14-23【夜の魔王城キャンプ前で】

時は夜──。


場所は魔王城前のキャンプ。


もう作業員や大工たちはソドムタウンに帰ってしまい一人も残っていない。


ゴリたちも帰ってしまった。


居るのはテント内で団子になって寝ているビキニノームたちだけだ。


俺はランタンの明かりを頼りに刃を振るっていた。


「やっぱり黄金剣に比べて軽いな」


俺が手にしている武器はレイピアのヒューマンキラーだ。


外観は──。


刃渡りは1メートル前後。


幅は2.5センチぐらい。


全長1.2メートル前後かな。


とにかく、軽い。


振るうと風切り音がヒュンヒュンと鳴るぐらいだ。


俺は眼前の木に対してレイピアを振るった。


切って、突いて、また切った。


だが、木は微塵も傷付かない。


人間以外は切れない。


刀身が透化して触れることも出来ないのだ。


まったく不思議な剣である。


これがヒューマンキラーの能力だ。


それにしても──。


「ルイレアールのように可憐には使えないか……」


思い出されるレッサーデーモンのルイレアールが振るっていた剣さばきは可憐で複雑だった。


俺の振るう剣さばきとはまるで違う。


あそこまで使いこなすには、細身の剣術を習得しないと無理だろうな。


「レイピアスキルか~」


俺は、その後もレイピアを振るい続けた。


とにかく、練習だ。


次の冒険では使ってみようと思っている。


このレイピアは必ず役に立つ。


いずれ来るだろう人との戦いで……。


その時までにレイピアスキルを習得しておきたいのだ。


「人か……」


まだ俺は、人間を斬ったことがない。


当然ながら人間を殺したこともない。


でも、いずれはその時が来るだろう。


人殺しはしたくないな……。


だから誰よりも強くなって、誰にも殺されないで、誰にでも勝てるほど強くなりたい。


そして、ただ勝つだけじゃあない。


相手を殺さずに勝ちたい。


そのために、何がなんでも強くなりたいのだ。


「よう、アスラン。剣の稽古か?」


後ろから声を掛けられる。


振り返るとゴリがこちらに歩いて来るところだった。


「あれ、ソドムタウンに帰らなかったのか?」


「これだよ、これ。お前も飲むか?」


ゴリがワインの酒瓶を見せた。


「忘れたか、俺は酒が飲めないんだよ」


「あ~、そうだったな。どおりでお前と楽しく飲んだ記憶が無いわけだ。はっはっはっ」


どうやらゴリには既に酒が入ってるようだ。


何処かで飲んで来た帰りなのだろう。


「でもよ、稽古もいいが、冒険に出てない時ぐらい、人生をエンジョイしたほうがいいぞ」


俺はレイピアを振るいながら言った。


稽古を続けながら話す。


「なんだ、お前には俺が人生をエンジョイしてないように見えるのか?」


「だってそうだろ」


「だってって、なんだよ?」


「酒も飲まない、女も抱かない。そんな人生で楽しいか?」


ガクンっ!!


俺は膝から崩れた……。


「酒は飲まなくてもいいが、女の子ぐらい俺だって抱きたいわ……」


ゴリは不思議そうな顔で言った。


「じゃあ抱けよ。ソドムタウンにプロがいくらでも居るだろう。それにスバルちゃんだって、ユキちゃんだって、お前に気があると思うぞ」


「えっ、そうなの?」


「そうだろ?」


「そうだとしても、俺には彼女たちを抱けない理由があるんだよ……」


「冒険者が短命だからか?」


違うわい!!


そうじゃあねえよ!!


呪いだよ!!


糞女神の呪いのせいで女の子を抱けないんだよ!!


抱くと死んじゃうんだよ!!


