第5話:ボクたちのリア充ライフ
「いやー、映画鑑賞会は、スベっちまったなー。次の企画はどうすっかなー。なあ、ケント?」
昼休みが終わり斬山と教室に戻ってくると、ボクの席の前列に座る笠間ヒロミチが振り向きざまに話しかけてきた。
「どうって、何を?」
「おいおい、何を? じゃなくて、せっかく仲間になったんだぜ! もっと女子たちとの楽しい思い出作りにいそしまなくちゃ! 何のための学園生活なんだよ!」
そりゃあ、勉学に運動に励むためなんじゃ……と思いつつ……
「そんなことよりヒロミチ、お兄さんの件はどうなったんだ?」
「まあ、映画でリベンジすんのも悪くないけど、昨日の今日じゃあなぁ……芸がないっていうかさ!」
「ヒロミチ! お兄さんの件は?」
「2回も同じこと言わなくったって聞こえてるよ! 昨日も言ったろ! 兄貴のことはほっときゃいいんだって! もうガキじゃないんだから!」
「だとしてもだよ……」
「さあさあ! そんなことよりおまえのアイディアを聞かせておくれよ! ケントくん!」
「そんなこと……そうだな、そこまで言うなら……手軽なところでアミューズメントスポットとかは? どう?」
と、適当に提案してみる。
「おっ! ケント、それだ、おしっ、さっそく招集かけようぜ!」
と、いうことで僕たち6人組は昨日に引き続き放課後再び駅前に集まることになった。
「で? チーム・エノハラは、今日はどこ行くんだって?」
「だから、アミューズメントパーク・ジオフロンティアだって!」
ヒロミチがぶっきらぼうに答える。
「ちょっと待って! なにそのチーム・エノハラって? 変じゃない? ダサくない?」
ツッコミを入れるハルミ。無視するよりは温情ある対応だ。
ヒロミチから今回の話を聞いたハルミは速攻で、片平メイと斬山ツカサに話を回してとりまとめてくれた。さっすが“デキる子ちゃん”は仕事が早い。
「変じゃねーし、ダサくねーよ! で、ジオ、なんだって?」
改めて榎原が聞く。
「ジオ・フロンティア! 地下センター街にある体感型VRゲームとかで遊べるアミューズメントスポットだよ」
目的地に向かいながら、榎原タクヤに説明するヒロミチ。
地下第3層に渡って作られたアミューズメント施設、ジオ・フロンティアは、単なるゲームセンターとは一線を画す。
VR(仮想現実)やAR(拡張現実)など、いわゆるMR(複合現実)を駆使した体感型アトラクションを中心に据えたテーマパークだ。
ゲートをくぐると、近未来的なコスチュームに身を包んだコンパニオンのオネーさんが出迎えてくれた。
地下に作られた施設であるにもかかわらず内部は予想以上に広く、エレベーターで移送された先には広大な異空間が広がっていた。
吹き抜けを支える高い支柱には意図的にエイジングされたパイプやら排気ダクトやらが絡みつく、サイバーパンクなデザインが目を引く。
熱狂する人々の声が反響する場内に圧倒されそうになりながら僕らはひと固まりになって移動する。
「おい、あれあれ! あれやろうぜ!」
ヒロミチが小躍りしながら向かう方向にはド派手なロゴデザインで「SKY・BOADER(スカイボーダー)」と描かれた電飾マーキーが輝いていた。
このスカイボーダーを簡単に説明すると単座の小型エアクラフト<スカイボード>を操縦して空を自在に飛ぶ疑似体験ができる体感型のアトラクションだ。
同時にエントリーした人と一緒に飛ぶことも、時間内でレースを楽しむこともできる。
実際に空を飛ぶわけではないがVRとAR技術を組み合わせることで生み出される映像は、もはや現実との区別ができないほどリアルで臨場感に満ちている。
もちろんプレイヤーが操作する挙動に合わせてシャフトと油圧シリンダーに保持されたスカイボードの筐体は上下左右、斜めに稼働する。
併せてヘッドセットディスプレイ付きのヘルメットを装着すると眼前に青い空と白い雲が完全再現された高空が広がるスカイワールドへとジャンプする。
