第6話少女の事情


「わぁ、リーパーったら怖ぁい。彼女、怯えてるじゃない」


 ジョイが軽い調子で話に入ったことで、ようやく少女がフッと息を吐く。リーパーも目を逸らしたことで怖い雰囲気もだいぶ和らいだ。

 おかげでようやく声を出せるようになったのか、少女は口を開く。


「な、なぜ私が責められなければならないんです……? 少しくらい話を聞いてくれてもいいと思うん、ですが……!」


 勇気を出した彼女の言葉に、リーパーが苛立ったように舌打ちをした。少女はビクッと震えたが、ジョイがすかさず口を挟む。


「彼女の言うことは間違ってないよ、リーパー。客商売なんだから、その辺もう少し気を遣ってくれないかなぁ」


 人差し指を立ててリーパーに説教をするジョイを見て、少女は安堵のため息を吐く。


「込み入った事情ってやつがある感じだね? 聞かせてよ」

「ちっ、俺は聞かないぞ」

「いーよいーよ、オレが聞いておくから。リーパーは寝ててー」


 ジョイにそう言われたリーパーは、言葉通りに部屋の隅に腰を下ろして座ったまま眠り始めた。

 まさか本当に寝てしまうとは、と少女は目を丸くした。


「む、むちゃくちゃですね……」

「そう? オレたちにとっては普通だよ」

「な、なるほど」


 死神を名乗り、安楽死といえど人を殺すような仕事をしている者たちなのだ。彼女のように平和に暮らしていた者とは感覚が異なって当たり前であった。


 椅子に座って落ち着いたところで、少女はポツリポツリと事情を話し始めた。ジョイは椅子の背もたれを抱きかかえるようにして座りながら聞いている。


「私は、この家の正当な跡継ぎとは言えないんです。その、父の不倫相手の娘なので。父は私を可愛がってくれました。むしろ、正妻の子よりも……それが、正妻に恨まれることになったのだと思います」


 だからこそ、父親が亡くなった後はきっと追い出されると思っていたと少女は言う。実際に真正面から言われたのだと。

 そのことについては、少女は不服を感じなかったという。むしろそれで構わなかったのだそうだ。


 しかし父親は自分の死後、遺産は全て少女に相続するという遺言を残していたらしい。


「争いの火種にしかならないじゃないですか。私にとって父からの愛情はずっと迷惑でしかなくて……こんなこと言いたくなんてないけど、死んだ後にまで迷惑なことを、って。本当に私を愛していたのなら、そんなことしないでもらいたかった……!」


 ギュッと拳を握りながら語る少女の顔は憎々し気に歪んでいた。それを見てジョイは僅かに口角を上げる。


 人間の身勝手な悪感情は、死神にとっては愉快に思えるのだ。


「……今や屋敷に住む者だけではなく、この家に関わる者全てが敵です。使用人だって信用出来ない。被害妄想かなって最初は思っていたんですけど……嫌がらせのレベルを超えてきていて、命の危険を感じない日はありません」


 先週からついにこの自室からも出られなくなっており、もしかしたらこのまま一生軟禁されて人生を終えるかもしれない、と少女は身体を震わせた。それはそれで、生き地獄だと彼女は語る。


「逃げる場所なんてどこにもない。一生、誰かに命を狙われ続けるか飼い殺しですよ。味方もいない、たった一人でなんの希望もなくこの先も生きるなんて。いくらお金があっても、幸せになんかなれません。かといって、私には自殺をする勇気もない……臆病者なんです」


 少女は一度俯き、すぐにバッと顔を上げた。


「どうか、私を安楽死させてくださいっ!」

「ん。オッケー! 事情はわかったよ。リーパー、起きて」


 少女が意を決して宣言したというのに、ジョイは背凭れを抱きかかえながらカタンカタンと椅子を揺らしている。本当に話を聞いていたのかと疑いたくなるくらいだ。

 ジョイに声をかけられたリーパーはというと、頭をガシガシ掻きながら欠伸をしている。


 色んな意味で不安に思った少女だったが、じっと耐えながら彼らの次の言葉を待った。


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