第8話 未来の聖女候補 ティアナ

 村に着くと、ギルベルトはお店の並ぶ一角に案内してくれた。


「ティアナって、どの辺に住んでるのかな?」


 お店の軒先を一通り見てから、ギルベルトに問う。


「そうだな。店の主人に聞いてくる」


 ギルベルトは近くにあった肉屋の主人に声を掛けた。


「ティアナ? ああ、さっきここを通って行ったぞ。たぶん、川近くの草原だろう。いつも子供たちはあそこに集まってるから」


 ギルベルトは礼を言って、情報料代わりに干し肉をいくつか買った。


「川の方らしい」


 さすがに、勝手知ったる自分の村では迷わないようで、ギルベルトは先に立って、川まで案内してくれる。

 土手の下には一面黄緑の草原が広がり、その中をちょろちょろと細い川が流れていた。

 川沿いでは十数人の子供たちが、草の上に寝転がったり、花冠を作ったり、草の船を作って川に流したりと、楽しげに遊んでいた。

 ティアナは金髪の巻き毛の可愛い女の子のはずだ。

 私の思い浮かべる彼女の姿より、二歳若い十三歳の少女。

 金髪の女の子に目を付けて、じっと見つめていると、今まで背を向けていた花冠を頭に載せた少女が立ち上がり、振り向いた。


(あ! いた! ティアナだ!)


 金髪の髪に、翠玉の瞳。ぱっちりとしたお目目が愛らしく、ふっくらした頬がほのかに薔薇色。唇も桃色でお花のように可愛らしい。


「いたよ、ギル! あの子!」


 私がギルベルトの袖を引っ張って、ティアナを指さすと、彼は目を細めて彼女の方を見た。


「ああ、あの子か」


 どうでも良いというような声を出すので、思わず彼の顔を見上げた。


「え! ティアナだよ! ほら、すっごく可愛いでしょう! 自分のものにしてしまいたいと思うくらいに!」


 ギルベルトが私を見下ろした。

 その瞳には呆れたような色が浮かんでいる。


「全くそんな気は起きないな」


「なっ……!」


「声掛けなくて良いのか?」


 いかにもギルベルトは興味なさそうに、ティアナの方に顎をしゃくる。


「うーん……知り合いってわけでもないし、とりあえず今日のところはいいや」


 話しかけるつもりなど毛頭なかったので、会話の内容など一切考えていない。そもそも共通の話題があるとも思えず、いきなり「この人、ギルベルト・ヴォルフ! 素敵でしょ! 好きになって!」などと言うわけにもいかない。

 後ろ髪引かれる思いを抱きつつも、私とギルベルトは再び商店の並ぶ村の中心部へ戻ることにした。








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