第3話 都合が悪いから

「こんな話し合いは、もう十分だッ! パーティーが台無しじゃないか!?」

「……」


 この話を切り出したのはアーベルトだ。身に覚えのない話で責められるのも嫌だ。だから、この場で事実を明らかにしようとしたというのに。ユリアンカは思ったが、何も言わなかった。


 怒鳴るアーベルトを、無表情のまま静かに見つめるだけ。


「お前との婚約を破棄するのは既に決定事項だ。そして、ニアミーナをイジメた罪もしっかり償ってもらう!」


 そう言って、話を聞こうとしないアーベルト。彼の横で勝ち誇った笑みを浮かべるニアミーナ。無茶苦茶な話だった。




 面倒なことになってしまったと、困ってしまうユリアンカ。このままだと、迷惑がかかってしまう。今までは上手くやって来たというのに。理解不能な相手が原因で、もうめちゃくちゃだ。


「おい、衛兵たちよ! この女を連れて行け。彼女の犯した罪を全て暴き出すのだ!」


 アーベルトが兵士に命令し、強引に事を進める。命令された兵士たちは、困惑していた。しかし、王子の命令に背くわけにもいかない。仕方なく、令嬢のユリアンカを捕まえようとする。


 だが、次の瞬間。


「ぐあっ!?」

「な、なにっ!?」

「キャァァァッ!?」


 ユリアンカの腕に手を伸ばした兵士の男たちが吹き飛ばされ、空中に浮き上がる。その後、ドスンと大きな音を立てて床の上に転がっていった。


 吹き飛ばされた男たちは、何が起きたのか理解できないと呆然とした表情。周りで見ていた観客の女性が、吹き飛んだ男たちを見て悲鳴を上げる。


「な、何をしている!? 反抗する気か!」

「……」


 無表情だったユリアンカが、想定外の事態に困ったというような表情を浮かべる。


 この体に触れられたくなかったから、思わず反応してしまった。捕まえようとする兵士たちの手を逆に掴んで引っ張り、床の上に放り投げた。そんな事をするつもりはなかったのに。なるべく穏便に過ごすよう命令されていたから。


 もう遅いか。どちらにしろ、今回の件を報告しに行かないと。ユリアンカは、この場を離れることにした。パーティー会場から移動して、あの人のもとへ向かう。


「ま、待て! 逃がすなッ!」


 背後から聞こえてくるアーベルトの声。そして、接近してくる大男の兵士たち。


「がはっ!?」

「うわっ!?」

「な、なんで……!?」


 彼らがユリアンカを捕まえようとした瞬間、再び彼らは床の上に転がっていた。何をされたのか分からないまま、地面の上に倒れている。非力な少女を相手に、鍛えている兵士たちが倒された。ありえないことだった。誰も彼女を止められない。


 ユリアンカ以外に、何が起きているのか理解する者は居ない。ただ、会場から出ていく彼女を見送ることしか出来なかった。

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