最終章-18【スバルちゃんKISS】
俺とスバルちゃんは魔王城街が、アルカナ二十二札衆に襲われている中で、大通りにあるスバルちゃんの薬店にやって来ていた。
「あったは、臭い止めの薬が」
俺が薬店の窓から外を監視しているとスバルちゃんが戸棚から透明な液体状の薬が入った小瓶を取り出す。
スバルちゃんが俺に外の様子を問う。
「アスラン君、外の戦況はどう?」
「なんか、ドデカイ扉が通りの真ん中に出現してるわ~。なんじゃいあれ?」
「大きな扉? 魔法ゲートかしら?」
「それよりスバルちゃん、早く薬を飲んでくれないか」
「ええ、分かってるわ」
スバルちゃんは返事をしながら小瓶の蓋を開けた。
とにかく、早く薬を飲んでもらいたい。臭くて堪らないのだ。
俺はだいぶ慣れて来ているが、周りの連中はスバルちゃんの体臭に抵抗力が低い。ほとんどの者たちが息が出来ずに失神してしまう。薬店の前にはマッチョエルフやビキニノームたちが死屍累々と倒れているのだ。
あのスーパーリッチなマミーレイス婦人ですら気絶する悪臭である。まさに最終兵器レベルの体臭だった。物凄く恐ろしい。
だが、今回の事件が終わってレベルアップしたのならば、おそらく俺には悪臭耐久スキルが習得されることだろう。それは間違いない。
「ふぅ~、げっぷ~」
俺が見守る中で、スバルちゃんが小瓶の薬を一気に飲み干した。げっぷ~っとか言うな、オヤジかよ。もっと可愛く飲め。
「スバルちゃん、その薬って即効性なのか?」
「効果が出るのに少し時間が掛かるわ」
「どのぐらい?」
「15分程度かしら」
15分か~……。
じゃあ、効果が現れたのを確認したら、またスバルちゃんを魔王城に送り届けよう。たぶん、魔王城内が一番安全だろうからな。未来の嫁さんを危険には晒せないしね。臭くっても俺の大事な嫁さんだもの。これでなかなか可愛いんだわ~。
そう考えながら俺が窓の外を見張っていると、スバルちゃんが俺の背後に近付いて来る。そして、囁くように言った。
「ごめんね、アスラン君……」
「えっ……?」
俺が振り返るとスバルちゃんは俯きながら俺の袖を摘まんでいた。
「どうしたの、スバルちゃん。なんで謝るの?」
「だって、私がこんな体なばかりにアスラン君は、普段から我慢しているんでしょう……」
確かに悪臭を我慢している。だが、何時ものことではない。こうして、たまに薬を飲み忘れた時だけである。
しかし、スバルちゃんはしおらしく言った。
「アスラン君は、私の体臭があるから何時も我慢してるんだよね……」
「何時もじゃあないよ」
「だって、私が臭いから、私の体に触れてもこないんでしょう……」
「えっ……?」
何を言い出してるの、この子は……?
「私の体臭が臭いから、キスだってしてくれないんでしょう……」
「ええっ!!??」
スバルちゃんが俺を上目使いで見詰めて来る。その眼は弱々しくも潤んで見えた。
せがんでいるのか!?
誘っているのか!?
「いや、あの、その……。キスしないのは体臭とか関係無いからさ!!」
「じゃあ、なんでキスしてくれないの……」
「そ、それは!!!」
それは、その気になっちゃうからだよ!!
その気になって次のステージに全力で駆け上りたくなるからだよ!!
そうなると、糞女神の呪いで心臓が痛みだすからダメなのだ!!
下手すりゃあ死んじゃうからダメなのよ!!
てか、スバルちゃんには呪いのことを話していないんだっけな。それで誤解しているのかな?
スバルちゃんが潤んだ視線だけを逸らしながらボソリと言った。
「私はキスがしたいな……」
マジか!!
マジだよね!!
そりゃあマジだろうさね!!
