13-34【マミーレイス婦人の慈愛】
マミーレイス婦人のローブが揺れていた。
霊気の風が空気を歪めてローブまで靡かせているのだ。
その前に立ち並ぶボーンゴーレムが七体。
最初に倒したボーンゴーレムと同型だ。
それが七体も居る。
「これはちょっと不味いな……」
戦力差は単純に考えて七倍以上だろう。
流石にヤバイぞ。
ならば……。
『あっ、逃げましたわね』
俺は踵を返して逃げだした。
螺旋階段に向かって走って行く。
正面から戦える人数じゃあない。
立地を生かさなければ勝つどころか死んでまうぞ。
そして、俺が階段を駆け上がるとボーンゴーレムたちが追って来る。
しかし、その内の三体が凄い跳躍で、俺より高い位置の階段に飛び乗った。
俺は螺旋階段の上と下で挟まれる。
「ちっ!」
今度は俺が階段から飛んだ。
俺が下の階に飛び降りると着地で床の骨が跳ねる。
すると七体が素直に追って来た。
「単純な思考だな」
それだけが救いだ。
ここは策を労して戦うしかないだろう。
俺は異次元宝物庫からシルバークラウンを取り出して被った。
まずは間引きだ。
「マジックイレイザー!!」
波動砲の発射を見たボーンゴーレムたちが複数巻き込まれないようにと五方向に散った。
俺の最大火力魔法に巻き込まれたのは二体のみだ。
一体は全身でマジックイレイザーを浴びて消し炭になるが、一体は半身を焼いただけで直ぐに再生する。
「更にマジックイレイザー!!」
俺は間髪いれずに二発目を放つ。
それで撃ち取れたのは、また一体だけだった。
俺は頭の上の冠を乱暴に取ると異次元宝物庫に投げ込んだ。
「ちっ! 二体だけか……。思ったより少なかったぜ……」
まだボーンゴーレムは五体も居る。
正直もうちょっと狩りたかったな。
残った五体が駆け寄って来る。
俺は先頭を走るボーンゴーレムに向かって左手のロングソード+2を投げつけた。
剣は股間に刺さるがボーンゴーレムは崩れない。
「コアの位置も違うのか!」
マミーレイス婦人がクスクスと肩を揺らしながら言う。
『当然です』
畜生、ムカツクな!
そして、五体が束になって掛かって来る。
パンチやキックが複数の方向から跳んできた。
俺は逃げるように躱したが、あっと言う間に壁際に追い詰められる。
背後は壁、前には五体のボーンゴーレムが横に並んで構えを取っていた。
ムエタイの構えじゃない。
ボクシングのインファイタースタイルだ。
防御よりも攻撃を重視してやがる。
人数的に有利だからって、本当にこん畜生だわ。
突如真ん中のボーンゴーレムが前に出た。
双拳を顔の前に並べて前に出て来る。
「ウェポンスマッシュ!!」
俺が振るった縦斬りがボーンゴーレムの頭部を真っ二つに割った。
しかしボーンゴーレムはその剣を両手で掴む。
すると両脇から二体のボーンゴーレムが挟み込むように攻めて来た。
俺は腰のダガーを抜いて右のボーンゴーレムに飛び掛かる。
黄金剣を封じられた上に挟み撃ちされたら堪らん。
攻めてどちらか一体を攻めなくてはなるまい。
俺が突き出したダガーがボーンゴーレムの喉を突いた。
しかし、もう一体のボーンゴーレムに背中を殴られる。
「うぐっ!!」
痛い……。
刺されたような痛みだ。
骨拳の牙がレザーアーマーを貫いたかな。
俺はそれでも構わずダガーを抜くと同時にボーンゴーレムの足を払った。
出足払いだ。
足を払われたボーンゴーレムが斜めに倒れる。
だが、その後ろに別のボーンゴーレムが立っていた。
そして、俺の顔面を狙ってストレートパンチを打って来る。
俺は咄嗟に頭を横に反らした。
頬に骨の拳が掠る。
「げふっ!?」
その刹那、黄金剣で頭をカチ割ったボーンゴーレムに脇腹を殴られた。
「畜生っ!!」
今度は倒れているボーンゴーレムに片足を掴まれる。
逃げれない。
これじゃあ回避能力も衰えるぞ。
「うわっ!?」
背後から羽交い締めにされたぞ。
こりゃあ本格的に不味いわ。
そして、ボーンゴーレム三体が正面から俺を殴り出した。
袋叩きだ。
メチャクチャに殴られている。
拳に突いた牙であちらこちらが裂けて行く。
頬、胸、腹、腕……。
赤い血が舞っているのが見えた。
「ざ、ざけんなよ……」
【インプルーブピンチが発動しました】
あっ、HPが一割を切ったぞ。
これに賭けるか……。
【インプルーブピンチスキルLv3】
生命力が残り一割を切ると発動する。発動中はすべての運動能力が約三倍まで向上する。
更に俺は、あまり使いたくないスキルを発動させた。
ちょっとでも生き残るための策だ。
「バーサーカースイッチ、オン!」
【バーサーカースイッチLv2】
ON/OFFが出来るスキル。効果中は冷静な判断が失われるが、戦闘技術やステータス値全般が1.25倍に向上する。
1.25倍って低いよな~。
でも、今は文句を言ってる場合じゃあないか。
使えるものは全部使って対応しなければ。
「おーーら!!」
三体にパンチで揉みくしゃにされていた俺はスキルで身体能力を向上させると上段前蹴りで真ん中のボーンゴーレムの顎を蹴り上げた。
