16-12【アスランの逆襲】

俺は食べ残しの刺身を身体に乗せられたままパーティールームから下げられた。


厨房に戻ると俺の身体の上の刺身をコックたちが拾い上げながら言う。


「こんなに残しちゃって、勿体無いな~」


そうは言うが誰も残された刺身を食べようとはしない。


俺の身体から拾い上げるとゴミ箱にポイポイと躊躇いもなく捨てていく。


俺はその後も自由にはならなかった。


生臭い体に水をぶっかけられて軽く拭かれるとマヒを掛けられたまま牢獄に連れていかれる。


牢獄は厨房の真下にあった。四畳半程度の牢獄である。


室内は薄暗いが、壁には刻まれた魔法陣が青白く輝いていた。


俺の身体の自由が利くようになったのは、牢獄に放り投げられてから三時間ぐらいが過ぎてからだった。


「畜生、やっとマヒの魔法が解けたかな……」


俺は石畳の床から起き上がると室内を見渡した。


三方向の壁と床に、更に天井にまで大きな魔法陣が画かれている。


その魔法陣が青白く輝いていた。それが明かり代わりとなっている。


明かりはそれだけだ。


「畜生……」


俺は鉄扉の覗き窓から外を覗き見る。


そこは倉庫のようだった。見張りは居ない。


「ひでーー目にあったぜ……」


俺は異次元宝物庫が開くかどうか試して見たが、やはり開かない。


「これが邪魔しているんだな」


壁に画かれた魔法陣が阻害しているようだった。


おそらく魔法の効果を無効化する魔法陣なのだろう。


鉄扉を確認するが、どうやら向こう側から閂と錠前で施錠されているようだ。こちら側からだと手も足も出せない。


まあ、牢獄っぽいから当然だろう。


「さて、どうするかな……」


こっちは裸で非武装状態だ。


壁に刻まれた魔法陣のせいで異次元宝物庫すら開かない。


おそらく魔法系はすべて使えないだろう。


それでも試してみた。


「キャッチファイアー」


やっぱり何も起きない。


「やっぱり無理か~」


俺は壁を軽く叩いてみた。重い音が返ってくる。


続いて鉄扉を軽く叩いて見た。硬い音が返ってくる。


だが、壁より薄そうだな。


見た感じだと、扉の厚さは5センチ程度だ。


「これなら打ち破れるかな?」


俺は左の鉄腕を振り上げる。


「おらっ!!!」


俺の鉄拳が鉄扉を打ち殴ると激しい音で牢獄全体が揺れた。


「うし、これなら行けるんじゃあね?」


俺は言いながら後ろに下がった。


そして助走を突けて鉄扉に二発目の攻撃を仕掛ける。


今度は拳で殴るではなく、全体重を乗せた肩からの体当たりをかました。


左の鉄腕が、俺の全体重と助走の勢いを乗せて鉄扉にめり込んだ。


すると鉄扉の留め具が外れて吹っ飛んで行く。


「よし、開いたぜ!」


中央がへこんだ鉄扉が床に転がっていた。


俺は床の上で歪みながらぐら付く鉄扉を踏みつけながら地下室から堂々と出て行く。


そして俺は廊下を進みながら言った。


「おい、ヒルダ。聞こえているか?」


異次元宝物庫内からヒルダが答える。


『なんで御座いましょう、アスラン様?』


「もう昼飯時は過ぎたか?」


『はい、だいぶ過ぎました』


「昼飯を食いに返るって言ってあったのにな~。食事番の人に悪いことしちゃったよ~」


『お腹が空きましたか、アスラン様?』


「ああ、勿論」


『では、お食事の準備でもいたしましょうか?』


「いや、まずは防具の装着準備を頼む。装備が終わったら、ちょっと仕事を片付けてからかな、飯は」


『畏まりました』


するとヒルダやメイドたちが異次元宝物庫から出てきて俺に防具を装着し始める。


俺は一分もしない内に防具の完全武装が終わった。


最後にヒルダが俺の腰に鞘に収まった黄金剣を下げる。


『装備完了であります、アスラン様』


「サンキュー、ヒルダ。じゃあちょっくら暴れてくるわ」


『行ってらっしゃいませ、アスラン様』


一礼したメイドたちが異次元宝物庫内に帰って行くと、俺は階段を上がって厨房に出た。


すると扉を打ち破った激音を聞き付けた半魚人兵士たちが様子を見にやって来ていた。


俺と三人の半魚人が鉢合わせとなる。


三体はマーマンで、両手にはハープーンガンを抱えていた。