高空に浮かぶ空中エアポートに係留されたカラフルなスカイボードにまたがったプレイヤーたちは管制塔からの飛行許可が下りるまで待機状態にある。
いつの間にか着ている服がARによってパイロットスーツに上書きされていることに気付き、テンションがMAXに上がる。
セパレート型のハンドグリップにはアクセル、ブレーキ、レーザーブラスターのトリガーなどが装備されている。
スカイボードの操縦はオートバイの操作に似た感覚だ。
旋回は曲がりたい方向に体重をかけてフットブレーキと合わせて慣性の力で曲がる。
上昇及び下降はハンドグリップの引き上げと押し込みに反応し、機体前後の傾斜を再現する。
初心者はチュートリアルを兼ねて、ナビゲーターからの指示通りに操作を行えば、あとは感覚的に操縦することができるようになる。
自由度は割と高く、大まかなコース選定以外は各自の判断で気ままに飛ぶことができる。
レーザーブラスターには弾数制限があるが、障害物を破壊したり先行する対戦相手を妨害したりすることも可能だ。
狭い渓谷や山間にかかるブリッジの下をくぐり抜け、高層ビル群の隙間をスリリングに飛び抜ける爽快感は操縦技能の向上に比例して加速する。
「よーし! 負けたやつは勝ったやつにフライドポテトおごりな!」
「その言葉に二言はないわよね?」
「後でほえ面かくなよ!」
ヒロミチがハイテンションでいきまいているとハルミと榎原もそれに応酬する。
ボクたち6人は今回レースモードでエントリーした。
スタートシグナルで横並びの係留ポートから吸い込まれるような青空に向かって一斉にダイブする色とりどりのボーダーたち。
最初はディスプレイに表示される各種インジケーターに気を取られがちだが、慣れてくると、視界は一気に広がる。下方には雲海が広がり、隙間からは大地が覗く。
このコンパクトなマシンひとつに身を委ねる孤独感と高度10000mの高空を再現したバーチャル空間が生み出すスリリングな興奮に酔いしれる。おっと、いけない! 景色に見とれているとレースに後れを取ってしまう。
後方には眩い太陽と、出遅れたメイの乗るスカイボードがみんなの背中を必死に追いかけてくる姿が見える。第一ターゲットの浮遊リングを通過すると今度は高度を一気に下げて雲海を突き抜け海上へ。水平線からはみるみる陸地が広がってくる。そして断崖の壁が左右から迫る峡谷の飛行コースに入る。狭いうえにライバル機が邪魔をして緊張感がピークに達する!
「オラオラ! 邪魔、邪魔!」
「おっと、アブねーな!」
手に汗握るデッドヒートが繰り広げられる中で、競り合っていた榎原機とヒロミチ機が互いに接触して大きく後退していった。
チャンス到来! 先行する斬山機にボクのボードは一気に肉迫する!
だが彼女の操縦技術はピカイチで峡谷内のそこかしこに張り出した奇岩を余裕で避けつつ縫うように飛び続ける。
NPCかと思うくらい正確無比な飛行ルートを取る斬山機に何とかついてゆくのが精いっぱいだった。
やっとの思いで渓谷を抜けきったと思った瞬間、高架橋が目の前に立ちふさがる!
とっさに欄干の下をすり抜け、間一髪ギリギリのところで衝突を避けた。
冷や汗が一気に噴き出しグリップを握る手が震える。
なんとかチェックポイントを通過すると次に市街地の高層ビル群に向かうコースに突入する。
斬山機がビルの合間に見え隠れする。
ボクはその後を追ってビルや建造物の外壁に機体をこすってタイムロスをしないように、なるべく蛇行を抑えた最短コースを選んで飛んだ。
コース上に障害となって現れる立体的な構造物はマシンをコントロールするスリルと喜びを大いに味あわせてくれる。市街地を抜けると視界が開けた。
障害物が少ない平原エリア上空に出たからだ。遥か先にゴールを示すパイロンが近づいてくる。その先には着陸ポートがあるはずだ。そしてついにブラスターの射程圏内に追っていた斬山の機影を捉えた! 一発逆転のチャンス到来だ!
