13-33【ボーンゴーレム】

リッチ・マミーレイス婦人。


見た目はフード付きローブを羽織ったアンデッドだ。


顔も体も手も見えていない。


ローブの中は漆黒。


そして、周囲の空気が歪んで見えるほどの霊気と魔力。


やはりアンデッドの最高峰と呼ばれるリッチだな。


そんな凶悪な存在が今回の敵である。


さて、勝てるか?


分からない……。


霊気と魔力の強さは感じられるが、底が知れないのだ。


どれ程の器を有しているかが、まったくはかれない。


これは久々にヤバいレベルの敵だろう。


するとマミーレイス婦人がユルリとローブを揺らしながら語り駆けてくる。


『剣を抜いたと言うことは、戦う勇気がおありなのですね?』


「戦いたくないが、殺す気なんだろ?」


『私は宝物庫の番人です。宝物を狙う者を捨て置けません』


「あー……」


俺は剣を下げた。


「じゃあ、俺が宝物を望まないって言ったら、どうする?」


『今さら遅いです。殺します』


ちっ、駄目か……。


俺は剣を構え直した。


『では、あなたの相手をご紹介いたします』


「えっ?」


なに?


こいつが直々に戦うんちゃうんかい。


急に周囲がグラグラと揺れだした。


「地震か!?」


否、違う!


床が揺れている。


白骨の床が波打ってるんだ。


するとマミーレイス婦人の前に白骨の柱が積み上がる。


その柱は人を形作って固まった。


2メートルほどの骨で出来た人形だ。


幾つもの頭蓋骨。


何本もの肋骨。


腕、足、背骨。


様々な複数の骨が組み合ったゴーレムである。


「ボーンゴーレムか!?」


【ボーンゴーレムです】


よし、正解!


『彼の名前はボーンゴーレムのフランケン18式。貴方を捻る潰す戦士です』


「へー、勇ましい名前だねー。でえ、18式って、なんの意味?」


『なんとなくです。カッコイイと思いまして』


「う、うん……。気持ちは分からなくはない……」


ボーンゴーレムが一歩前に出た。


身長2メートル。


体重は不明。


体型は逆三角形のマッチョ型。


肌は骨の集合体だけあってデコボコと粗い。


拳には四本の牙のようなナックルが飛び出していた。


さて、どのぐらい強いかだな。


まあ、本体のマミーレイス婦人よりは強くないだろう。


だが、こいつを倒してマミーレイス婦人と戦うんだ。


余裕なんて見せてられない。


俺は更に異次元宝物庫から黄金剣を引き抜いた。


出し惜しみは愚だ。


俺は黄金剣と対アンデッド用の剣で二刀流を構える。


【ゴールドロングソード+3】

ロングソードスキルが向上する。攻撃力が向上する。魔法の耐久が向上する。


【ロングソード+2】

攻撃速度が向上する。アンデッドにダメージ特効。


『ほほう、なかなかの業物ですね。プラス2のほうはアンデッド特効ですか。それならボーンゴーレムにも有効ですわ』


なに、こいつ、マジックアイテムを鑑定しやがったぞ。


俺ですら触れないと鑑定までは出来ないのに、見ただけで分かるのか……。


こいつ、目も良いぞ……。


そんなこんなしていると、ボーンゴーレムが身を屈めた。


何故か片膝を地につける。


何故に……?


俺との距離は10メートルほどだ。


俯いたボーンゴーレムは両手を前へ地に添える。


そして、そこから尻を上げた。


「陸上のクラウチングスタート……」


なるほど、真っ直ぐ全速力で来るのね。


小細工は無しか。


『よーーい……』


えっ、あんたが声を掛けるんかい。


『スタート!!』


ダンっと音が鳴るとボーンゴーレムの足元で大量の骨が弾けた。


それと同時にボーンゴーレムがロケットのようにダッシュして来る。


「速い!」


──が、単純に真っ直ぐだ。


真っ直ぐ過ぎる。


速かろうと遅かろうと、それでは一緒だ。


容易くカウンターが取れる。


俺はボーンゴーレムの顔面を狙って黄金剣を振るった。


眼前のスレスレを金の切っ先が過ぎる。


当たらない。


そもそも当てる気なんて無い。


目眩ましだ。


剣を振るった俺は、流れるように深くしゃがみ込む。


小さく丸まった俺の肩にボーンゴーレムの脛が当たった。


俺は置石だ。


ボーンゴーレムは石に躓いたランナーのように俺の体を飛び越えて転がった。


ボーンゴーレムの転倒で周囲に白骨の破片が舞う。


俺はすぐさま立ち上がると、起き上がろうとしているボーンゴーレムにスキルを乗せて二刀流を振るう。


「ダブルクラッシャー!」


左右二の文字に振るった二打がボーンゴーレムの頭と首を斬り裂いた。


容易く過ぎね?


