20-3【ガルマルの祭り】

俺は草原のジャッカル亭改めて小豆洗い亭を旅立った次の日の朝に中間地点として目指していたガルマルの町に到着した。


町の入り口をくぐったところで人の多さに驚く。とても田舎町とは思えないほどに賑やかだ。


「こんなに栄えて居るのか?」


いや、違うな。どうやら祭りらしい。路上には煌びやかな屋台が並んでいて、少し派手な民族衣装を纏った人々が楽しそうに行き来している。皆で音楽に合わせて踊っている集団も居た。あちらこちらで酒を煽っている奴らも沢山居る。


「賑やかだな、祭りなのね。まあ、とりあえず宿屋を探そうか」


俺は人混みの中を進んで町の中央広場を目指した。広場の中心には質素な噴水があり、その周辺に露店が並んでいる。人も凄い混雑だ。その露店の隙間に宿屋の看板を見付けた。


「あそこが宿屋かな……」


俺は人を掻き分け宿屋に入っただが、宿屋も満員だった。町の人や旅人の身なりをした連中が昼間っから楽しそうに酒を飲み交わしている。テーブル席からカウンター席までミッシリだ。座れる席は一つも空いていない。


「これは、ヤバイかも知れないぞ。部屋は空いているかな……」


俺は近くを通ったウエイトレスのお姉さんを捕まえて訊いてみた。


「なあ、姉さん、宿屋の部屋は空いてるかい?」


「ごめんなさい。今は満室よ」


「やっぱりか……」


予想した通りの回答だ。これだけの祭りなのだ、宿部屋が相手なくても無理はないだろう。


ウェイトレスさんが笑顔で言う。


「今ガルマルの町は年に一度の収穫祭なの。だから何処の宿屋も満室のはずよ」


「マジか……」


町に居るのに路上で野宿かよ……。しかも、祭りなのにさ。五月蠅くって間違い無く眠れないだろう。


俺が落ち込んでいるとウェイトレスのお姉さんが言う。


「寝床が無いなら、町の外に商人キャンプが建てられているから行ってみな。間借りのテントなら張るポイントなら幾らでも有ると思いますよ」


「サンキュー」


しゃあないか、町の外にテントを張って、転送絨毯でソドムタウンに帰ろうか。


でも、祭りだと泥棒が心配だな。無人のテントに転送絨毯を敷いといて盗まれたら厄介だ。


転送絨毯は畳まれていると使用出来なくなるからな。盗まれて丸められたら帰ってこれなくなる。


やはり町などて転送絨毯を使うなら鍵が掛かる部屋で拡げて置きたいよな。それとも見張りにヒルダを立てようか。それも毎回毎回ヒルダに悪いよな~。ヒルダが酔っぱらいに絡まれても可哀想だしさ。


しゃあないか、テントで野宿かな。貴重品は異次元宝物庫の中だから、盗まれてもテントだけだ。


いや、こんなに人が沢山居るのにテントだけ盗む賊なんて居ないだろうさ。


俺は宿屋を出てから町の外を目指した。町の周辺には、あちらこちらにテントが建っている。小さいテントの群れや大きなテントといろいろとある。


俺は小さなテントの群れの側にテントを張り始めた。すると旅商人風のオッサンが明るく話し掛けて来る。


「よう、坊主。お前さんは冒険者かい?」


テントを張る手を休めて振り返ると、そこには中肉中背で額が禿げ上がったオッサンが立っていた。


短い髭面だ。歳的には四十歳ぐらいだろうか。人は良さそうに見えた。


俺はテントを張る作業に戻ると言葉を返す。


「ああ、俺はソロ冒険者だ。オッサンは商人かい?」


「ああ、旅の行商人だ。今回はガルマルの町で祭りが開かれるから王都からやって来たんだ。ペンスって言うんだ、よろしくな」


「ああ、こちらこそよろしくな。ソドムタウンのソロ冒険者のアスランだ」


「ソロ冒険者だって、仲間は居ないのか?」


「友達は沢山居るが、冒険時はソロを決め込んでいる」


「そうなんだ。実は皆に嫌われてるタイプなんだな……」


俺は振り返ると抗議した。


「いやいや、そんなことは無いぞ。まだエロイことをしていないが彼女だって居るんだからさ!!」


「まあ、いいさ。そんなことよりお前さんも喧嘩祭りに参加しに来たのか?」


「喧嘩祭り、何それ?」


「おや、知らんのか?」


「知らん。俺はたまたまこの町を通り過ぎようとしたら祭りと出会しただけだからな」


「そうなのか」


よし、テントは張り終わった。


俺が近くの岩に腰かけると、ペンスさんも近くの岩に腰掛けた。


なんでこの人は俺にすり寄ってくるのだろう。少しキモい。


「それで喧嘩祭りって、なんなんだ?」


「二十年前から、この町では収穫祭のイベント行事として、喧嘩祭りを開いているんだ。なんでも二十年前に就任した領主殿が王国で闘技場の元チャンピオンだったとかでな。それで喧嘩祭りが始まったらしいんだわ」


「へえ~、闘技場の元チャンピオンが領主なんだ」


「なんでもチャンピオンを引退する際に、国王から褒美として町の長としての地位を頂いたらしいんだわ」


「腕っぷし一つで成り上がったわけだ」


たまに居るんだよな、英雄素質の強者ってのが。たいして脳味噌が無くても地位を得られる野生児がさ。


「それで、喧嘩祭りを始めてから、それが受けて町の祭りは、どんどんと大きくなって行って、今じゃあビッグイベント並みよ」


「それじゃあ、優勝すると、賞金でも出るのか?」


「いや、賞金どころか商品すら出ないんだ。ただの名誉だけだ」


「それじゃあ詰まらんな……」


一文にもならないなら、戦うだけ損だ。無駄に怪我をしたら尚更だ。


「でも、今年は違うんだぜ」


ペンスはウィンクをしながら言った。


「なんと今年は領主殿の娘とお見合いをする権利が貰えるらしいぞ」


「お見合いの権利?」


「そうだ。あっ、でもお前さんは彼女が居るんだっけ」


「ああ、結婚も約束している」


「そうか、残念だな……」


ペンスは残念そうに言いながら懐から折り畳まれた紙を出す。


「喧嘩祭りの参加申込み用紙に、領主殿の娘の似顔絵が描かれているんだが、かなりの可愛子ちゃんなんだよね」


ペンスが参加申込み用紙のイラストを見せてくれた。そこにはツインテールで目がパッチリとした可憐な乙女が描かれていた。


歳のころは十五歳ぐらいのロリキャラだ。間違いなく可愛い容姿で描かれている。


「この子が……」


可愛い……。スバルちゃんより可愛いぞ……。


「なあ、ペンスさん……」


「なんだい?」


「その参加申込み用紙は余っていないか?」


「なんだ、参加するのかい?」


「ちょっとだけ、俺も名誉には興味があってな……」


「名誉にかい……」


俺の嘘はバレていないはずだ。少しだけ、張りきって見ますかね。


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