第9話 彼女だけの場所

「皆、揃ってる?」

「「「はい」」」


 ユリアンカは、目の前で待機している数百体の自動人形たちを見回していく。一体一体を自分の目で確認していき、皆居ることを確認した。


「うん、ちゃんと全員無事に帰ってきたようね。おかえりなさい。それじゃあ早速、出発しましょうか」

「「「はい」」」


 朝日と共に、ユリアンカは空へ上がる。数百体の自動人形と、今までの研究成果や開発途中の発明品、色々な素材などを全て積み込んだ箱も一緒に。


 ユリアンカが発明した乗り物で、一気に上空まで飛び上がる。


「ユリアンカ様、防寒着を用意してあります」

「確かに、ちょっと寒いわね。ありがとう、助かるわ」


 気温の低い上空に上がっていくため、ユリアンカはユリアの用意してくれた分厚いコートを羽織った。肌寒さを感じていた温度が、ちょうどよくなる。


 それからしばらくして、目的の場所に辿り着いた。そこは、空の上に浮かぶ大地。


「やっぱり、ここからの眺めは素晴らしいわね。もっと早く、こっちに来ればよかった」

 

 前方を見ると、草原と森と小さな山が広がっていた。上空には、いつもと比べたら濃く見える青色の空がある。そして背後は断崖絶壁。遠く離れた所に地上が見える。


「ここは今、地上から何メートルぐらい離れているのかしら?」

「およそ、二千メートルです」

「ふーん……、そうなんだ」


 ここまで来ると寒くなくなる。防寒着を脱いで、普段通りの格好になった。


 この場所はユリアンカの発明した装置によって、人間が生活するのに適切な温度を常に保っている。だから、地上と同じ格好で過ごすことが出来た。空気も薄くなくて、地上と同じように暮らすことが出来る環境に整えてある。


「持ってきた荷物を、研究施設に運び込んでちょうだい。整理は後でするから、とりあえず必要なものだけ取り出しておいて」


 草原の中に、ポツンと屋敷が建っている。そこが、ユリアンカの新しい研究施設だった。自動人形達はテキパキと作業を進める。その様子を見て、ユリアンカは満足そうに微笑んだ。


「ふふっ……。この子達には、感謝しないとね。私が研究に没頭している間、ずっと見守ってくれていたのだもの。これからは、自由に過ごしていいって伝えないとね」


 この天空の楽園には、ユリアンカ以外に人間は居ない。畑を耕し、家畜を飼って、自給自足も可能だった。空中に浮いているので、外敵の心配もない。この上空にある場所まで辿り着くためには、ユリアンカの特殊な技術が必須だったから。

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