終わりじゃあないよね。


やはり、ボーンゴーレムは止まらない。


頭を失くしても拳を振るって来た。


牙付き拳のアッパーカット。


速い、力強い、狙いも正確だ。


牙付き拳が俺の顎に迫る。


だが、寸前で俺は顎を引いて躱す。


すると俺の眼前を骨の拳が過ぎる。


次に俺の目に入って来たのは、ボーンゴーレムの脇腹だった。


天に向かって振り切った剛腕の下に隙が伺える。


「がら空きだな!」


俺は左手に持ったロングソード+2でボーンゴーレムの脇腹を切った。


骨が散る。


だが、やはり、ボーンゴーレムは止まらない。


今度はボーンゴーレムの蹴り技だ。


後ろ中段廻し蹴り。


「よっと」


その蹴りも俺は容易く躱した。


そして、片足で立つその膝を背後から蹴った。


ボーンゴーレムの体がカクンっと落ちる。


その背後から俺はボーンゴーレムの心臓部を黄金剣で貫いた。


俺の突き立てた黄金剣がボーンゴーレムの背中から胸に向かって貫通する。


「これで終わりだ」


決着がついたと思った俺が黄金剣を引き抜こうとしたが、剣が抜けない。


「あれ……」


決まってないのかな?


どうやら貫通した剣を胸の前でボーンゴーレムが両手で握り締めているようだ。


そこからの後方掬い蹴りが飛んで来た。


真下から上ってくる踵蹴り。


俺は蹴り足から逃れるために黄金剣から手を離して後方に飛んで回避する。


「なに、こいつ、不死身?」


振り返ったボーンゴーレムの頭部が修復して行く。


地面に溜まった骨の一部が浮き上がりボーンゴーレムの頭となって再生していくのだ。


切ったはずの脇腹も同じように修復していく。


「嫌なパターンだわ~。こう言うのって、疲れるんだよね……」


頭も破壊した。


心臓も貫いた。


なのに再生する。


まだ心臓には黄金剣が刺さっている。


なのに動いている。


相手はゴーレムだ。


ならばコアがあるのかな?


それが人間の急所に在るとは限らない。


大きさも小さいのか?


ならば微塵切りにしててもコアを見つけ出して破壊するのみだ。


「否、待てよ──」


まだ、可能性は別にある。


俺はロングソード+2を右手に持ち変えて構えた。


今度は俺が姿勢を低くして飛び込む準備を整える。


ボーンゴーレムは胸に黄金剣を刺したままファイティングポーズを築いた。


ムエタイ式キックボクシングの構えに似ている。


左腕を頭の高さで前に伸ばし、右拳はコンパクトに構えて顎の前にある。


直立した背は僅かに反らして重視は左足に乗せて右足はいつでも前蹴りを放てるようにリラックスしていた。


パンチやキックだけでなく、肘打ちや膝蹴りに特化したスタイルだ。


この世界に来て初めて見るファイティングスタイルだな。


殴って良し、蹴って良しってことかい。


更に密着の間合いからでも膝や膝の打撃が打てるってことかい。


「じゃあ、よーーい……」


俺は更に姿勢を深くする。


「どんっ!!」


掛け声からのロケットダッシュ。


今度は俺のほうが弾丸のように飛び出した。


俺の背後で床の白骨が跳ねて飛んだ。


それ以上の速さで俺は飛んだ。


真っ直ぐにだ。


その俺にボーンゴーレムは前蹴りでカウンターを合わせる。


俺は前蹴りを顔面で食らう直前にロングソードを前に突き出した。


狙いはボーンゴーレムの下半身。


そして、俺の剣とボーンゴーレムの蹴りが相撃ちで決まった。


俺は顔面で蹴り足を受けたがボーンゴーレムの股間を突き刺していた。


「痛てぇ……」


ボーンゴーレムの踵が俺の顔面にめり込んでいたが、股間を突かれたボーンゴーレムの体がバラバラと崩れて行く。


『お見事です』


俺は頬を擦りながら振り返る。


「さて、ボーンゴーレムは撃破したぜ」


『何故、ボーンゴーレムの心臓が股間にあると思ったのですか?』


俺は素直に答えた。


「頭、心臓、あと急所って言ったら金玉だろ」


『気づきましたか、恐ろしい男ですね』


「あんたこそ」


『ですが、これならどうですか?』


するとマミーレイス婦人の周りで白骨の柱が何本も沸き上がる。


その柱の数は七本。


その七本すべてがボーンゴーレムに変身した。


揃うは七体のマッチョゴーレムたち。


「うわぁ~……。これはヤバイぞ……」


『そうでしょう』


俺はマミーレイス婦人が漆黒の中で笑ったような気がした。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る