奴が増えたな」
「頼むエイジャック。あいつ貰ってくれ」
「いいのか? お前のハーレム要因が減るぞ?」
「ハーレムなんか興味ねえっての」
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