3作目:悪魔のような天使
私は《裁きの天使》。
誰よりも清らかで、誰よりも正しい。
そして、悪者を裁くのはたいへん気持ちが良い。
私たち天使のお仕事は、人間界の幸福の総量を増やすこと。
だから今日も、せっせと善行をこなす。
「誘ったのは君だったじゃないか」
夜中のとある喫茶店。目の前の男が何事か喚いている。
先日見かけた際、癒しを求めていた男だった。
「君が食事に誘い、お酒に誘ったせいで、妻から浮気を疑われた」
そういえばそうだった。
善行の一環として、離婚話の相談に乗ってあげたのだった。
それがかえって、災いを悪化させてしまったのだという。
「この悪魔め!」
天使に向かって悪魔はないだろう。
これは良くない。
私を悪者だと思っている人がいることも、人に罪をなすりつける悪者がいることも。
数日後。
「君、また良い評判を聞きましたよ。なんでも酒癖の悪い夫を引き離し、妻に自由を与えてあげたのだとか」
世界中から人間の声を聞く《見聞の天使》が言う。
「夫はどうしたのですか?」
暗に探りを入れるような聞き方だ。
もう知っているくせに。
「彼は新しい人生を歩き始めました」
私を悪者扱いした男が飲んだドリンクには、強力な睡眠剤を入れておいた。
飲んだらほぼ脳死だ。
病院の診断結果は改ざんさせ、お酒が原因による疾患と言うことにしておいた。
肝臓などいくつかを除いて、彼の臓器はドナーを待つ臓器移植待ちの人々の元に渡っていった。
夫の妻は「あんな人でも誰かの役に立てるのなら」と臓器提供に大賛成。
診断結果にもさほど疑問を抱いていなかった。どうでもよかったのかもしれない。
とにかく、彼女の解放感に満ちた顔が印象に残っている。
「それは良かったですねえ。あなたは、今日も清く正しい」
《見聞の天使》の含み笑いに、何が含まれていたのかは興味がない。
いきさつは重要ではないと思う。
大事なのは私が正しくあることだから。
「ええ、その通りです」
にこりとほほえんで、私は《見聞の天使》の言葉を額面通り受け取ることにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます