最終章-5【宣戦布告】

冷や汗を流すアマデウスがノストラダムスと肩を組んで踵を返した。アスランとマリアに背を向ける。二人はコソコソ話を始めた。


「おい、ノストラダムス。もしかしてアスランが新魔王なのかっ!?」


「そんなの私に分かるわけが無いじゃあありませんか……」


「お前は預言者だろ。お前の予言書には何か書かれてないのかよ!?」


ノストラダムスが予言書を隅々まで見回して確認する。


「書いてないよ、そんなの書いてませんよ……。アスランが新魔王だなんて、書かれてませんよ……」


「では、あいつが魔王だって確定はしていないんだな!」


「はい、私の予言では確定していません」


ノストラダムスから身体を離したアマデウスが振り返る。そして、堂々と敵意溢れる眼差しでアスランを睨み付けた。


「アスラン。悪いがここで死んでもらうぞ!!」


「いきなり何を言い出してるんだよ、このおっさんは?」


「問答無用だっ!!」


アマデウスが右手を付き出した。掌内に火球が渦巻きながら作られる。


「食らえ、ファイアーボール!!」


アマデウスの手から火球が発射される。それがアスランに直撃した。


「のわぅ!!」


火球が爆発してアスランの全身を爆炎が包んだ。メラメラと炎が燃え上がる。


やがて火柱の中からアスランが平然としながら歩み出て来た。負傷していない。魔法が効いていない。


「おいおい、アマデウス。いきなり魔法をかますなよ」


業火の中から歩み出て来たアスランは無傷で無火傷だっだ。身に纏った防具どころか、頭に被ったヅラすら燃えていない。


「なんと優れた耐火能力。私の魔法を食らっても無傷なのか!」


アスランが腰から剣を抜いた。先日手に入れたばかりのロングソードのグラディウスだ。魔力を帯びた刀身が輝いている。


「今日は話し合いに来たんだが、そっちがその気なら俺は受けて立つぜ!」


刹那、アスランがダッシュした。アマデウスに切りかかる。


「ウォール!!」


「のわっ!?」


唐突にアスランの前方に石の壁が地面から生え出て進行を妨害される。


高さ2メートル半、横10メートル幅の壁だった。


「魔法の壁か。だが、低いっ!!」


アスランはジャンプのひとっ飛びで魔法の壁を飛び越えた。2メートル半ある壁の高さを軽々とジャンプで越える。


「このぐらいの壁で俺の邪魔が出来ると思うなよ!!」


今のアスランは虎柄ビキニのマジックアイテムでジャンプ力が強化されているのだ。そう、上着の下に着込んでいるのである。


どうやら2メートル半ぐらいは容易く飛び越えられるジャンプ力と化している。


「行くぜ!!」


上空から剣を翳したアスランがアマデウスに飛び迫る。


だが、それを読んでいたアマデウスがアスランにスタッフの先を向けて待っていた。


「甘いぞ、糞餓鬼がっ!!」


スタッフの先が眩く輝いた。


「マジックイレイザー!!」


「やばっ!!」


宙に居るアスランを波動砲魔法が包み込む。


「こいつもマジックイレイザーを使えるのか!」


アスランは光の波動に押されて壁の向こう側に飛ばされた。そして地面に墜落した。


地面を転がったアスランのプレートメイルからは白い煙が上がっている。


「あちちちっ……。耐火は高いが耐光は普通なんだよね……」


それでもダメージは浅い。そもそもアスランの耐魔法能力が高いようだ。


アスランが立ち上がると前方の魔法の壁も崩れ落ちた。ウォールの魔法が解けると、石の壁が灰となって風に飛んでいく。


その向こうからアマデウスが鋭い眼光を光らせながら歩み出てきた。相貌に殺意が溢れている。


そしてアマデウスが次なる魔法を繰り出した。


「スネアっ!!」


「これはっ!?」


瞬時にアスランの足元から生え出た植物の蔓が下半身に絡み付いた。その絡み付く蔓でアスランは移動を封じられる。下半身が一歩も踏み出せないのだ。


「糞、動けない!?」


更に──。


「範囲縮小スリープクラウド!!」


アマデウスがオリジナル魔法を繰り出した。すると魔法の霧がアスランの頭を包むように発生する。


「やべぇ!!」


アスランは息を止めて霧を吸わないように耐えて見せた。


しかし、霧が濃くて前すら見えない。完全に視界を奪われていた。


「くだらん抵抗だな」


掌を広げながらアマデウスが腕を横に振りかぶる。


「マジックハンマーボール、ふんっ!!」


掌に召喚された漆黒の鉄球がサイドスローで投擲される。その重々しい鉄球がアスランの腹を狙った。


物凄い豪速球と化した鉄球がアスランの腹部に迫る。


