第6話

 私はリン!こう見えても神殿の巫女見習いなんだ!


 私の一日は朝の礼拝から始まる。そのあとは朝ご飯を食べて、それから巫女見習いとしての職務をする。最近はもっぱら町の広場の掃除!午前のさわやかな風を感じながら人気もまばらな石畳をほうきで掃く。


 掃除の仕事は大変だけど、誰かがやらなくちゃいけない。そう思うと今日も頑張れる。いつかは立派な巫女になって、教会の力で困った人を助けるのが夢なんだ。


 ふふ、私って健気でしょ。グフフ。


 おっと、素が。


 時がたち、昼時になるとこの広場にも人が多くなってくる。この町の中央にある広場に、休憩をしに来る人たちがいるのだ。そういう人たちは決まっておおらかで楽しそうにおしゃべりしながら屋台の食事を食べていく。今日もほのぼのした光景が広場に訪れる。


 この国はいたって平和だ。最近は何やら隣の国に大怪獣が現れて、国の魔術師団がやられたり、首都に呪いがかけられたりしたらしいのだが、それも隣の国の話。ここオルトメーン王国にはワイバーンを飼いならした最強の飛竜隊がいるので、きっと大丈夫だろう。


 しかし今日に限っては、平和な光景が中断された。


 広場につながる大通りの先から、何やら人物が歩いてきたのだ。いつもは能天気な顔をしている町の人々も、その人物にを見るや否や、さっと道を開ける。


 その人物は、身なりのいい服をした金髪の幼い男の子だった。男の子は一人で歩いていて一見無害そうだが、町の人が避ける理由は外観ではない。


 なぜか圧倒的な威圧感を放っているのだ。身長100センチに満たない子供のはずなのに、まるでそこに巨体のオーガがいるかのようだ。


 この威圧感の原因は・・・多分魔力だ。


 熟練の魔術師が放つオーラを百倍に濃くしたような感じだ。今私は人生で一番魔力を感じているかもしれない。ちなみに私は魔法がめっきり使えない。


 そんな男の子が、こちらに歩いてくる。ばっちり目が合った。


 あ、そうだ、私は巫女見習い。みんなの模範となる行動をしなくちゃ。まずは挨拶だよね。


「こんにちは!」


「こんにちわー!」


 男の子は元気に挨拶を返してくれた。なんだぁー、ふつうだ。でも、あまりのオーラに足がすくむ。男の子はもう目の前だ。私は努めて笑顔を作る。


「はじめまして。きみの名前を教えてくれるかな?」


「なまえ?なまえ・・・なまえ?んー・・・好きなように呼んでいいよ!」


「え、えぇ?えっと・・・きみはどこから来たのかな?」


「うーん、隣の国から?」


 と、隣の国ぃ??


「お、お母さんやお父さんは一緒じゃないのかな?」


「ぼくにはお母さんもお父さんもいないよ」


「そっかー、じゃあ他にきみを守ってくれるくような大人の人はいるのかな?」


「そうだ!思い出したよ!ぼくね、一緒にいてくれる大人の人を探してるんだ。みんな逃げて行っちゃうから寂しいの」


「そ、そっかー」


 ちょっと待って、状況がわからないよ。

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