「こん畜生め……」


もう、涙が出てきそうだ。


俺は上を向いて涙を堪えた。


その時である。


それは突然であった。


何処からともなくチリ~~ンっと鈴の音が聞こえたのだ。


「鈴の音……?」


どうやらゴリにも聞こえたようだ。


二人で周囲をキョロキョロと確認する。


すると魔王城が浮かぶ湖のほうから光が進んで来た。


光は湖の水面を浮いて進んで来る。


その光から鈴の音がチリ~~ンっと聞こえて来るのだ。


「なんだ、あれ……」


光からは霊気を感じる。


だが、マミーレイス婦人のように強烈な霊気ではなかった。


それに殺意も感じられない。


だが、悪霊に近い霊気を感じ取れた。


そして、光がこちら側に上陸すると複数に別れる。


光の数が十個に増えたのだ。


更に水中から何かが歩み出て来た。


人型だ。


それも十体ある。


「アスラン、なんだいあれは……?」


「敵ではないようだけど……」


そして、その光と人影がこちらに進んで来た。


十体が5メートルほど前に近付いて来て、それがなんだか分かった。


「ボーンゴーレム?」


そう、その十体はボーンゴーレムだった。


身長190センチぐらいで、骨を集めて型どられたゴーレムだ。


俺たち二人が身構え緊張していると、光が人型に変わる。


「お前らは、ゴースト大臣ズ!?」


それは以前で合った大臣の亡霊たちだった。


『これはこれはアスランさま。お元気でしたか?』


「何しとん、お前ら……」


『いや、我々大臣ズで会議を行った結果、我々も建築作業に尽力を尽くそうってことになりましてね』


「いやいや、お前らには魔王城の復権を命じたじゃんか?」


『それがですね。マミーレイス婦人に財力的に支援を申し出たのですが、断られましてね。仕方無いので我々自ら作業に参加しようと参上したわけで』


「大臣なんだから体力を使わないで知力を使えよ……」


『財力が無ければ我々だってただの人です』


「いや、ゴーストだろ」


『まあ、そんなわけで、夜しか魔力が強くならないので、夜間作業でボーンゴーレムを働かせようと参上しました』


「ボーンゴーレムって、一人一体か?」


『左様です』


「マミーレイス婦人は一人で七体も動かしてたぞ」


『我々とは各が違うのですよ、各が!』


「お前らが威張るな……」


『まあ、とにかくです。我々は政治経済のアドバイスが本業です。皆様が魔王城を復権して、魔王城で政治経済を繰り広げなければ、我々ゴースト大臣ズはやれることがないのですよ。だから少しでも力になりたくて、こうして夜な夜なボーンゴーレムを操って作業をお手伝いするしだいで』


それにしても良くしゃべるゴーストだな。


やれることが無ければ成仏しろよ。


「ああ、分かったよ。じゃあ、作業を頑張ってくれ」


『はい──』


「それじゃあ俺はもう寝るからな」


『それは困りますぞ、アスランさま!』


「なんでだよ!?」


『我々は大臣です。ゴーレムは操れますが政治以外はズブな素人。人足作業すらしたことがありません。故に何をしたらいいか分かりません。だから、こと細かくご指導願います』


「うわー……、うぜーやー……」


これは今度から夜間監督を用意しないとならないのかな?


ふと俺は隣に立つゴリの顔を見た。


そうだ、こいつが居るじゃあないか。


「なあ、ゴリさんよ~」


「な、なんだよ、アスラン……」


「お前って、ここの作業に詳しいよな?」


「えっ……、まあ、毎日ここで働いているからな……」


「じゃあ夜間監督に任命するから、こいつらの面倒を見てくれないか?」


「な、何を馬鹿なことをいってるんだ、おまえは!?」


あー、やっぱりそうなるやな~。


「でも、監督か~……」


あれ、やる気がありそうだぞ。


ならば──。


「ゴリ、監督に出世したら給料も上がるぞ」


「マジか!?」


「夜間作業だから22時から6時の間は深夜手当ても付けちゃうよ」


「マジかよ!!」


「マジマジ、やる?」


「やるやるやる!!」


チョロイ!!


卓球風に言えばチョリーースっだぜ!!


「じゃあ、あとはこいつらの面倒を頼んだぞ、ゴリ。給料の話は明日スカル姉さんと話そう」


「了解した!!」


「じゃあ、俺は寝るから」


「おやすみ、アスラン。あとは任せろ!!」


こうして俺はゴリとゴースト大臣ズを置いて、テントで眠りに付いた。


それにしてもボーンゴーレムの歩く足音が五月蝿いな……。


夜も工事するなら、ここでは寝れないぞ。



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