最終章-2【アマデウスの陰謀】

俺は魔王城街のメインストリートでミーちゃんを見付けると、柔道家のような構えを築きながら彼女に近付いた。彼女の前を塞ぐ。


「よう、ミーちゃん。具合は良くなったのかい?」


俺が話し掛けるとミーちゃんはプロレスラーのストロングスタイルのような構えを取りながら俺と向かい合う。


柔道vsプロレスだ。


「やあ、アスランじゃあないか。その節はお世話になりました」


俺が右に動き出すとミーちゃんも右に動き出した。


牽制し合う二人は円を描くようにグルグルと回り出す。


「ちょっとミーちゃんに訊きたいことがあるんだけれど、いいかな?」


「何かしら?」


俺とミーちゃんはグルグルと回り合いながら会話を続けた。その姿に建築作業中のマッチョエルフたちの視線が集まる。


「おまえ、アキレウスって言う戦士と知り合いだろ」


「ええ、昔の仲間よ」


俺たちは互いを警戒しながら話し合った。


「あいつ、誰だ?」


「誰だって、アキレウスだよ」


「そうじゃあねえよ、どこのどんな存在だって訊いてるんだ」


「ああ~、そう言うことね」


刹那、二人は同時に前に出た。そして、勢いそのままに突き出された両手と両手をぶつけ合うように重ね合いながらガッチリと掴み合う。手四つの体制だ。


更に全身で押し合うと力比べをしながら会話を続ける。


「あの人は、もともと野良の傭兵だったって聞いているわ、ぐぐぐっ……」


「傭兵なのか、ぐぐぐっ……」


俺とミーちゃんが力と力をぶつけ合う。


この女、オッパイが豊満なだけあって凄い力だ。


「そう、幼少のころから戦場を渡り歩いて戦闘力を鍛え上げた結果、戦いしか知らない人生に染まったとか言ってたわ、ぐぐぐぐっ……」


「そんな奴とお前は、なんで吊るんでいたんだ、うらっ!!」


俺が力むと手四つの状態で押し始める。男の俺が力では勝っているのだ。するとミーちゃんが力負けしてジリジリと下がり始めた。


「かつての私はアルカナ二十二札衆ってグループに属していたの。アキレウスもその一人よ……」


「アルカナ二十二札衆?」


前にも聞いたことがあるな。


「各自の目的を果たすために協力関係を結んだグループよ。私がテンパランスのカードを暗示するカード名を名乗り、アキレウスはチャリオッツの暗示するカードを名乗って居たわ。それに、アマデウス様がマジシャン、クラウド坊やがジャスティス、神殿のマリア神官長がハイプリーテス。その他にも何人かの人物が居たはずよ……」


確かマリアのおばさんも、そんなことを言ってたような。


「そいつらの目的ってなんなんだ?」


「全員の目的は別々よ。ただ協力が出来ることは協力し合う関係なの。だから協力出来ないことは無視してもかまわないわ………」


どんどんと俺がミーちゃんを押していると、ミーちゃんの背中が建物の壁に押し付けられる。


それでも俺は手四つで押し続けた。


「それで、アキレウスが牢獄から逃げ出したんだが、あいつの企みはなんだ?」


「アキレウスには企みも何も無いわよ。あの人は戦えれば、それでいいのよ。彼が牢獄から逃げ出したってことは、新しい戦場にでも向かったんじゃあないの……」


そこまで話すとミーちゃんが俺の両手を払って手四つから逃れた。


指が痛かったのかスリスリしている。


「ところでミーちゃんは、なんでアルカナ二十二札衆に入ってたんだ?」


ミーちゃんはバツの悪そうな表情で俯きながら述べた。


「私はアマデウス様に惚れてたから、あの人の手伝いがしたかっただけなの……」


「ええ、あんな奴がタイプなのか?」


「でも、私はアルカナから抜けたわ。もう関係無いの……」


「何でだ?」


「アマデウス様の目的が分かったからよ……」


「アマデウスは何を企んでるんだ?」


「冥界の門の解門よ……」


「なんだ、それ?」


「冥界のピアノ、ケルベロスの頭部、それとハーデスの錫杖が揃うと開くとされている冥界の門よ。アマデウス様は、既にピアノとケルベロスの頭部は手にいれてるは、あとはハーデスの錫杖だけね……」


「んん、良くわからんな?」


俺は腕を組ながら頭を傾げた。


「何で冥界の門を開くために、お前は俺を刺したんだ?」


「それは、ハーデスの錫杖が、この魔王城の宝物庫に在るからよ。だから貴方の命を狙ったの……」


「おいおい、俺はハーデスの錫杖なんて知らないぞ。なんでそれなのに俺が襲われるんだよ?」


「勘違いしちゃった、てへぺろ♡」


ミーちゃんは頭をコチンと叩きながら可愛らしく舌を出した。でも、許せない。いや、可愛いから許しちゃう。


「勘違いで人を刺すんじゃあねえよ!!」


「ごめんちゃい、ごめんちゃい。でも、アマデウス様もアスランが宝物庫を開けてハーデスの錫杖を持ってると思っているわ」


「うわ~、いい迷惑だな~。でも、なんでミーちゃんはアマデウスに協力するのをやめたんだ?」


「アマデウス様は冥界の門を開いて死んだ奥さんの魂をこの世に蘇らせようとしているの。私としては、それじゃあ協力なんて出来ないわ……」


「だわな~。不倫相手が奥さんを生き返らせてたら世話ないわな」


「もう、真実を知った時はショックだったわ~。マジへこんだよ……」


「それで、アマデウスは何処に居るんだ?」


ミーちゃんは天を指差しながら言った。


「天空要塞ヴァルハラに居るわ……」


俺は空を見上げながら話す。


「あれ、ヴァルハラって五百年前に墜落しなかったっけ?」


「それの二号らしいよ」


「二号なんて、あるんだ……」


「とにかく、その内に、アマデウス様があなたを襲って来るはずよ。たぶんアキレウスとも、その時に再会できるんじゃあないのかしら」


「なるほど……。サンキュー、ミーちゃん」


そう言うと俺は踵を返して歩き出した。


そろそろアマデウスと正面衝突の時期が近いのかな~。もう俺だって強くなってるんだ、あいつにだって勝てるだろうさ。



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