20-4【申込書と偶然】

俺はペンスさんから貰った申込み用紙に名前と職業を描くと喧嘩祭りの受付所に向かった。


受付は町の外に建てられた大型テントの中で行われていた。大型テントの周辺には参加者と思われる屈強な男たちが何人も屯している。


酒を煽りながら筋肉アピールをしてやがる。暑苦しい……。


俺は野郎共に睨み付けられながらテントに入ると受付のオッサンに申込用紙を提出した。長テーブルに肘を付いて椅子に腰掛けているオッサンが俺に問う。


「あんた、冒険者かい?」


だらけた口調だった。やる気が見えない。だから俺も無愛想に答えてやる。


「そうだ」


「質問だ。どこかの町で闘技場に参加したことはあるかい?」


「無いぞ。なんでだ?」


「これは素人の祭りだからね。プロの闘志は参加禁止なんだよ」


「なるほど」


「あと、武器の使用も、防具の装備も禁止ね。あとマジックアイテムの使用もね。魔法も禁止だ。素手と肉体の力だけを競うんだよ」


「なるほど。ナチュラルパワーの祭典なんだな」


「あと、殺しは失格ね。これは素人の戦いなんだから。祭りが終わっても遺恨が残るような戦いかたも禁止ね。場合によっちゃあ追放だからね」


「平和に暴力を楽しめってことかい」


「あとキシリアお嬢様とのお見合いは、初日の予選を突破した八名すべてに与えられますからね」


「優勝しなくていいのか?」


「お見合いって言っても恋愛だからね。強制結婚じゃあないんだよ。だから優勝してもキシリアお嬢様と必ず結婚できるわけじゃあないんだよね」


「そうなのか」


「でも、領主のギデン様も、キシリアお嬢様も、お強い殿方が好みだからね。優勝したほうがポイントは高いよ」


「なるほどな。それで試合は何時からなんだ?」


「予選大会が明日の昼過ぎから。決勝トーナメントが明後日の昼過ぎからだよ。会場は村の裏の即席闘技場だ。遅刻は問答無用で失格だからね」


「分かったぜ」


「じゃあ、次の方、どうぞ~」


俺はテントから出ると辺りを見回す。屈強な男たちに混ざって中肉中背のオッサンが目に入る。剥げた頭が太陽光を反射してキラリと光った。ペンスさんだ。


何してるんだろう?


「よう、ペンスさん。あんたも喧嘩祭りに参加するのかい?」


「なんだ、アスラン君か」


ペンスさんは手を顔の前で振りながら言う。


「まさか、私が喧嘩祭りに参加するって、冗談じゃあない。私は腕力が非力でね。喧嘩なんて無理だよ」


「じゃあ、なんでこんなところでマッチョたちに話しかけているんだ?」


「仕事の一貫だよ」


「仕事?」


「護衛を雇いたいんだけど、誰も引き受けてくれなくってね」


なんでだろう。こんなに護衛向きな連中が揃っているのに。ペンスさんの誘いかたが下手なのかな?


「もしかして、依頼料をケチってるのか?」


「違うよ、祭りが終わったら故郷に帰るつもりなんだけど、ここからだと辺鄙なところだから皆が敬遠するのさ」


「そんなに辺鄙なところに帰るのか?」


「山の向こうの小さな町でね。最近では山賊も出るんだよ。なのに、そこに帰るような屈強な男たちは居ないんだ。みんな栄えている町から来ている強者たちだからね。商人や観光客もだ」


「なるほど。っで、なんて町に帰るんだ?」


「小さな寂れた町でね、ドズルルって町だよ。私はそこの生まれでね」


「なんだ、ドズルルって俺が向かっている町だぞ」


奇遇である。偶然とは偶然を呼ぶものなんだな。


「そうなのかい?」


「なんなら俺が警護してやろうか。護衛料をなら安く負けてやるぞ」


「でも、キミはソロだろ。一人じゃあ警護にならないよ」


「じゃあ、この喧嘩祭りで俺の力を見せつけてやる。それを見てから考えないか。それからでも遅くはないだろう」


「ああ、確かに遅くはないな」


「ところで商売は繁盛しているのか?」


「商売は納品だけだから、もう終わっているんだ。あとは祭りを楽しんで町まで帰るだけなんだよ」


「そうなのか~。じゃあ護衛も見つかったことだし、あとは祭りを楽しめよ」


「もう護衛するき満々だね……」


「まあ、喧嘩祭りで俺の強さを見れば、すぐさまその気になるってばよ」


「そうなのかい、妖しいな……」


ペンスさんは怪しそうに俺の顔を見ながら答えていた。俺は腹を擦りながら言う。


「まあ、とにかくだ、昼飯でも食べに行かないか。そのあとに試合会場の下見だ」


「昼食かい。まあ、祭りは三日も続くんだ。護衛捜しも焦らなくったっていいかな……。よし、じゃあ飯でも食べに行くかい」


「この町の名物料理ってなんだ?」


「ガルマル饅頭が名物だ。露店でも売ってるし、お手頃価格で旨いんだぞ」


「よし、その饅頭を食べにいこうぜ、剥げオッサン」


「私は剥げていない。人よりちょっとだけ額が広いだけなんだからな!」


「それを世では剥げと呼ぶ」


「私が時代を前進しているだけだ!!」


「前進し過ぎだろ」





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