最終章-17【開門】

魔王城街で屋根の上に立つゴリがアスランから貰った爆発のハープーンガンを撃ちまくっていた。上空を滑空するカイトフライヤーウッドゴーレムを炸裂する銛で撃ち落とす。


「どんどん落としてやるぜっ!!」


空に向かって銛を撃ち放つゴリは夢中になっていた。銛は直撃しなくっても空中で爆発してウッドゴーレムを巻き込むため次々と目標を撃墜できるのだ。故に楽しい。そして、爽快だ。


「これはとても良い武器だぞ!!」


更にバイマンが炎系の魔法を放ち、ミーちゃんはマジックアイテムの弓矢を放って応戦していた。


三人の攻撃がヒットして敵機を撃墜するのだが、飛行するウッドゴーレムの数は減らない。落としても落としても次々と新しいウッドゴーレムがヴァルハラから発進されるのだ。その数は寧ろ減るどころか増えて行く。


「ちっ――」


ゴリがハープーンガンを撃ちながら愚痴った。


「こりゃあ面白いけれど、切りが無いな……」


「ゴリさん、銛の補充ですよ~」


オアイドスが新しい銛を屋根の上に運んできた。ドサリと瓦の上に銛を投げ落とす。


そのオアイドスにゴリが訊いた。


「なあ、オアイドス。ソドムタウンからの援軍はまだか!?」


「さっきカンパネルラ爺さんが呼びに行ったから、もうすぐじゃないですか」


オアイドスが答えた刹那だった。空で爆発が連呼した。青い空が爆炎で赤く染まる。


「な、なんだっ!!」


爆裂魔法で粉砕されたウッドゴーレムの破片がバラバラと大量に降ってきた。


「またせたね、皆さん」


ゴリが屋根の上から路上を見下ろせば魔法使いの一団が立っていた。ゴリが歓喜な声を上げる。


「待ってましたよ、ゾディアックさん!」


三十人程度の魔法使いの部隊だった。その先頭に立つのは魔法使いギルドの幹部、ゾディアックだ。その後ろにスカル姉さんや火消し班のエスキモーも立っていた。テイマーのカンパネルラ爺さんも全裸で立っている。


そして、ビシリとスタッフを構えたゾディアックがゴリに言った。


「飛行クリーチャーは我々魔法使いの飛翔魔法に任せなさい。すべて撃ち落としてやりますよ!」


ゾディアックが言うなり魔法使いたちが各々得意な攻撃魔法を空に向かって放ち出した。火炎魔法、冷凍魔法、電撃魔法と様々な攻撃魔法が撃ち上げられる。そして、それらの攻撃魔法が次々とカイトフライヤーウッドゴーレムたちを撃墜していく。戦況は明らかに優勢となる。


ゴリは屋根の上から状況を見渡しながら言った。


「こりゃあ、勝ったな」


しかし、ゴリが呟いた刹那、大通りの向こうに大きな扉が突如姿を表した。


魔法の巨大扉だ。それは幅5メートル、高さ10メートル程度の鉄の門だった。まるでビルのように大きい。


「なんだ、あれは?」


ゴリが疑問に言葉を漏らすと両開きの門が音を鳴らしながら左右に開門した。その開いた扉の向こうに沢山の兵士が立っている。


扉の向こうは魔王城街とは別の空間と繋がっている様子。雑な鎧を纏い、雑な兜を被った兵士たちは、様々な武器や盾を持っていた。その人数は百や二百は居るだろう。成りからしてバーバリアンの傭兵集団だ。


