14-20【平原の早朝】
グレートプレーン平原に朝が来た。
平原の地平線から朝日が昇って来る。
眩しいほどに目映くって赤い。
「朝日か~。綺麗だな」
俺はスバルちゃんが眠るテントの前で焚き火に当たりながら朝日を眺めていた。
横に居るヒルダがコーヒーを沸かしている。
『コーヒーが沸きました、アスランさま』
ヒルダが焚き火に掛けたヤカンからマグカップにコーヒーを注ぐ。
『では、アスランさま。わたくしは朝なので、これで失礼します』
「おう、サンキュー、ヒルダ」
朝日から逃れるようにヒルダが異次元宝物庫に帰って行った。
見かけは独眼の美人メイドだが、やはりマミーである。
朝日どころか日差しに弱いらしい。
俺は朝日を眺めながら呟いた。
「たまに早起きもいいもんだな」
昨日、糞女神のところで一度寝てたから、俺はそんなに睡眠を必要としていなかったようだ。
朝早くに目が覚めて、ヒルダにコーヒーを入れてもらっていたのだ。
「あー、朝かー……」
ビキニノームの一匹が目を覚まして体を起こした。
「ああ、朝だぞ」
「じゃあオラ、朝のダンジョン掃除番だから、掃除してくるだ……」
「寝ぼけてるな。もうダンジョンは掃除をしなくていいんだぞ」
「あー、そうだった……。あの変態オカマ野郎は死んだんだ。ザマーみろ。もうオラたちは自由なんだ~。じゆうだぁ~~」
うむ、なんか酷い言いようだ……。
時々こいつら殺伐としたことを言いやがるよな。
「よーし、みんな~、起きるだ~。ラジオ体操するべさ~」
この世界にラジオってあるんかい?
「おー、朝か~」
「よーし、起きるべ、起きるべ」
「ラジオ体操だ~」
「「「あ~たらしい朝が来た~、希望のあーさーが~」」」
ビキニノームたちが歌を口ずさりながらラジオ体操を始めた。
どうやら本物のラジオは持っていないようだ。
だが、その体操は俺が知ってるお馴染みの体操だった。
なんでこいつらがラジオ体操なんか知ってるんだろう?
マジで不思議だ……。
すると俺の背後からスバルちゃんの声が飛んできた。
「おはようございます、アスランさん!」
「よう、おはよう」
俺が元気な挨拶に引かれて振り返るとスバルちゃんがテントから首だけを出していた。
顔は笑顔だったが、いつものツインテールじゃあない。
それにメガネも掛けていない。
いないが──、これはこれでありである。
キャラ特性が二つも減ったが、素材がいいのかやはり可愛いな。
美少女は臭くても美少女だと実感する。
「アスランさん、無事に帰られたのですね!」
「ああ、自作ダンジョンの秘宝もゲットしたぜ」
「本当ですか、おめでとうございます!」
祝いながらスバルちゃんがテントから出て来た。
服は昨日のままだ。
流石にテントの寝袋で寝るだけなら寝巻きには着替えないか。
パジャマ姿を少し期待したのにさ……。
んんっ!!
油断した!!
超臭いぞ!!
俺は悪臭に押されて後ずさる。
俺の後ろでラジオ体操に励んでいたビキニノームたちも後ずさった。
ビキニノームたちが鼻を摘まみながら述べる。
「な、なに、この娘さん……」
「く、臭い……」
「これはトンネル工事中の作業員が持ち込んだカナリアが即死するほどの臭いだべさ……」
ビキニノームの発言を聞いたスバルちゃんが慌ててテント内に逃げ込んだ。
テント内からスバルちゃんの言い訳が飛んで来る。
「ご、ごめんなさい。いま薬を塗りますから!!」
「いいよー、慌てなくてー。俺は馴れてますから~」
「本当にごめんなさい!!」
まあ、しゃあないか……。
あれは病気に近い。
本人だって、望んであの体質でもないのだから。
美少女には罪はないのだ。
そんなこんなしていると、テントの横に扉の枠が現れた。
その扉が開くとヒュパティア婆さんが出て来る。
「あら、あなた、生きてたの。残念」
「生きてるよ!!」
何が残念だ!!
