第12話

 くそ!あいつさえいなければこんなことのならなかったのに。


 俺は今割と不愉快な気分なのだが、それは決して顔に出さない。


「どうか、もう少しお時間をいただけないでしょうか」


 俺は目の前の美しく長い銀髪を下す美女に、ひざまずいてこうべを垂れる。


「ふん、勝手にこんな結界作っておいてこれはないでしょう。どうしても無理っていうのなら、ここに生贄を持ってきて儀式を行ってちょうだい」


 この場所は大妖精ギルメージアを祭るために山奥に建てられた聖堂で、目の前の美女は大妖精ギルメージア本人である。


「それも難しいのです。結界の影響で生贄のための魔物が全滅しました」


 結界の効果は、魔物の侵入を妨げるというものだ。本来であれば、中に入った魔物を若干弱体化させる程度の効果なのだが、あのミョルニルとかいう怪物のせいで、その効果がはるかに向上し、中にいる魔物を短時間で衰弱死させるというとんでもない効果になってしまったのだ。


 で、それがこの大妖精ギルメージア様にどう影響するかというと、そもそもこの国は大妖精様の土地を貸してもらって開拓したので、その貸し賃として、毎月大妖精様に生贄を使ったおもてなしをしなくてはいけないのだ。このおもてなしを、大妖精様は「食事会」と呼んでいる。食事会は王城にある専用の部屋で行われ、生贄には我が国で捕獲または飼育している魔物が使われる。


 ところが、例の結界のせいで、大妖精様が王都に入れないという問題が起こった。大妖精様は、肉体のほとんどを魔力で維持する亜精霊型の生き物なのだが、魔力で生命を維持しているという意味では、広義の魔物に含まれているとも言える。ちなみに本物の精霊は肉体は一切持たないがこれも同様だ。


 そういうわけで、大妖精様は結界の影響を受けてもおかしくないのだが、大妖精様はそもそもとんでもない魔法力の持ち主なので、俺たち人間が作ったような結界はいともたやすく無力化できるはずなのだ。それが今できないのはもちろん、人外のミョルニルが勝手に結界を強化したせいだ。


 魔物が絶対に入ってこれないのは本来喜ぶべきところだが、我が国に限っては全く良くない展開となってしまった。

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