一体のボーンゴーレムが後方に倒れる。
更に羽交い締めにしているボーンゴーレムを力任せに払い腰で前に投げ飛ばした。
その投げた体が一体のボーンゴーレムを巻き込んでダウンさせる。
「うがぁぁああああ!!!」
俺は殴られながらも殴り返した。
全力の左フックが残りのボーンゴーレムをぶん殴る。
鉄腕の一撃でボーンゴーレムの頭が木っ端微塵にふっ飛んだ。
「オラオラオラオラ!!」
次に俺は下段蹴りで片足に絡み付くボーンゴーレムの体を何度も踏みつけた。
ストンピングの嵐だ。
そのボーンゴーレムの上半身が砕けて俺の足から手を離したころには、払い腰で倒れていた二体が立ち上がって来る。
「ドスコイっ!!」
ショートレンジのタックル。
俺のぶちかましを食らったボーンゴーレムが2メートルほど飛んで転がった。
そして、残りの一体に殴り掛かる。
ボーンゴーレムと俺のパンチが交差した。
クロスカウンターだ。
俺の拳がボーンゴーレムの頬にめり込んでいたが、ボーンゴーレムのパンチも俺の頬にめり込んでいた。
しかし、頬を貫通した拳の牙が俺の歯を一本折った。
血の味と折れた歯の感触が口の中に広がったが気にしていられる余裕は無い。
「ぬぅらぁぁあああ!!」
俺は倒れない。
やけくそのフック。
ヒット。
俺に打たれたボーンゴーレムの頭が首から折れて床に落ちる。
「おらっ!!」
立ち上がろうとしていた別のボーンゴーレムに飛び蹴りをかました後に俺は走った。
狙いはマミーレイス婦人である。
こうなったら本体を狙うしかない。
再生しまくる木偶のゴーレムを相手にしていても話は進まないからだ。
こんな下らない作戦が通じるとは思わないが、バーサクしている俺にはこんな下らない作戦しか思い浮かばなかった。
そして実行だ。
「ウリィィイイイイ!!!」
『勇ましいこと』
俺は獣のように飛び掛かった。
マミーレイス婦人の首筋に組み付いて喉を噛み切ってやるつもりだった。
「ウガッァアアアア!!!」
えっ、抱き付かれた!?
いや、俺が抱き付きに行ったよな??
『あら、まあ──』
俺はマミーレイス婦人に組み付くつもりが抱き付いていた。
そんな俺をマミーレイス婦人が抱き寄せたのだ。
ハグだ……。
冷たさの中に柔らかさがあった。
マミーレイス婦人の身長は俺より高い。
俺の顔はマミーレイス婦人の胸の辺りだ。
柔らかい……。
ローブの中は漆黒なのに胸の温もりと柔らかさが伝わって来た。
間違いない──。
彼女は巨乳だ。
いや、魔乳だ。
いないな、スイカップだ。
俺のバーサーカースイッチが勝手にオフになる。
俺は泣いていた。
「なんであんたは死んでいるんだ……」
勿体無い……。
こんな形の良いスイカップな乳が死者の物とは……。
俺は心臓が痛むのを我慢しながらマミーレイス婦人を強く抱き締めた。
まるで幼い息子が母を抱き締めるように──。
実は言うと、頬でスイカップの柔らかさを堪能していただけである。
『何故、泣くのです?』
呪いで心臓が痛み出して泣いてます。
この煩悩が続くのが、あと僅かだと知って泣いてます。
「あんたが可哀想だ……」
そう、この乳が可哀想だ。
『何故……』
「こんなに、こんなに……」
こんなに、凄い乳なのに死人だなんて、もったぃいだだたぁあだああ!!
キター!!
呪いがーーー!!
がーまーんーだーー!!
この異世界に転生して来て初めてのボリュームを堪能するぅうんんんだぁあだだぁあああ!!!
『分かりました……』
マミーレイス婦人が俺を抱き寄せたまま頭を優しく撫でて来る。
まるで最愛の息子を愛でるようにだ。
『あなたの命はお助けしましょう』
えっ、マジ?
『ただし、宝物は授けられません。あなたにその資格が備わるまでは』
「じゃあ、この城に住んでもいいか?」
『それは構いません。私は宝物庫の番人です。城全体の守護者ではありませんから』
「サ、サンキュー……」
すると俺をハグしていたマミーレイス婦人が霧のように消えた。
俺の頬からスイカップの弾力が消える。
ああ、もう少し……。
『では、あなたが魔王としての資格が備わったら、またここに来なさいませ。それまで私はここで宝物庫を守護しています。そして配下と共に眠ります』
「えっ、魔王の資格って……」
それっきりマミーレイス婦人の声は途絶えた。
俺が周囲を見回せばボーンゴーレムたちもいない。
すべて崩れ去ったようだ。
それに周囲からあんなに立ち込めていた霊気も途絶えていた。
まるで眠ったようにだ。
「ふぅ~……」
俺も骨の床に尻餅をつく。
全身傷だらけの血だらけだ。
レザーアーマーに幾つもの穴が空いている。
そこから出血していた。
「も~、ボロボロだわ……」
俺は骨の上に大の字で倒れた。
少し休んだらヒールを掛けよう。
今は息を整えるのが先だな。
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