「終わりだ!」
アラートと共にターゲットスコープの標的に向かってトリガーを絞る!
気分はもう暗黒卿そのもの! いや、だが待て!
ここでゴールを目前にしたこのタイミングで妨害してどうなる?
このまま気持ちよくゴールさせて、彼女に華を持たせてあげられる余裕が大人な男の対応というものではないのか?
などと打算的な考えで躊躇していると突然自機に対するロックオン・アラートが鳴った。
振り向く間もなくブラスターの一撃を食らい、スカイボードが大きく揺らぐ。
必死で立て直そうとするが操作不能に陥り大きくタイムロスを生んでしまった。
ゴールを目前にして何たる失態!
「おっ先に失礼―」
上機嫌でパスしていくのはハルミの乗機だった。何てことだ! ノーマークにもほどがある! とんだ伏兵がいたものだった。
さらにボクの上空を2機のボードが競り合いながら通過していった。おそらく榎原とヒロミチだろう。この際だからメイが来るのを待って仲良くゴールしようと思い、しばらくその場で滞空していたが、無情にもディスプレイはタイムアウトを告げた。メイ機はついに現れなかった。終わったあとでメイに聞いたが、雲海の上を水上バイクのように雲を蹴立てて飛ぶことが楽しくなってしまい、しばらく雲と戯れているうちにコースがわからなくなってしまったそうだ。まったく! メイときたら天然が過ぎる! 空の上でも迷子になるなんて!
SEE・YOUの表示と共に目の前の青空は瞬時に掻き消え、現実世界に引き戻される。
我に帰るとスタート時同様、制服のまま横一文字隊形で筐体にまたがっているボクら6人。
斬山ツカサがヘルメットを脱ぐ時、流れ落ちる彼女の黒髪が途方もなくかっこよかった。それにしても彼女の操縦テクニックはすごいとしか言いようがなかった。
「ツカサ、すごいじゃん! どこで操縦を習ったの?」
「えっ、バイク、好きだから……」
そうか、なるほどね。“好きこそものの上手なれ”なんだな……って、バイクに乗ってるってこと!?
「今度はアレにしようぜ!」
次に並んだアトラクションは《オペレーション・ブラボー》というゲームだ。
レーザーガンで武装し敵味方に分かれてリアルな銃撃戦が楽しめる屋内版サバイバルゲームだ。
障害物や左腕に装着したシールドで自身のターゲットポイントを防御しながら、相手を狙う。
ライフゲージが0になったらゲームオーバー、速やかに戦線を離脱しなければならない。
タイムアウト後に生き残った人数、もしくはライフポイントの合計値で勝敗を決める。
これは白熱すること請け合いだ。
やはりここでもヘルメットディスプレイと専用ジャケットに加えてプロテクター、ブーツ、グローブの装着が必須となる。
ゴーグルを通して見るバトルフィールドには廃墟と化し荒廃した市街地、ダークグリーンに沈むうっそうとした密林地帯、クリーンな白を基調色としたスターシップ・デッキなどが用意されている。
そこではレーザーの軌跡が矢のように飛び交い、音と光と硝煙にまみれたSF映画でおなじみのエフェクトや世界観を体験することができる。
また、ゴーグルにはお互い相手の視覚をかく乱するためステルス機能が組み込まれており、使いどころによって戦局を大きく左右することができる。
今回は他の参加者に混じって8人対8人のチーム戦、廃墟ステージを選択する。
自陣と敵陣に別れての攻防戦だ。
組分けジャンケンの結果、ボク、ヒロミチ、メイの所属するカメさんチームVS榎原、ハルミ、斬山の所属するウサギさんチームの対戦となった。
できることなら斬山とは戦いたくなかったが、やむを得ない。
こういうゲームは真剣勝負で挑まないと面白くない。
だが、こと銃器の扱いに関しては女子より男子のほうが長けているに違いない。
ボクたちに限って言えば、男女比により数的優位に立つカメさんチームが負けるはずがない! 榎原さえ倒してしまえば後は楽勝。この勝負はいただいたも同然だ!
「ふふふふ。今こそ日頃のうっぷんを晴らさせてもらうぜ! ふふふふ。」
日頃どんだけストレスを抱え込んでいるというのか、少々歪んだヒロミチだった。
爆音にも似た開戦を告げるホーンの合図とともに戦いの火蓋が切られた。
ボクは崩れた瓦礫を背に念のためもう一度レーザーガンのチェックをする。
「おい、左右から分かれてくるぞ!」
ヒロミチがアラートを発する!
「いやっ、よく見ろ! 一人だ! 瓦礫を盾に一人で突っ込んでくるヤツがいる!」
「なんて軽いフットワークなの!」
メイが驚愕する!
「榎原か? やつなのか?」
一瞬眼前のモニターが乱れ、敵の影が右から左によぎる。
「いやっ違う、女だ! あれは、斬山だ!」
「何だと? バカな! 嘘だろ?!」
前線で近くにかたまって待機していたボク、ヒロミチ、メイは軽いパニックに陥る。
「くっ、来るぞ!」
「うっ、撃てー」
“ビシューン! ビシューン!“
交錯するレーザー光線。
「いやっ、こないでー!」
「弾幕薄いぞ! 何やってんの?!」
「メイ、逃げろ! 狙われてるぞ!」
“ビシューン“
「キャッ!」
「メイが殺(や)られた!」
回避する間もなく急所ポイントにビームの一撃を食らって、彼女はその場に崩おれる。
メイのライフゲージは0になっていた。ヘッドショットによる即死だ。
倒れ際にメイが放ったビーム弾は悲しくもヒロミチのジャケットに当たり、彼のライフゲージを少し損耗させた。いわゆるフレンドリーファイヤーによる二次被害だ。
「くそっ! メイの仇だ! ケント! 挟みうちにするぞ!」
「ああ! メイの死をムダにはしない!」
一瞬、斬山の姿がフィールドに溶け込む。
「気をつけろ! ステルス迷彩だ!」
「!!」
「斬山を援護するぞ! ハルミ、バックアップだ! 俺についてこい!」
他のプレイヤーと共に、榎原、ハルミも銃撃戦になだれ込み、バトルフィールド上にビーム弾の閃光が交錯する!
“ビシューン! ビュィーン! ビシッ!“
敵味方が入り乱れてフィールドはまさしく戦場と化した。
そしてついに隣で奮闘していたヒロミチが倒れる。
「オッオレ、この戦いが終わったら、うちに帰って、母ちゃんの手料理をマメッコ(飼い犬)といっしょに……」
「おいっ、しっかりしろ! ヒロミチ! 今そのセリフは禁句だ!」
「ケッ、ケント、オレの分まで……」
頼りなく明滅していた残りのライフゲージが0になる。
「ミッチー!!!」
カメさんチームは数的優位が崩れ、瞬く間に窮地に追い込まれる。
自陣深く突入してきた斬山に攻撃を集中するが、彼女はシールドで巧みに防御しながら的確にカウンターを当ててくる。
致命傷ではないがボクのライフゲージがガンガン削られてゆく!
最後の生き残りとなったボクは銃を捨て、投降の意思を示すが、後から乗り込んで来た榎原の一斉射を浴びて敢え無くリタイアとなってしまった。
闘いとはかくも非情なものなのか。
結局、斬山は一人無傷でメイ、ヒロミチを含むカメさんチームのプレイヤー5人を血祭りに上げ、ハイスコアプレイヤーとしてクレジットされた。
そして彼女は伝説となった。
その後「オペレーション・ブラボー」において“紺ブレの悪夢”として恐れられたとか、いないとか。
まったくどこでそんな戦闘技術を身に着けたのか! 見た目とは裏腹になんて末恐ろしい娘なんだろう!
