掌編・短編100本企画【100本書くまで作家と名乗れない件】

こばなし

1作目:彼女ができた夢

 これはどうやら夢らしい。

 告白を承諾されてからデートの約束をした。

 しかし、時間の経過につれてだんだんと冷静になってきた。

 だって今まで百回以上もアプローチしてきたんだぞ?


 そのたびに断られてきた。

 何度も断られ、そのうえ他の男からのアプローチも一切意に介さない彼女が、俺みたいなのと付き合ってくれるわけがない。

 しかも噂によれば、各国の重要人物からも声がかかるというではないか。

 そんな彼女のことだ。何かいたずらか、からかいの類に違いない。


「お待たせ。……今日の格好、どうかな」


 しかし、彼女は来た。夢の中というだけあって、いつにも増して綺麗で可愛い。

 清楚な白いワンピース。真っ白な肌。

 まるで映画の世界のヒロインみたい。

 夢は願望を映すというから、100%俺の理想を再現しているのだ、きっと。


「すっごく綺麗だ」

「そ、そう? ……ありがとう」


 月並みの言葉しか出ない。でも、彼女は喜んでくれた。


 せっかくの夢物語。

 まやかしとは言え、楽しまなきゃ損である。

 俺は、この夢を全身全霊で楽しむことにした。



 定番中の定番、遊園地デート。

 彼女お勧めの遊園地である。

 割とエキサイティングなアトラクションが多い。


 一緒に絶叫したり、走り回ったりして楽しんだ。

 沢山回った後、最後のアトラクションに入った。


 廃工場を模した建物の中。

 敵はあちらこちらから俺たちを狙っている。

 シューティングアトラクション、と言ったらいいのだろうか。


「あ、あそこ! 物陰に潜んでいるよ」


 彼女が指示した方向に、素早く銃を構え銃弾を放った。命中。


 銃も本物に忠実に作られている。銃声が大きい。

 敵役が被弾した際の血のりや叫び声なども、かなりリアルなクオリティだ。

 これまで周ってきた場所も、まるで実際に体験しているかのようだった。


 まあ、夢なので自在に再現できて当然なのだろう。


「すごい……。大学で一緒に居る時は、こんなことができるなんて想像つかなかったよ」


「いやあ、君の前だとかっこつけたくなっちゃって。……と、危ない!」


 彼女の前に素早く回り込み、盾となる。

 同時に、こちらに銃を向けていた黒服サングラスの男に発砲。

 男は倒れ、痛そうなうめき声を出している。傷跡からは血のりが流れている。


「あ、ありがとう、助かったわ」


「そろそろ出口だ」




「ここまで安心できたのは、あなたが初めてだよ」


これまでも何度か、他の男とこの遊園地に来ていたということだろうか。


「いいとこ見せられたかな?」


「うん、ばっちり。合格です!」


 百万点の笑顔で言われる。

 ふむ、これがときめきと言うやつか。

 舞い上がりそうになったが、ちゃんと確認しておこう。


「彼氏として、認めてくれるのか?」


「もっちろん。あなたと一緒なら、どこに行ったって平気だよね」


 こんなに素敵な女の子と色んな所へお出かけする。

 どれほど楽しいだろうか? 考えただけでワクワクが止まらない。


「自分で言うのもなんだけど、私、色んな人から狙われちゃうからさ」


 迷惑そうな顔で言う。これだけの美貌と性格なら、沢山の男から付き纏われるのも無理もないし、迷惑がるのも当然だ。


「某国のスパイも、大国からの刺客も、あなたなら敵じゃないよ」


 その声音からは冗談っぽさはうかがえず、本気であることが感じ取れる。


「今日のはたまたま。アニメやドラマのアクションのイメージが役に立ったのさ」


 夢の中だからだろうな、きっと。


 というか、彼女、そんなにシューティングアトラクションが好きなのだろうか。

動きっぱなしは流石に疲れるのだが。


「ふふ、謙虚なんだね。今までの人もいいとこまで行ったけど、傲慢さが仇となって最後は駄目だった」


「そうだったのか」


 これまで付き合ってきた男たちと比べ、俺が一番。

 謙虚と言われたばかりだが、うっかり悦に入ってしまう。


「夢の中とはいえ、最高だな」


 すると、彼女が少し表情を曇らせる。


「ねえ、念のため確認なんだけど」


 刹那、左頬に衝撃が走り、パンという音が夕暮れの空にこだました。

 彼女から平手打ちを喰らったらしい。



 目が覚めたのだろうか。しかし、景色は変わらない。

 先ほどまでと変わらず、彼女は目の前にいる。

 変わっていたのは彼女の表情だけだった。


「……寝言は、寝てから言って欲しかったな……」


 焦燥と困惑の織り交ざる表情で彼女は言った。

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