なんだよ糞ババァ!!
本当に老害だな!!
「あら、何かしら、この小人たち。ノームかしら?」
「ああ、あんたのダンジョンで暮らしていたビキニノームたちだ」
「ビキニノーム……。確かに全員ビキニ姿ね。変態さんなのかしら?」
「そうだ、こいつらは変態小人だ……」
俺の皮肉にビキニノームたちが続く。
「そうです、オラたちが変態小人たちです」
「ビキニは最高だべさ。お婆さんも着ませんか?」
「いや、結構よ……」
「あー……、このお婆さんは仲間じゃあないぞ。異人だべ さ……」
「そうか、異人か……」
「残念、残念……」
何やらビキニノームたちがガッカリしている。
どうやら仲間か否かの基準はビキニを着るか着ないかで決まるようだな。
「ところでアスラン。私のダンジョンからお宝は持ち出せたの?」
「これだろ?」
俺は異次元宝物庫から煩悩を叶える水晶を取り出して見せた。
それを見てヒュパティア婆さんが僅かに驚く。
「おや~、まあ~、それを持ち出せたってことは、レッサーデーモンを倒したのね」
「なんだよ、あそこにレッサーデーモンが巣くっていたのを知ってたのか?」
「ええ、あの子だけは、お宝の番人として私が召喚したモンスターだったからね。契約で縛って水晶を守らせていたのよ」
なるほど、あいつはヒュパティア婆さんが直々に召喚しやがったのか。
自分で召喚するならせめて変態じゃあない悪魔を召喚しやがれってんだ。
いや、もしかしたら悪魔って全員変態なのかな?
まあ、なんでもいいや。
「じゃあ約束通り、このマジックアイテムは俺がもらうぞ」
「構わないわ。それよりもどうだった?」
「どうだったって?」
「私の自作ダンジョンの感想よ」
「あー、一言で言うと、ウザかったぜ」
「ウザイ?」
「隠し扉が多すぎだ。隠すことに専念しすぎだろ」
「なるほどね~。じゃあモンスターは?」
「手応えのあったのは、トロールが二匹と、あんたが召喚したって言うレッサーデーモンぐらいだ。あとは雑魚ばかりだったぞ」
「んんー、モンスターの熟成度が足りなかったのかしら……。ならばもう二十年ぐらい放置かしらね……」
えっ、あのダンジョンってあんたの墓に使うんだろ?
あと二十年って、あんたあと二十年は生きるつもりかい?
老害なんだから早く死ねよな……。
「あっ、先生、来てらしたのですね!」
スバルちゃんが師匠の声を聞いてテントから出て来る。
「臭い!!」
ヒュパティア婆さんが悪臭に後ずさる。
「ああ、ごめんなさい。まだ薬の塗りが足りませんでした……」
悲しい顔でスバルちゃんがテント内に戻って行く。
悪臭が落ち着くとヒュパティア婆さんが俺に訊いてきた。
「あんた、その変態小人たちをどうするの?」
「行き場がないって言うから、魔王城の町に連れてって働かせるつもりだ」
「あんたが作るって言う町に連れていくのね」
「オラたち奴隷だから無賃金で働かせられるんだ」
「強制労働ってやつだべさ」
「わーい、わーい。強制労働だー」
「職があるって幸せだべさ~」
「「「バンザーイ、バンザーイ!」」」
万歳しながら躍り回るビキニノームたち。
小人って本当に脳味噌が小さいんだな。
哀れなり……。
こうしてスバルちゃんが臭い消し薬を塗り終わるのを待って、俺たちはソドムタウンに帰って行った。
ヒュパティア婆さんの自作ダンジョンの話はこうして終わる。
しかし、ヒュパティア婆さんがお墓に入るのは、まだまだ先の話だろうさ。
このBBAは当分死なないだろう。
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