ボクたちはその後も施設に散らばったアトラクションやゲームを楽しんだ後、プライズ機コーナーに移動した。
ショーケースには色とりどりのぬいぐるみや様々なキラクターグッズがびっしりと並んでいる。そしてそれぞれ欲しい景品を物色しに散らばっていった。
“今日の記念に残るグッズをおひとつどうぞ”とでも言わんばかりにこちらの射幸心を煽ってくる。
お馴染みのアームを伸ばして景品を吊り上げるタイプのもの、矢じりの代わりに吸盤が付いたボウガンでお目当ての景品を射抜くもの、釣り針のついたワイヤーをリールで手繰り寄せてゲットする釣りタイプのもの、ルーレット式のものなど様々な趣向を凝らした筐体が並んでいる。
その中でひときわ目立っていたのは大きな観覧車がショーケースの中央でゆっくり回っているプライズマシン「ウイールキャッチヤー」だ。
それぞれのゴンドラにはデートを楽しんでいるみたいに小さなネコのクタクタぬいぐるみがペアで乗せられていた。
「ねえ、これどうやってやるの?」
斬山がネコのぬいぐるみに食いついて、横にいたボクに遊び方を聞いてきた。
「欲しい景品のゴンドラが来たらタイミングを合わせてボタンを押すんだ。
するとフックが出てゴンドラのフチを引っかけて傾けるんだ。
でもってうまく景品を下に滑り落とせばGETできる仕組みだよ」
「ふーん」
「……試しに、やってみようか?」
「うん!」
よーし、彼女の手前、いいところをお見せしようじゃありませんか!
早速コインを投入して、ここだ! というタイミングでボタンを押す。
ゴンドラは傾いたが、ぬいぐるみが滑り落ちるところまではいかなかった。
「あちゃー惜しい!」
斬山を見ると残念そうな顔をしてこっちを見つめている。
よっぽどこのぬいぐるみが気に入ったのだろうか。
対戦ゲームでとんでもなく猛威を振るっていた猛者がすっかりフツーの女の子に戻っているではないか。
ちょっとしたデモンストレーションのはずだったのだが、彼女を喜ばせたい気持ちもあって、ついコインを続投してしまった。
結局、3回もコンティニューを重ねて、ついに子ネコのぬいぐるみをペアで落とすことに成功した。
「ほら、取れたよ!」
「やった! ケント君! すごい!」
「あげるよ」
「えっ、いいの? ほんとに? 嬉しい! でも、悪いよ」
「いや、いいって。ボクが持っててもアレだしさ!」
斬山のコロコロ変わる表情は見ていて飽きないというか楽しい。
「ありがとう! じゃあひとつは君が持ってて! おそろで」
「おそろ……」
斬山は2匹の子ネコのほっぺとほっぺをくっつける。
「ほらっ、かわいいね!」
エッ、エモい! エモすぎる!
「コホン、ん、ああ」
景品タグの品名には「くびネッコ」と書いてあった。
あーなるほど! 首根っこの皮をつまむとおとなしくぶら下がる子ネコのポーズがモチーフか。
少々お財布の中身に響いたが、栄光を掴むための痛みだとと思えばなんとか……。
斬山の意外な一面が見られただけでも良しとするか。
それからボクたちは施設内に営業するオープンカフェに移って一休みすることにした。
まずはスカイボード勝者の斬山の頭上にフライドポテトの王冠が輝いたことを報告しておく。
女子たちは併設されたクレープ専門のワゴンカーに目を奪われている。
その商品サンプル数の多いことに驚嘆する。
“映え”を狙ってか、クレープの中身だけでなく皮の部分も赤や緑、黄色と選べるらしい。
トッピングもお好みで色とりどりのカットフルーツ、クラッシュアーモンドに綿あめキャンディー、マイクロチョコレート、ソース類などをセレクトして自分だけのマイクレープを注文することができるようになっている。
「いらっしゃいませー」
笑顔の素敵なかわいい制服の女子店員さんは、いったいどれだけ高度なオペレーション遂行能力を身に着けているというのだろう。
女子たちは生クリーム、モリモリ、トッピング、マシマシのオリジナルクレープを手にキャッキャッしながらテーブルに戻ってきた。
ひとしきりブログ用の写真を撮りあっていたが、“おわぁーー!”というメイの嬌声で強制終了となった。
彼女はベストショットのアングルを探して撮影に夢中になるあまり、トッピングのプリン・アラモードを“ポロリ”してしまったのだ。
どうしてそのようなトップヘビーなトッピングを選んでしまったのだろう。
床に気前よくプリンをダイブさせて落ち込むメイに同情した女子たちは自分たちのクレープからチョイ足しトッピングで援助してあげていた。
「なんつうかさ、まあ、なんだかんだ言って俺たちっていいチームだよな!」
「なんだかんだ言わなくったって、いい友達だよ」
「うん!」
ヒロミチのわざとらしい振りに、わざわざ口に出さなくてもと思いながら、皆おおよそ同意を示す。
「ダチか、タッくんとユカイななかまたち……」
榎原の呟きは敢えてスルーする。
「ところでみんな、今度の遊びの話だけどさ! 屋内リゾート「グランシェル・ブルー」に行こうと思うんだが!」
「おいおい、リゾートって、まだそんな季節にゃ早いだろ、ヒロミチ! それに観そびれた映画はどうすんだよ!」
榎原の反論にヒロミチは結論ありきで答える。
「もちろん映画も行くさ! けど、シーズン前の今だからこそグランシェル・ブルーはリーズナブルに利用できるんだよ! 屋内だから極論言うと真冬だろうが天候不順だろうが関係ねーけど、コストパフォーマンスが高い今だからこそ推したいんだよ!」
「あれもこれもなんて、なんて欲張りなのかしら!」
自分にない物へのあこがれなのだろうか、メイが恨めしそうにヒロミチの顔を見る。
「シェル・ブルーって、あのでっかい波のプールでしょ? 一度行ってみたいと思ってたんだー。でもでも、でもね、みんなの前で水着を着るのは、まだちょっと抵抗あるかな……」
ハルミが両頬を手のひらで覆いながら恥じらう。
「ハルミ君! なにを言っているんだ! 仲間うちで抵抗も何も!」
「ちょっと! 男子と女子じゃ違うんだから!」
「ナニがどうちがうというのかね?」
「ヘンタイ! エロミチ!」
こういう会話には斬山は入っていかい。あくまで受け身体制で傍観しているのみだ。
「ヒロミチ、生き急ぎすぎるな! 何か悪いフラグが立つ前みたいだぞ。それにシーズンオフといったって、それなりの資金が必要なのは変わりないだろ」
「ケント、不吉なこと、言うな! 入場料は何とかなるって言ったらどうする? お前も行くだろ!」
「いっいや、僕も、まだ仕上がってないし」
「何がだよ? 今さらどこをどう仕上げんだよ! とにかく夏本番じゃあ遅いんだよ。つべこべ言わずに予行演習だと思ってさ、行こうぜ、みんな!」
「あんたって、ほんと、遊びの計画に関しては活き活きしてるわねー」
「おしっ、決まり! 週末、水着持参で駅前集合なっ」
どこまでもポジティブなヒロミチだった。
しかし、ここでいきなり水着会をねじ込んでくるとは時期尚早ではないのか?
まだみんな一緒に遊び始めて間もない仲なのに、詰め込みすぎにもほどがある。
だがしかし、斬山が参加するなら話は別だ。
見たい! 斬山の水着姿、見たい! 期待感がハンパない。
今からワクワクが止まらない。
(オラ、ワクワクすっぞ)
そういえば僕の水着、どこにしまってあるんだっけ? 帰ったら探さなきゃ!
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