そして、時空の扉の奥からバーバリアンたちが武器で盾を叩きながら前進して来る。威嚇の音がけたたましい。その傭兵隊には見覚えがない。敵側の援軍だろう。


「今度は歩兵かよ……」


明らかに数で負けている。それを悟ったゴリがゲンナリしていた。だが、降伏する気はサラサラ無い。


「おもしれ~、とことんやったろうじゃあねえか!」


ゴリが覚悟を決めるとバーバリアンたちが勇ましく雄叫びを上げながら走り出した。ゾディアックの魔法使い軍団に襲いかかる。


「ヒャッハ~、魔法使いなんぞ皆殺しだ~!!」


殺伐とした武器を翳したバーバリアンたちが狂気な表情で迫るが魔法使いたちは冷静に対処した。


「「「ストーンウォール!」」」


走るバーバリアンたちの前方に石の壁が競り上がる。それでバーバリアンたちの進行が止まった。


3メートルの石壁が大通りいっぱいに建ち並びバーバリアンたちの進行方向を完全に塞いで止める。これでは攻められない。


「石の壁だと!?」


「これじゃあ進めねえぞ!!」


バーバリアンたちが石壁に阻まれ足を止めていると、彼らが出て来た魔法ゲートの裏側から矢や槍が飛んで来た。


「なに! 背後からか!?」


バーバリアンたちが振り返ると、魔法ゲートの裏側からマッチョなエルフたちが姿を表す。


日に焼けた肌の土建エルフたちを見てバーバリアンの一人が叫んだ。


「ダークエルフだ! ダークエルフが後ろから攻めて来たぞ!!」


ニッカポッカを着込んだエルフのマッチョマンがテヤンデイな口調で否定した。


「土木作業で日焼けしているだけでダークエルフなんかじゃあないわい!!」


「嘘だ~」


「そんな顔黒でマッチョなちょい悪系のエルフが居るかよ!」


「そうだそうだ、ここは魔王城なんだからダークエルフに違いない!」


誤解である。彼らは純粋なエルフだ。決して邪なダークエルフではない。


顔黒マッチョなちょい悪系のエルフが言う。


「うわ~、風評被害だわ~……」


エルフとバーバリアンたちが言い争っていると、屋根の上からビキニノームたちが集団で煉瓦を投げてきた。


「いて、いて!!」


「なんだ、あのチビたちは!!」


「石を投げるな、この糞餓鬼野郎共!!」


丸い盾で頭を庇うバーバリアンたちが慌てていると、魔法の効果時間が切れてストーンウォールが地面に消えた。


「よし、魔法が切れたぞ!」


「全員、突撃だ!!」


隊長らしきバーバリアンが指示を飛ばしたが、他のバーバリアンたちは突進しなかった。


その理由は、消えたストーンウォールの向こうには、四本腕のスケルトンウォリアーたちが並んで待っていたからだ。


その数はバーバリアンたちと五分だ。百から二百は居るだろう。しかも武器や防具を纏った完全武装で立っている。


「これは、不味くね……?」


「不味いよな……」


バーバリアンたちは、完全に囲まれていた。前はフォーハンドスケルトンウォリアー軍団。その背後に魔法使いギルドのメイジたち。後方にはマッチョエルフ軍団。屋根の上にはビキニノームたち。上空を滑空していたカイトフライヤーウッドゴーレムたちは退却して姿が見えない。味方は自分たちのみだ。バーバリアンたちが有していた数の有利が一瞬でピンチに変貌していた。


レビテーションの魔法で浮き上がったゾディアックが告げる。


「敵兵士諸君に告げるぞ。このまま魔法ゲートに引き返して撤退するなら見逃そう。我々も無駄な殺生はしたくない!」


バーバリアンの隊長がゾディアックを睨み上げた。そして、手を上げて兵士たちに指示を飛ばした。


「全軍、撤退だ!!」


その命令に従いバーバリアンたちが素直に魔法ゲートに引き返す。全員が分が悪いと悟ったのだろう。


そして、バーバリアンたちが全員魔法ゲートに入ると扉が閉まる。そして、魔法ゲートが消えた。


「勝ったのか……?」


「勝ったようですね~」


ゴリが呟くとオアイドスが答えた。


呆気ない勝利であるが、勝利したのは間違いない。


「よっしゃ~~~!!!」


「わはー、わはー!!」


マッチョエルフたちとビキニノームたちが歓声を上げて喜んでいた。こうしてアルカナ二十二札衆による魔王城襲撃事件は終止符を迎えたと思えた。


だが、そうではない。


片や浮遊要塞ヴァルハラでは──。


一機のカイトフライヤーウッドゴーレムがヴァルハラの草原に不時着した。ウッドゴーレムは地面を荒々しく滑ると埃を舞い上げながら止まる。


そのウッドゴーレムの背中から飛行士のような軍服を着こんだ矮躯な少女が降りて来た。


少女は飛行棒を脱ぐとゴーグルを外して投げ捨てる。強い風にピンクのツインテールが靡いていた。


「畜生、畜生、畜生。こんなに強いなんてありですか!?」


ツインテールの軍服少女は悔しそうに愚痴りながら二人の魔法使いに近付く。そして、二人の魔法使いに向かってイラつきのままに怒鳴った。


「なんなのよ、あのモグラデブに生臭い若造は、役にも立たないじゃないのっ!?」


ノストラダムスが冷静に答える。


「ダークネスマイナー殿とレッドヘルム殿の事ですか。オットー・リリエンタール殿?」


オットー・リリエンタールはプリプリと可愛らしく怒りながら怒鳴った。


「あの二人、なんの役にも立たないで、あっさり負けたじゃない。お陰で私のウッドゴーレムたちも全機撃ち落とされたじゃないの!!」


ノストラダムスは困った表情で述べた。


「そうですね~。困りましたね~。まさかこんな簡単に敗北するとは……」


「それにアキレウスのおっさんはどうしたの。傭兵部隊を指揮していたんじゃあないの!?」


「彼はどっか行っちゃいました。雲行きが悪くなって逃げましたよ。二度も同じ相手に負けたくないそうで……」


「なんなのよ、それ! 無責任にもほどがあるわよ!!」


「だから急遽代役を立てたのですが、力不足だったようで……」


「あいつらも、直ぐに撤退したじゃない!!」


「この魔王城攻略作戦、完敗ですな~」


「私、もう帰る!!」


プリプリと怒ったオットー・リリエンタールは魔法使いたちの前から去って行った。再びカイトフライヤーウッドゴーレムの背中に乗ると空に飛び立つ。彼女の姿は直ぐに空の果てに見えなくなった。


すると今まで黙っていたアマデウスが口を開いた。


「やはりこの作戦は、私一人でやりとげなければならなかったのだ」


「アマデウス殿、まだやるのですか。諦めませんか?」


「諦められるか!」


声を荒立てたアマデウスがノストラダムスを睨んだ。そして命ずる。


「ノストラダムス。魔法ゲートを開けろ、私自らが出る!!」


「まさか、アマデウス殿。あのアイアンゴーレムを使う積もりですか……?」


「ああ、第九で出るぞ!!」



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