14-22【煩悩を叶える水晶】

魔王城前のキャンプで女性たちが昼飯の準備を行っている。


メンバーはスカル姉さんとスバルちゃん、それにユキちゃんと凶子だ。


スカル姉さんとスバルちゃんが大鍋で何か汁物を煮込み、ユキちゃんと凶子が鮮やかな腕前で大量のサラダを刻んでいた。


ユキちゃんは酒場で働いているから包丁捌きが上手いのは分かるが、ヤンキー色が強い凶子が包丁捌きが上手いのには驚きだった。


意外である。


そんなことよりも──。


俺は煩悩を叶える水晶を持って、その輪に入って行く。


「よう、皆。昼飯の準備か?」


俺の言葉にスカル姉さんがお玉を回しながら答えた。


「ああ、そうだ。何せ人数が多いからな」


「もしかして、作業している全員分を作ってるのか?」


「ああ、当然だ。エルフたち三十人、大工たちが八人、人間が九人、こびとどもが二十数人居るのかな。それにサイクロプスが一人だからな。かなりの量を作ってるんだ」


「なんで大工たちの分まで飯を作るんだよ?」


「賄いを出す条件で、料金を安くしてもらったんだ」


「なるほど……」


流石はスカル姉さんだな、ガメツイ!


するとスバルちゃんが俺の手元を見ながら訊いてきた。


「アスランさん、その水晶玉はなんですか?」


よくぞそちら側から食いついて来てくれたぜ。


流石はスバルちゃんだ。


「ああ、これか。先日のヒュパティア婆さんのダンジョンでゲットしたマジックアイテムなんだ」


スカル姉さんが顎を撫でながら言う。


「どうせ、ろくでもない代物だろう」


なかなか鋭いな……。


スバルちゃんが更に訊いてきた。


「それで、どんなマジックアイテムなんですか?」


「これは、この水晶に手を入れると、その人が欲しがってる衣類が取り出せるっていう凄物なアイテムだ」


若干の嘘があるが問題なかろう。


確かに凄物なのは間違いないのだから。


「なるほどー、それは面白そうだー(棒読み)」


そう述べたのはいつの間にか俺の横に立っていたホビットのアインシュタインだった。


なんだよこいつ、居たのかよ。


唐突に沸くなって感じだぜ。


「面白そうだから、オラにそのアイテムを使わせてくれー(棒読み)」


「ああ、いいぞ」


ちょっと興味がある。


アインシュタインの煩悩衣装って、どんな物が出て来るのだろうか?


俺がアインシュタインの高さに合わせて屈むとユキちゃんと凶子も近寄って来た。


「じゃあ、手を水晶に入れてみろ」


「分かったー(棒読み)」


アインシュタインが水晶玉に手を入れると、しばらくして何かを掴んだようだ。


そして、手を水晶から引き抜いた。


「なんだこれー?(棒読み)」


それはメイド服だった。


スカル姉さんが怪訝な表情で呟いた、


「それはメイド服だよな?」


「そうみたいー(棒読み)」


「アスラン、その水晶玉は、手を入れた人物が欲しがってる衣類が貰えるって言ったよな?」


「ああ、そうだ……」


「ならば、アインシュタインが欲しがった衣類とはメイド服ってことになるよな?」


「そうなるね……」


スバルちゃん、ユキちゃん、凶子の三人が、身を寄せながらボソボソと呟き合っていた。


「なに、あの小人……。メイド服が欲しいなんて、変態なの?」


「たぶん変態だな。前々から変態ではないかと思ってたけど、やっぱり変態だな」


「うわ、キモイ……」


乙女たちの囁きは完全に周囲に聴こえていた。


もちろん当人のアインシュタインにも届いている。


俺はアインシュタインの頭に片手を置きながら言う。


「気にすんな、お前は変態じゃあないからさ……」


「いや、変態でもいいから、このメイド服を着るー(棒読み)」


そう言うとアインシュタインは、いま着ている服を脱いで、代わりに貰いたてのメイド服を着こんだ。


そして頬を赤らめながら訊いて来る。


「似合うかなー?(棒読み)」


「いや、マジでキモイぞ……」


「そんなに褒めるなよー(棒読み)」


「褒めてねーし!!」


すると今度はスカル姉さんが志願してきた。


「ならば今度は私にやらせろ。前々から欲しかった服があったんだ」


「どうぞどうぞ~」


俺が水晶玉を差し出すと、スカル姉さんが手を入れる。


そして手を引き抜くと、そこには黒いセクシーランジェリーな下着セットが握られていた。


「な、なんだ、これは……?」


俺はスカル姉さんの手元をじっくり見てから答えた。


「スケスケブラックのセクシーランジェリーな下着セットだな。黒の上下にガーターベルトまで付いてきたぞ」


「そ、それは分かる……。何故にこんなものが出てくるんだ……?」


「たぶん、スカル姉さんが望んだから……」


「望むか!!」


スカル姉さんは怒りながらも下着セットを白衣のポケットに押し込んだ。


ちゃんと持ち帰るようだな……。


「面白そうだな、今度はあたしにやらせろよ!」


今度はユキちゃんだ。


マッチョな剛腕をグルグル回しながら俺の前に立つ。


そこまでマッスルに気合いを入れなくてもいいだろうと思う。


「じゃあ、手を入れるぜ!!」


「どうぞ」


ユキちゃんが剛腕を水晶玉に勢い良く突っ込んだ。


ワイルドだね~。


「おっ、何か掴んだぞ!?」


そしてユキちゃんが勢い良く手を引き抜いた。


「そーれーー!!」


「なんだ、それは……」


言ったのはスカル姉さんだった。


ユキちゃんが引き抜いた衣装を広げて皆に見せた。


「バニーガールの衣装だな……」


この世界でもバニーガールは共通なのね。


スバルちゃんがユキちゃんに問う。


「ユキちゃんは、これが欲しかったの?」


「まあ、欲しいと言えば欲しかったけどね。何せあたしが着れそうな3Lのバニーガールスーツなんて売ってなかったからさ」


「そうなんだ……」


なるほど、願いは叶ったようだ。


「じゃーーあ、今度はあたいだぜ!!」


元気良くエルフレディースの凶子が名乗りを上げた。


このヤンキーエルフがどんな煩悩を抱えているか楽しみだな。


「じゃあ、凶子、手を入れてみろ」


「分かった、行くぜ。とーー!!」


元気良く凶子が水晶玉に手を突っ込んだ。


そして直ぐに手を引き抜く。


「とりゃーー、何が出たかなー!?」


無駄に元気がいいな。


そして取り出した衣装はなんだ?


「んー、ビキニ?」


それは白いビキニだった。


いや、紐パン紐ブラかな?


かなり隠す部分が小さいエロ水着だ。


マイクロビキニってやつである。


乳輪がデカかったら乳首が完全に隠れないサイズだぞ。


「なんだ、その恥ずかしい水着は……?」


スカル姉さんが凶子のエロ水着を見ながら言った。


するとユキちゃんが凶子に訊く。


「おまえ、それで海水浴に行けるのか?」


「流石にちょっと無理かな……」


えっ、無理なの?


俺はかなり見たかったけれど。


さて、三人まで終わったぞ。


残るはスバルちゃんだ。


俺がスバルちゃんを見ていると、他の女性たちの視線もスバルちゃんに集まる。


「えっ、私もやるんですか……?」


当然である。


全員が頷く。


ここまで来たら一人だけ引かないのは許されないだろう。


俺はスバルちゃんの前に水晶玉を差し出した。


スバルちゃんはしぶしぶ水晶玉に手を伸ばす。


「「「何が出るかな、何が出るかな♪」」」


三人が何故か歌い出した。


そしてスバルちゃんが手を引き抜く。


「えい!!」


ズルズルっと水晶玉から白くて長い物が引き抜かれた。


スバルちゃんが引き抜いた白い物を広げると、それは何処にでもありそうなエプロンだった。


「エプロン……?」


普通のエプロンである。


肩の当たりにフリルのついた白くて清楚なエプロンであった。


「なんだ、ただのエプロンではないか?」


スカル姉さんが落胆したように言う。


最後のスバルちゃんにオチを期待していたのだろう。


皆が少しガッカリしているようだった。


するとゾディアックさんとヒュパティア婆さんが現れた。


「やあ、皆。元気で頑張ってるみたいだね」


ゾディアックさんが清々しく挨拶してきたが、ヒュパティア婆さんは御高く止まって挨拶は掛けてこない。


気を使ったこちらのメンバーたちから挨拶すると、やっとヒュパティア婆さんも挨拶を交わした。


そして、ヒュパティア婆さんが、俺が持っている水晶玉に気付いて言って来る。


「あら、それは私があげた煩悩を叶えてくれる水晶じゃあないの」


やべ!


フルネームでアイテム名を言いやがったぞ、この老害ババァが!!


パンっと、後ろから肩を掴まれた。


凄い力である。


振り向けばスカル姉さんが優しい笑顔で俺の肩を掴んでいた。


「そう言うことか、アスラン」


笑いながら言うスカル姉さんが、掴んだ俺の肩を握り潰す勢いで力み出した。


肩にスカル姉さんの爪が食い込んで痛い。


俺も笑いながら言い返す。


「ははは……。スカル姉さんの勝負下着は黒なのね」


「それをお前が知る必要はなかったのにな」


「知ってしまったんだ、仕方ないやね……」


「痛いーーー!!肩が砕けるーーー!!」


「なるほど、あたいの勝負下着は紐パン紐ブラなのか~」


「あたしなんかバニーガールだぞ」


案外みんな冷静だな。


だが、皆の視線がスバルちゃんに集まった。


そしてスカル姉さんが言う。


「なんでスバルだけ煩悩が普通のエプロンなんだ?」


その疑問に答えたのは、今まで黙って見ていたメイド服姿のアインシュタインだっだ。


「それ、裸エプロンだー(棒読み)」


「「「「「あー、なるほど~」」」」」


全員が納得した。


アインシュタインは、こんな時ばかり超天才である。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る