最終章-3【アマデウスの企み】
俺はスカル姉さんの診療所前で立ち尽くしながら空を眺めていた。青くて広い空に白い雲がフアフアと流れて過ぎて行く。
ラピュタだっけ?
いや、違うな。ヴァルハラだったかな。
そうそう、天空要塞ヴァルハラ二号だったはずだ。そこにアマデウスの野郎が潜んでいるはずなんだ。アキレウスの野郎も一緒に居るのかな?
それにしても──。
あの陰険な魔法使いが俺の命を狙ってやがる。今でも空から俺を見張っているのかな。そもそも俺がハーデスの錫杖を持っていると勘違いしていやがる。
俺が魔王城を占拠したから宝物庫も開けてると思い込んでるんだろうな。誤解なんだけれどね。
だって魔王城の宝物庫は番人のマミーレイス婦人が固く守ってるんだもんな~。俺は宝物庫に入ったことすらないのにさ。
だからハーデスの錫杖すら見たことがない。
「はあ~、面倒臭い誤解だわな~」
俺がボォ~っと空を眺めていると、診療所の階段を下りてスカル姉さんが姿を現した。気だるそうに長い黒髪の頭を掻いている。
「よ~う、アスラン」
白衣の下にボディコン衣装を纏ったバブリーな出で立ちで髑髏の仮面を付けたスカル姉さんが俺の横に立った。
それにしても、いまから冷静に見てみれば、エグいファッションセンスだよな。
「なんだ、スカル姉さん、休憩かい?」
スカル姉さんはタバコを一本咥えるとマジックトーチの魔法で火を付けた。
「患者が来ないから、ちょっと息抜きだ」
「患者が来ないなら、ずぅ~っと息抜きじゃあねえか」
「怪我人や病人が来ないなんて、平和で良い話だろ」
「それだと診療所が儲からんだろ?」
「そうとも言うな~」
そう言うとスカル姉さんが空に向かってタバコの煙を吐いた。
「なら、一丁、通行人でもボコって患者を増やしてくるか」
「あかんだろ……」
ときたまこの人は恐ろしいことを口走るから怖いわ……。
それよりも。
「なあ、スカル姉さん……」
「なんだ、アスラン?」
「スカル姉さんって、昔さ、アマデウスと仲間だったよな?」
「仲間って言うか、同じパーティーメンバーだっただけだ。ちょくちょくパーティーを組むだけで、仲が良かったわけでもないぞ」
「なんで仲が良くなかったのにパーティーを組んでたんだ?」
「ビジネスパーティーだ」
「ビジネスパーティー?」
「生き残るため、利益を上げるため、優秀な者同士がパーティーを組むのは冒険者の鉄則だからな」
「ああ~、その辺は、俺には分からないわ~。だって俺はソロ専門だからな」
スカル姉さんは指先で挟んだタバコの先を眺めながら話す。
「アマデウスは、無口で陰気だったが、魔法使いとしても冒険者としても一流だったからね~。それで生きるため、稼ぐために、良くパーティーを組んでたんだ」
「あいつ、冒険者としても優秀だったのか……」
「伊達にギルガメッシュを出し抜いて、冒険者ギルドを乗っ取ろうとしていた野郎だぞ。魔力も人間力も優秀なんだよ」
「なるほどね~」
確かに、あの変態ギルマスから冒険者ギルドを乗っ取ろうとしていたもんな。
その計画は、途中で投げ出したけれどさ。
「アスラン、あんたを──」
スカル姉さんがタバコの灰を地面に落とした。その灰を足で踏みつける。
「あんたを刺すようにミーちゃんに命じたのはアマデウスなんだろ?」
「そうなんだよね。まだ、俺の命を狙ってる可能性も高いんだ」
「お前も嫌な野郎に狙われてるな」
「これも優秀な冒険者の運命だよ……」
「チェリーボーイな癖に大きく出たな」
「未経験は関係無いだろう……。むしろ時間が経てば童貞のレアリティーだって上がるんじゃね?」
「上がるか、馬鹿。それより早くスバルちゃんと結婚して子供を作って落ち着けよ」
「その台詞は海老をのし袋に包んでスカル姉さんに1ダースほど返してやるよ。スカル姉さんこそ早く結婚しないと股間にカビが生えちまうぞ。賞味期限が切れて、時空に取り残されても知らないからな」
「ひでぇ、そこまで言うか……」
スカル姉さんは頭を抱えながら俯いた。
「あ~、忘れてた。自分の幸せを完全に忘れてたぞ……。寂しい、寂しくて死んじゃいそうだ……」
ウサギかよ……。
「普通、忘れるか?」
「普通忘れるだろ。日々の暮らしに流されて忘れてたりしないか!?」
「しないしない……」
「ああ~、どこかにイケメンの財閥ハンサムなチェリーボーイとか落ちてないかな~……」
えっ、何、スカル姉さんってチェリーが好きなのか!?
童貞キラーだったのか!?
──に、しても。
「落ちてても、そんな有能物件がスカル姉さんに靡く理由が無いだろう……」
「だよね~。なんでこんなに美貌溢れる麗しい独身乙女をほっぽらかしにするんだろ……。世の中の独身男子は目が無さすぎだぞ」
「ババァだからじゃねぇ?」
「なんだと、この糞餓鬼が!!」
スカル姉さんが俺の額にタバコの火を押し付けた。ジュっと音が鳴る。
「あち~~!! 何すんね、この糞ババァ!!!」
「誰が糞ババァだ! 同じ言うなら糞お嬢様とお呼び!!」
「テメー、言ってて自分が恥ずかしくならねぇか!?」
「恥ずかしくなるぐらいなら自分で言うか!!」
「だよね~」
俺は額の火傷にセルフヒールを掛けると歩き出した。
「どうした、アスラン。出掛けるのか?」
「ああ、ちょっと神殿に行ってくるわ~」
「えっ、お前さ、神様を信仰してるのか?」
「まさか~。ちょっと神官長のマリア様に会いに行ってくるだけだ」
「そうか、気を付けて行って来いよ。あの神官長は頭が可笑しいからさ」
お前が言うな……。あたおかが。
「おう、分かってるってばよ」
俺は背中を向けたまま手を振ると、診療所の前を離れた。神殿を目指す。
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