2作目:あくまでも悪魔

 俺は《未来視の悪魔》。

 未来を見通す力を使って、やりたい放題やっている。

 悪魔の仕事は、人間たちの不幸の総量を増やすことだ。


 しかし俺は「いいヤツだ!」と思われることにこだわっている。

 目指すは誰からもいいヤツ認定されることだ。

 もちろん、人間の皆からもいいヤツだと思われたい。


 ある日、人間界をうろうろしていると。

「ああ! なんでこんな時に限って!」

 都心から少し離れた道路わきで男が頭を抱えていた。

 ワゴン車が脱輪していた。どうやら急いでいるらしい。

 そんな時に限ってトラブルが起こるものだ。

 かわいそうに。助けてやるとしよう。

 俺は運転手と協力し、元の状態に復帰させてやった。

「ああ、あなたは善行の悪魔! ウワサは本当だったのですね」

 運転手は心からの感謝を俺に告げ、車を再び走らせた。

 人を助ける悪魔がいる。 

 そんなウワサは既に一般化し、巷で俺は《善行の悪魔》と称されている。

 皆からいいヤツだと思われて嬉しい限りだ。



「おぬし、あれはどういうことだ」

 上司である《千里眼の悪魔》が問い詰めてくる。

 俺が人間を助ける様子を見ていたらしい。

「あれでは不幸の総量を増やせないではないか」

 その顔も声も、やけに不満そうだ。無理もない。

 俺がやったことは人助け以外の何物でもないのだから。

 だから、直接見てもらった方が早い。

「大丈夫ですよ」

 そう言って俺は、《千里眼の悪魔》に人間界のとある町を見るように伝える。

「じきに分かります」

 しばらく経って《千里眼の悪魔》は満面の笑みを浮かべた。

「素晴らしいな、君は。最高だよ。私はなんていい部下を持ったのだろう」

 彼が千里眼で見た光景は、人間界のとある町で、人込みに猛スピードで突っ込んでいくワゴン車と、そこから出てきた武装した男により人々が蹂躙される様子だった。

 間に合ったようで良かった。


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