第6話 赤い腕時計
慌ただしく日が過ぎて金曜日。
仕事の後に秋子は吉祥寺のコピスをプラプラしながら、Twitterに吉祥寺の写真を上げようか悩んでいた。
オシャレな店の写真…
賑わう通りの写真…
ん~私らしくない。
と、その時花屋さんを見つけた。
店の中を見渡すと目に留まったのは
シクラメンの花。
秋子はその中から紫がかった濃いピンクの物を選び購入する事にした。
帰り道、井の頭公園の池の向こうに弁天様が見える所で、シクラメンを取り出しその風景をバックに写真を撮った。
よし。これをTwitterに上げよう。
そういえば、シクラメンの花言葉ってなんだろう。
検索してみた。
「内気、はにかみ、遠慮がちな期待」
…
おぅぅ…
「遠慮がちな期待な」…
ふと、左手に鉢を持っているアホみたいな自分に気が付くと、恥ずかしそうにしまって家路についた。
今日、美鈴に鵠沼海岸に行く事を話さなくては。
家に着き、テレビをつけて夕食を作り始めたが、暗いニュースばかりだったので、テレビを消して湘南サウンドを流した。
若大将!
「加山雄三いいわぁー」
独り言を言った。
そこに美鈴がやって来た。
「珍しいの聴いてるね~」
「そうかな」
「最近音楽なんて聴いてなかったじゃない~」
その時「ピンポーン」
何かが届いた。
「はいー」秋子は玄関に行く。
キッチンにスマホを置いたままで…
美鈴はふと、その画面を見ると…
Twitterのプロフィール画面が映り。
アイコンに赤い腕時計。背景には銅像。
「ウソ!」…美鈴は青ざめた。
なんで…
間違いなく鵠沼海岸。
あの銅像はサーフビレッジ横にある平和の像
あの腕時計…
「おばあちゃんから梨が来たわよ~」
あれ?
美鈴は部屋に戻っていた。
気にせず、秋子はルンルンで料理の続きを始めた。
美鈴は部屋で大きな音でヒップホップをかけて、ベッドに仰向けになると驚きを隠せずにいた。
あの赤いGショック…
そう。はっきり覚えている。美鈴の好きなヱヴァンゲリヲン2号機の物だったから…
言わずもながら美鈴の推しは
式波・アスカ・ラングレーである。
「絶対にあの人だ。
なんでお母さんがあの人のTwitterを見ているんだ。。。」
けど…聞けない…
しばらく様子を見てみよう。
バレない様に冷静にいなきゃ。
「美鈴ご飯にするよー」
二人で夕食を食べ始めた。
秋子はルンルンを少し抑えて、いつ鵠沼に行く事を伝えようかタイミングを見ていた。
一方の美鈴は仮面を被り、母の横顔をうかがいながら疑問の渦の中…
この季節に海だけが目的だと怪しまれるから江ノ島に行って、その足で鵠沼に向かうと伝えればいいかなと考える秋子。
美鈴はというと、考えても考えても母とあの人の接点が見えないでいた。
夕食が済んで、部屋に戻ろうとする美鈴に
秋子が声をかけた。
「日曜日にちょっと江ノ島に行って来るね~」
ハッ!?美鈴は不意討ちを喰らった…
動揺を隠して、口を開いた。
「えっ。なんで江ノ島なの?」
「この前テレビで特集やってたのを見て行きたいなぁ~って。」
…
「そうなんだ。。行ってらっしゃい。
たまにはいいんじゃない~」
美鈴はさっと部屋へと戻った。
一方の秋子は、ちゃんと行き先を伝えれたのと、またあの海に行けるので、すかした顔をしときながら心は踊っている。
秋子はスマホを見てみた。
公園でTwitterに上げた写真に彼は反応していない。
まだ見てないのかな~
もしくは写真がババ臭かったかな…
あまり考えずに洗い物を始める。
家事が終わると秋子は買ってきたシクラメンの花を見つめてふと思った。
私、何してるんだろう…
何を望んでいるのだろう…
自分がわからなくなってきた。
たがもう動き出してしまった。
あの夜から…
秋子の気持ちを乗せた船は既に出航してしまった。高々と汽笛をならして。
途中で錨を下ろす訳にはいかない。
秋子の気持ちは波に揺られ、煙りに巻かれながら夜は更けていった。
My Heart Will Go On
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