だって俺は彼女にプロポースしているし、彼女は俺のプロポーズをOKしているんだもの、本来ならとっくの昔にキスの一つや二つや、それどころかベロチューすらしていても可笑しくないよね!!
なんなら一晩二人で同じベッドの中で大人の階段を上がっては下り、上がっては下りを朝まで繰り返していて、ヘトヘトになっていても可笑しくないはずだ!!
でも、それをしちゃうと俺は呪いの効果で死んじゃうんだよね!!
糞っ! 糞っ! こんちくしょう!!
あたったったっ!!
心臓が……。
俺があたふたしていると、黙り込んだスバルちゃんが目蓋を閉じて顎を上げた。
「こ、これは!!!」
これはキスをせがまれているのか!?
俺はスバルちゃんにキスをせがまれているのですね!!
うわ~、キスして~!!
俺もスゲ~接吻がして~よ~!!
したいが……、いたたた……。やっぱり胸が痛みだした。
何故だ!!
糞っ!!
この呪いは何故に俺の邪魔をする!!
無念、無念、無念だ!!
化けて出るほどに無念だ!!
「はやく~」
スバルちゃんが急かしているよ!!
思ったよりもこの子は積極的だな!!
眼鏡ツインテール、侮れん!!
こうなったらキスしちゃうぞ!!
本気でしちゃうんだからねっ!!
いたたたっ……。
糞!!
こうなったら我慢比べだ!!
俺の欲望……、否否否。俺の愛が勝るか、呪いの呪縛が上回るかの勝負だ。もう意地である。
俺はスバルちゃんとキスをするぞ!!
そう決意を決めた俺は煩悩を押さえながら口を尖らせスバルちゃんの唇に唇を近付けた。二人の距離が今までにない以上に急接近する。
「ぬぬぬぬぬっ!」
あと10センチ……。緊張する~。
あと5センチ……。心臓がバクバクして止まらねえ。いや、止めたら死んじゃう。
更に、あと1センチ……。やるぞ、やるぞ、やるぞ!!
そして、二人の唇が触れ合う刹那だった。地面が轟いて周囲の物が跳ね上がる。下から突き上げられるような衝撃だった。
戸棚の薬瓶、テーブルの上の置物、椅子すら跳ねていた。勿論ながらキスをしようとしていた俺たち二人も跳ねていた。故にキスなんて出来なかった。
「なんだっ!?」
「えっ、なによ、なによ!?」
揺れは一撃で収まる。しかし建物の天井から埃がパラパラと落ちてきていた。何事か分からず戸惑う二人。
「い、今のは何だよ……」
部屋の中は大地震の後のように荒れている。俺は揺れのあまり、咄嗟にスバルちゃんを抱き締めていた。
スバルちゃんが弱々しく呟く。
「アスラン君、痛いよ……」
「ああっ、ごめんね!!」
俺はスバルちゃんの柔らかい身体を解放すると、窓の外を見る。そこには見慣れない物が聳えていた。
「なんだ、ありゃあ……」
驚愕。
「どうしたの、アスラン君?」
スバルちゃんも窓から外を眺めた。
「なに、あれ……」
スバルちゃんも驚愕。
それは巨大で真っ黒い柱だった。柱の下に二つの球体が車輪のように回っている。それで柱は移動していた。
柱の高さは30メートルはありそうだ。太さは直径7~8メートル。円柱だ。二つの球体が回転して移動しているようだった。
その黒光りする柱の上に人が立っているのが見えた。長いスタッフをついて、金の装飾が施された緑色のローブを、肩まである長髪と共に風に靡かせている。
「あれは、アマデウスじゃあねえか……」
アルカナ二十二札衆の一人でマジシャンのカードを暗示する男。そう、鷹の目の男、魔法使いのアマデウスだ。今回の襲撃事件の主犯だろう。
スバルちゃんが黒柱を見上げながら呟いた。
「なに、あのでっかなチ◯コ……」
「スバルちゃん……。それは言わないで、引くから……」
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