第13話 暗躍

「ライルさん、休んで下さい! もう何日も寝ていないんでしょう? 仕事は我々が代わりますから!」

「いや、大丈夫だ。仕事の合間に、ちゃんと休んでいるからな。それよりも、君達の方が疲れているように見える。しっかり休みを取りなさい」


 ライルと呼ばれた青年が仕事の手を止めず、疲れた表情を浮かべる男達に答える。ライルの目の前には、大量の書類が置かれていた。それを順番に処理しているのだ。その作業中に、彼の仲間が休むように忠告しに来た。


「そう言ってくれるのは嬉しいですけど……。でもライルさんだって、同じじゃないですか。疲れているでしょう?」

「私はいいんだ。これくらいで参る程ヤワではないよ」


 休むように言われたライルだったが、必要ないと拒否する。エネルギーが十分に残っているからだ。それに、この作業は自分がやらなければならないこと。他の誰かに任すわけにはいかない。この仕事を滞らせてしまうと、多くの人達が困ってしまうから。各地から逃げてきた市民達の多くが。


「だけど……」

「いいから、お前達は気にせずに戻って休みなさい。私は、まだまだ元気だからね」


 まだ何か言いたそうな仲間達を宥める。納得していない様子だが、これ以上ここにいても邪魔になるだけなので、仕方なく引き下がった。


 彼らは部屋から出ていく前に、もう一度だけ振り返ってライルを見る。


「無理しないでくださいよ? 今、貴方に倒れられたら多くの人達が困ってしまいます。貴方は、この街を救ってくれた英雄なのですから」

「英雄などではないが、分かっている。無理はしないよ。だから、君たちも安心して休むように」


 心配する仲間の背中を見送った後、ライルは再び書類との格闘を始めた。その処理スピードは、常人離れしていて間違いも全て見逃さない。


 しばらくすると突然、部屋の中に気配が1つ増えた。ライルは手を止めて、部屋に入ってきた人物と向かい合う。


「予定通り、王国軍と反乱軍の戦力を削ぐことに成功。しばらく、この街は安全だ」

「了解した。引き続き、奴らの監視を頼む」


 前置きもなく、報告を始める来訪者。ライルは戸惑うことなく受け入れる。


「例の盗賊団も処理した。Gエリアまでのルートの安全も確保している。商人に伝えると良い」

「了解した。受け取った情報を、こちらで知らせておく」


 淡々とした調子で、報告は続く。その内容の一つ一つが、とても重要で重大な情報だった。ライルはその全てを、聞き逃さずに耳を傾ける。そして、脳内に記録した。


「では失礼する。また連絡しに来る」

「ああ、待っているぞ」


 用件を伝え終えた来訪者は、来た時と同じように唐突に立ち去った。部屋に残されたライルは、再び仕事に取り掛かる。まるで、何事もなかったかのように。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る