第10話 天空での生活

 空に来てからも、あまりユリアンカの生活は変わらなかった。続々と湧き出てくる新たなアイデアを研究して、開発して、発明品を量産していく日々だ。ユリアンカが想像していた以上に、何事も変化なく過ごすことが出来ていた。


 そんな生活を送る中、ある日のこと。


「ユリアンカ様」

「あら、どうしたの?」


 話しかけてきたのは、この天空の土地では収集することが出来ない鉱石などを地上に降りて買い集める任務を与えている自動人形だった。


 その自動人形が、取引報告以外で話しかけてくることは珍しかった。いつもなら、端的に報告だけ済ませて去っていくのだが……。


「地上で内乱が起こる気配があります」

「…………内乱? なぜ?」

「どうやら王族と、一部の貴族が対立しているようです。それに、平民も巻き込まれそうです。その時のために各自で備えています」

「なるほど。それは、大変ね」


 そう言うユリアンカは、あまり興味はなさそうだった。地上から離れて、そういう面倒事に一切関わらない生活を送りたいと考えているから。


「それで、取引にも問題が生じる可能性が」

「そっか。それは、ちょっと困るわよね……」

「はい。なので、何か対策を考えなければなりません」


 ユリアンカは少し考える仕草をして、それから口を開いた。


「貴方は、どうしたいの?」


 自動人形に問いかける。すると、彼は答えた。


「……私は、友人になった商人を助けたいと思います」


 そんな答えを聞いて、ユリアンカは嬉しくなった。ちゃんと自分で考えて、望みを言える。それは、とても素晴らしいことだと思ったからだ。


 面倒だから、地上との関わりを避けていこうと考えていたユリアンカ。だが、その考えを変化させる。自分の作った大切な自動人形の望みを叶えるために、力を貸してあげたいと思った。


「わかったわ! それじゃあ、色々と支援してあげる。ここに置いてある発明品も、必要なら自由に使ってちょうだい。だから、地上に戻って貴方の好きなように行動していいわよ!」

「ありがとうございます、ユリアンカ様。感謝します」


 そう言って、お辞儀をする自動人形。それを見て、ユリアンカは満足げな表情を浮かべていた。


 その後、他の自動人形たちにも問いかけてみた。地上に戻って行動したいと望んだ子たちを好きなように行動して良いと命令を与えて、見送ったりしていた。それから自分は、研究に戻る。助けを求められた時には全力で応えられるように準備を整えておく。


 そんなこんなで、しばらく経って……。

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