第11話 出来ません ※アーベルト視点

「マルクラム家から購入した商品だというのに、直せないとはどういうことだ!」

「も、申し訳ございませんッ!」


 アーベルトはイラつきながら、バンと大きな音を立てて机を叩いた。マルクラム家当主は怯えて謝罪を繰り返す。


 屋敷にある道具や設備が、一斉に動かなくなった。それらを管理していた担当者も姿を消して、動かなくなった原因も不明のまま。


 なので、商品を売りつけてきたマルクラム家を呼び出した。すぐに修理させようと思ったのに、それが出来ないと言う。アーベルトの怒りは収まらない。


「ならば、直せる者を今すぐ連れてこい!」

「そ、それも、今は……」

「何故だ!?」

「実は、その、マルクラム家の技術者達が居なくなってしまいまして……」

「なにッ!? それは、どういうことだ!!」


 修理することは出来ない。その理由をマルクラム家の当主が説明する。


「じ、実は、マルクラム家の発明品はユリアンカが管理しています。マルクラム家は、それを売って商売していただけで……」

「なに!? ユリアンカだと?」

「はい。それから、娘と一緒に居た技術者達も姿を消してしまい、連絡が取れなくなっているのです。だから、壊れてしまった商品の修理など我々には無理なんです」

「そんなバカな……」


 アーベルトは呆然とした。マルクラム家には技術力があると思っていたら、売っていただけだったのだ。そして、その力を持っていたのは婚約破棄を告げたユリアンカだった。


「……ユリアンカは、どこに行った? マルクラム家の屋敷に居るのではないのか?

「いえ。娘は、王子の誕生日パーティーでの出来事以来、行方不明になっています」

「……」


 ユリアンカは、アーベルトの誕生日パーティーから逃げ出して姿をくらませたまま。今も捜索を続けているが、見つかっていない。どこにもいない。自分の家にも帰っていない。


 そして、マルクラム家の技術者達もユリアンカと共に姿を消したという。


「くっ……。あの女……」


 アーベルトは悔しそうに拳を握る。婚約を破棄しただけで、こんなも面倒なことになるなんて予想していなかった。


「とにかく、商品を売ったマルクラム家にも責任がある! 高い金を支払って商品を買ったんだから、お前たちで何とかしろ! 出来なければ、ただでは済まさないぞ! 覚悟しておくんだな!」

「そ、そんな……」


 マルクラム家の当主は情けない声を上げた。もし、直せなければ責任を負わされるだろう。だけど当主は、どうすることも出来ない。頼り切っていた娘のユリアンカが居なくなってしまったから。

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