「ライトウォールっ!!」


「えっ!?」


「なにっ!?」


突然アスランの前方に半透明に輝く壁が出現した。その光る壁が鉄球の投擲を弾き止める。


すると銅鑼でも叩いたかのような激しい鋼鉄音が響いた。


魔法の壁を唱えたのは神官長マリアだった。


ノストラダムスが怒鳴りながら問う。


「マリア殿、何故に邪魔をなされる!?」


マリアは平然とした態度で答えた。


「だって、喧嘩は良くないじゃないの~」


「「はぁ~~~??」」


アマデウスとノストラダムスの二人が肩を脱力させながら呆れていた。


アマデウスが問う。


「マリア殿はどちらの味方なのですか!?」


マリアは小首を傾げながら考え込む。


「どちらの味方って、どちらの味方でもあると思うんだけど?」


「曖昧な!!」


「だってアマデウス殿とはアルカナ二十二札の仲間だけど、アスランとは魔王城街に神殿を建てさせて貰う仲だしねぇ~。どちらかと言えば、新しい神殿のほうが重いかしら?」


アマデウスが激昂しながら問う。


「ならば、我々アルカナ二十二札衆を裏切ると!?」


「違うわよ、今回はアスランに付くだけよ。それに、なんでもかんでも争いで解決しようとするのは良くなくてよ」


「このババァがっ!!」


マリアがアスランに言う。


「アスラン、そろそろ帰りましょう。なんだか話が荒っぽくなってきたからね~。それにまだ私はおやつを食べてないのよ」


確かにおやつの時間を過ぎている。


アスランは下半身に絡み付く蔓を引きちぎりながら述べた。


「ちょっと待ってくれよ、マリア様。俺はここで早々と決着を着けたいんだよね~」


「でも、他のアルカナ衆が現れたら厄介よ。私的には早々と引くのが懸命だと思うのだけれど」


「他にも仲間が居るのか?」


「ああ~……」


突然マリアが顔を押さえて俯いた。


「アスラン、もう遅いわ。アルカナ衆の一人が現れたわ。しかも最悪の人が……。後ろを見てごらんなさい」


アスランが振り返ると、草原の向こう側から白いワンピースの裾と長いポニーテールを風に揺らしながら一人の少女が歩いて来るのが見えた。その少女は片手に鉈をぶら下げて、片腕に黒山羊の頭を抱えている。


寒気……。


「嘘でしょう……」


彼女を見たアスランが旋律に硬直した。恐怖の記憶が蘇る。少女Aだ。


「なんで、あいつがここに……」


マリアが少女の名前を紹介した。


「彼女はデビル嬢。アルカナ二十二札の悪魔のカードを暗示する人物よ。そして、最悪の悪意その物よ……」


顔を青くさせたアスランが震える声でマリアに懇願した。


「マリア様、早く帰るぞ、撤退だ、撤退!!!」


「どうしたの、そんなに慌てて?」


「いいから早く帰るの! オシッコが漏れそうなの!!」


「トイレならそこらじゅうにあるわよ。大自然がトイレよ」


「バカ野郎。俺のオシッコは酸性が高すぎて大自然に有害なんだよ。雑草だって秒殺でかれちゃうんだからさ!!」


「分かったわ。じゃあソドムタウンに転送するわよ」


マリアがアスランの肩に手を添えると二人が一瞬で消え去った。


転送魔法で消えた二人を見てアマデウスが悔しそうに呟く。


「二人とも退いたか……」


「そのようですな、アマデウス殿……」


すると草原から歩み寄って来ていたデビル嬢が二人の元に到着する。


「ねえ、アマデウスにノストラダムス。今さ、アスランが居なかった?」


少し怯えた表情でノストラダムスが答える。


「い、いましたよ……」


「ヴァルハラにアスランが何しに来てたのよ?」


アマデウスが表情を引き締めながら述べる。


「戦線布告だ」


「戦線布告?」


小首を傾げる少女A。


「ああ、明日にでも魔王城に攻め混むぞ。目指すは地下宝物庫だ。ハーデスの錫杖を略奪する」


「あら、やっと決意が固まったのね」


ノストラダムスが呪文を唱えると足元に魔法円が輝きだした。


「ならば私は他のアルカナ二十二札衆に声を掛けて参ります」


「たのんだぞ、ノストラダムス。出来るだけ多くを集めよ」


「御意……」


そう答えるとノストラダムスの姿が消えた。何処かに転送されたのだろう。


すると踵を返したデビル嬢が述べる。


「ならば、私も暴れる準備でも整えて来ますわ。久しぶりに大量虐殺が出来そうだわ~♡」


「いや、大量虐殺は、ちょっと……」


鼻歌混じりのデビル嬢が黒山羊の仮面を頭に被った。そして踵を返すと去って行く。



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