第12話 追われる者

 私たちは方位磁石を頼りに、森の中を北に向かってひたすら歩いていた。


「ねえ、さっき、ディートリヒって人が使った魔法って何だったの?」


「あれは、地の魔法だ」


 魔法を間近で見ることになって驚いたのだけど、確かによくよく思い出すと、登場人物にそれぞれ魔法属性があった記憶がある。

 ギルベルトは赤銅色の髪の見た目通り、火属性だった。

 主人ヒロイであるティアナが危機に陥った時、手から出した炎で相手を威嚇していたことがある。

 魔法が存在していることを忘れていたのは、ミアになってから一度も魔法を使う人の姿を見なかったからだ。


(街にも村にも、魔法が使える世界という雰囲気がなかったよね)


 不思議な力といえば、ミアの占いの力も相当不思議なものだと思うけど、いまいち華やかさに欠けるため、意識の外だった。


「そういうことも忘れてるのか……」


 ギルベルトは足を止め、少し憐れむような目で見下ろしてきた。


「魔法の属性は四種だ。地、火、風、水。ちなみにお前の持つ占いの力は、この中のどれにも属さない。聖女の力に近いものらしい。……教会が金を払って人を買うなんて聞いたことがないが、この力に関わることなのかもな」


 言って、また歩き出したので、慌てて追いかける。


「みんな、魔法を使えるの?」


 ギルベルトは首を振った。


「半数しか使えない。使える者でも、戦いや仕事に生かせるほどの魔法を操る者はごく限られている」


 少し安心した。周りの人がすべて魔法使いだったら、とてもじゃないが太刀打ちできない。


「じゃあ、ギルベルトはその限られた人間?」


 ギルベルトはしばらく答えなかったが、ややしてから口を開き、


「ああ。もっとも俺の場合は、内なる魔物の影響らしいがな……」


 自嘲気味に頬を歪める。

 内なる魔物とは、ギルベルトの中に巣くう魔物のこと。

 確か魔物つきである彼の中には、〈紅きドラゴン〉がいるとされていた。

 ギルベルトが自分の中の魔物が暴れて、ひどくもがき苦しむ場面があって、そこに駆け付けた主人公のティアナが涙を流しながら優しく抱き締めるのだ。「内なる魔物に負けないで」と。

 大好きな場面の一つで、見るたびに涙を浮かべたものだ。

 でも実際に目の前に、魔物を内に抱えて苦しんでいるギルベルトを見ると、その場面で感動して、大好きな場面などと言っている自分が、とてつもなく醜い人間のように思えてくる。


(やっぱり、何とかしてあげたい。何ができるのかわからないけれど、ギルベルトの力になりたい)


 ふいに目の端に、何かが横たわっているのが目に入った。よく目を凝らして、その何かを確認する。


「あ! 子供! 子供が倒れてる!」


 気がつけば、叫ぶと同時に駆け出していた。


「おい、どうした⁉」


「あそこに子供が倒れてるの!」


 私は木の根元で倒れている子供に駆け寄った。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る