第4話 報告
見たことのない道具や薬品、素材などが乱雑に置かれた部屋。そこに一人の少女が入室した。その部屋の中央には、一人の少女が座っている。
その少女に近づいて、もう一人の少女が呼びかけた。
「ユリアンカ様」
「あらぁ、どうしたのユリア? 今日はメンテナンスの日じゃないでしょう?」
座っていた少女が振り返り、部屋に入ってきた少女と向かい合った。二人の顔は、全く同じだった。だけど表情が違う。
ユリアンカと呼ばれた笑顔の少女と、ユリアと呼ばれた無表情の少女。
「ご報告したいことがあります」
「何かしら。どうやら、良くないことのようね」
ユリアが先程のパーティー会場で起こった事件について、ユリアンカに詳細を報告する。
婚約相手だった第一王子アーベルトから、婚約破棄を告げられたこと。
ニアミーナという令嬢をイジメたという告発をされたこと。
兵士に捕らえられそうになり、フルパワーで逃げてきたこと。
報告を聞き終えたユリアンカは、笑顔のまま言った。
「そっか。そんな事になっていたなんて、面倒ね」
「申し訳ありません、ユリアンカ様。役目を果たせず、こんな事になってしまって」
「いやいやぁ、いいのよぉユリア。お役目なんて気にしないで~」
そう言いながら、ユリアの頭を優しく撫でるユリアンカ。お疲れ様という気持ちを込めて、とても愛おしそうに。
頭を撫でられたユリアは安心して、少しだけ笑顔になった。
ユリアは、ユリアンカが作り上げた自動人形だった。
開発や研究などで忙しいユリアンカの代わりとして、表で生活しているのがユリアだった。それは、ユリアンカや彼女の生み出した自動人形たち以外は知らない事実である。
当然、アーベルトやニアミーナは知らない。ユリアンカがアーベルトと直接会ったのも、10年以上前の事である。それ以降は、自動人形のユリアが対応していた。
見た目はユリアンカと同じで、人間のようにしか見えないユリア。だけど人間とは違う特別な機能が数多く搭載されている。人間以上のパワーを発揮することが出来たのも、その機能のおかげだった。
ユリアは、屈強な兵士でも簡単に倒せるほどの戦闘力を持っていた。
そんなユリアの任務とは、面倒な事件を起こさないように生活すること。なるべく穏便に過ごすことだった。だけど今回、婚約破棄を告げられてしまった。任務は失敗である。その事をユリアは、申し訳ないと思っている。
けれどユリアンカは、ユリアの失敗を気にしていなかった。仕方がないことだと、失敗を責めない。話を聞いて、アーベルトたちの行動が理解できなかったから。悪いのはユリアではなく、彼らの方。だって、意味が分からないから。
なんで、ちゃんとした事実を確認しようとしないのか。一方だけの証言を信じて、ユリアを責めるのか。兵士に捕らえさせて、処罰しようとするのか。
「まあ、こうなってしまったら仕方ないわね。面倒になりそうだから、この国からは出ていきましょうか」
こうしてユリアンカは、ノイマイン王国から出ていくことを決めた。
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