「よう!」


「貴様は男体盛りのお皿!!」


「その呼び方はやめてくれない」


「すぐさま牢獄に戻れ。戻らなければ射殺するぞ!!」


三体のマーマンがハープーンガンの大砲のような銃口を俺に向けた。


「嫌だね。もう男体盛りに戻る気はねえーーーよ!!」


「ならば、死ね!」


ドンっと発砲音が一つ轟いた。


マーマンの一人がハープーンガンを発射したのだ。


その発砲音の後に、鋭い銛が飛んで来る。


だが俺は体を反らしながら躱すと横を飛び、眼前を過ぎようとした銛を片手で掴み取った。


「キャッチ!」


「「「なにっ!!」」」


三人のマーマンが口を開けて驚いていた。


まさか発砲した銛を掴み取られるとは想像だにもしていなかったのだろう。


まあ、俺の反射神経は超人並に成長しているからな。


このぐらいなら造作もないだろう。


「撃て、撃て撃て!!」


慌てたマーマン二人が続いてハープーンガンを発射した。


今度は二本の銛が同時に飛んで来る。


だが俺は走って一本目の銛を躱すと、二本目の銛をジャンプで躱した。


そして、その一飛びでマーマンたちの眼前に迫る。


「ちょらっ!!」


まずは真ん中のマーマンの顔面を飛び蹴りで蹴り飛ばした。


そして、着地と同時に左のマーマンの顎を右拳でぶん殴り、更に右のマーマンの喉に後ろ廻し蹴りを打ち込んだ。


素手での三連攻撃。


「ぐふ……」


「がはっ!」


「げっ!!!」


三人のマーマンが同時に床へと倒れ込んだ。


一人は鼻が潰れており、一人は顎を打たれて白目を剥いて、一人は喉を押さえながら踠き苦しんでいた。


「わりーなー。通らせてもらうぜ~」


俺は嘲りながら倒れるマーマンたちを跨いで厨房を出て行った。


厨房を出ると廊下を進んで謁見室を目指す。


その道中でもマーマンやマーメイドたちに襲われたがすべて素手コロで撃退してやった。


トライデントで襲い来るマーメイドたちを素手でノックダウンさせ、ハープーンガンを撃ちまくって来るマーマンたちおも素手でぶち伸ばして行った。


俺は見せつけていたのだ。


俺の強さを──。


俺の実力を──。


半魚人たちとの戦力の差を──。


お前たちには武器すら無用だと──。


俺が謁見室に到着するころには、既に挑んでくる半魚人兵は居なくなっていた。


皆が武器をこちらに向けているが、戦いを挑んでくる者は皆無である。完全に半魚人たちは腰が引けていた。


「よーーー、乙姫様~~。会いたかったぜ~!!」


俺が謁見室に到着すると、珊瑚の玉座に乙姫が座っていた。


まだ、余裕なのか長い美脚を組んで寛いでいやがる。


薄ら笑いの乙姫が言う。


「ほほぉ~、男体盛りの人間ではないか。何をそんなに荒ぶっておる?」


「すっとぼけた乙姫様だな、おい」


乙姫が珊瑚の玉座から立ち上がった。


すると側に立つマーメイドからトライデントを受け取る。


「知っているぞ、男体盛りの人間」


「何を知ってるんだ?」


「わらわは人の心が読める」


「ああ、それは聞いた」


「心を読むだけでない。時間を掛ければ記憶も読める」


「あらら……」


男体盛りでの食事中に、記憶を読む時間はたんまりあっただろう。なんか変な記憶を読まれていなければ良いのだけれど……。


「お前はわらわに勝てぬ」


「何故……?」


「お前は、呪われておるだろう」


「いや、それは……」


乙姫がニヤリと微笑む。


すると彼女の全身が光り輝いた。


「眩し……」


そして光がやむと、そこには人間の肌色をもった全裸の乙姫が立っていた。


その姿はセクシー&ナイスバディ。


魅惑、官能、煩悩、色欲全開の姿だった。


何より乳が豊満だ。


「ひぐっ!!」


俺は咄嗟に視線を全裸の乙姫から反らした。


心臓が痛むからだ。


「どうじゃあ、こちらを見ることすら出来まい!」


やーべー……。


弱点をつかれてるわ~……。


意外とこのパターンは初めてだぞ……。


乙姫、やりおるわい!


これは苦しい戦いになりそうだぞ。エヘヘヘェ~。



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