13-32【飛び込み墓地】
「キィー、キィー!!」
両腕と下半身を失ったゴブリングールが、のたうち回りながら叫んでいた。
こんなに惨めを晒しているというのに表情は悪鬼羅刹のように酷いものだ。
「哀れ……」
俺はバトルアックスを振るうとゴブリングールの頭をカチ割った。
腐ったスイカのように汚い汁が飛び散ったが静かになる。
【おめでとうございます。レベル39になりました!】
「あっ、レベルアップしたぞ」
これで、あと少しでレベル40だな。
四度目のボーナスタイムだ。
ちっ、あの糞女神との御対面が近いぞ……。
どうする……。
やはり敵対を続けるか?
いや、まだ準備不足だろう。
まだ、糞女神を倒すのには俺の実力不足だ。
糞は糞でもアイツは曲がりなりにも女神だからな。
ここはちゃんとボーナスを貰って反逆に備えるか。
クーデターはもう少し待とう。
今は町作りに専念だぜ。
いや、今はそれよりこのダンジョンの探索が優先だ。
俺は周囲の死体からマジックアイテムを回収しながら、そんなことを考えていた。
そして、巨漢オークグールから黒い甲冑を剥ぎ取っていて気がついた。
「名前があるぞ?」
防具の内側に、小さな名前が刻まれていた。
【P・C】
「イニシャル。製作者の名前だろうか?」
あれ、これってあのスケルトンレッサーデーモンの名前じゃね?
プロフェッサー・クイジナートじゃね?
だよな?
俺が他の拾ったばかりのマジックアイテムを確認する。
すると殆どの武具に【P・C】と掘られていた。
「まさか、このマジックアイテムの武具を作ったのは、あのプロフェッサー・クイジナートなのか!?」
間違いないぞ。
魔王軍の死体が持っているマジックアイテムからアイツの名前が幾つか見つかった。
あのプロフェッサーのくせにスミスなレッサーデーモンのアンデッドは、マジックアイテムを作れるんだ!!
これは大発見だぞ!!
アイツを抱え込めばマジックアイテムがわんさか手に入るじゃあねえか!!
アイツにマジックアイテムを作ってもらえれば、わざわざ冒険でマジックアイテムを漁らなくても良くならないか?
そうとなれば、絶対にアイツを抱え込んで、町の発展に活躍してもらうぞ!!
金の成る木を発見だぜ!!
「ひゃっほー!!」
俺は浮かれながらマジックアイテムを回収した。
そして、少し俺のテンションが落ち着いたころにマジックアイテムの回収も終わる。
「さて、先に進もうか」
俺は通路の奥に進んで行った。
「んん、また螺旋階段の穴だ……」
通路を真っ直ぐ進むと広い部屋に出た。
しかし、大部屋かと思ったら、そこには円形の大穴があり、また螺旋階段で下に下にと階段が続いていた。
上は無い。
大穴の直径は20メートルほどだ。
底までランタンの光が届かないほどに深い。
「深いな。とりあえず、降りるか」
俺は何も迷わず螺旋階段を下って行った。
トラップには十分気をつけたが、今のところ罠は無い。
それよりも気になったのは霊気の強さだ。
寒気すら感じる霊気の強さは、上で出合ったマミーレイス婦人の物と同等量だ。
これは、何かヤバイのが居るかも知れないぞ。
「んん~、何か見えて来たぞ。床か?」
なんだかデコボコした床に見える。
粗い感じだ。
俺がランタンの光を照らしながら階段を下って行くと、粗いデコボコの床の正体が分かった。
それは円形の床一面に広がった白骨化した死体の数々だった。
「多いな……」
床が見えない。
敷き積もった白骨死体で床が僅かにも見えないのだ。
白骨の上に更に白骨が積もっている。
俺は階段から骨の床に降りた。
硬い間食が足元で砕ける。
俺に踏まれた骨がバギっと折れて鳴った。
「凄い量だな……」
骨の種類は様々に窺えた。
人の骨、動物の骨、魔物の骨、大きな骨、太い骨、巨大な骨、様々な骨だ。
俺は爪先で少し骨の床を掘って見た。
10センチほど掘ったが真の床は見えてこない。
どれだけ骨が積もっているのだろう?
「ここはなんだ?」
俺の呟きに誰かが答えた。
『ここは、飛び込み墓地ですわ』
「うぬっ!?」
俺が咄嗟に顔を上げると少し離れたところにローブにフードを被った霊体が立っていた。
螺旋階段の中腹。
静かに佇むは、上の城で出合ったヤツだ。
「マミーレイス婦人か!?」
『左様です』
頭から被ったローブで顔も体も隠している。
なのにセクシーな体型が分かるスラリとしたボディーライン。
何より豊満な胸の膨らみが誘惑的だった。
俺は腰の剣に手を添える。
顔は見えないが、声からして奥さま風の美女なのは間違いないアンデッドだろう。
これだけエロイのだから婦人を超えて夫人の可能性も高い。
要するに、人妻!
それだけで燃えてくるが、こいつはアンデッドの中でも最高峰のリッチだ。
侮っては祟り殺されかねない。
『ここは大戦で籠城した魔王軍兵士の夫人や、魔王様に使えていた家臣たちが身を投げて自害した場所です』
「自害……」
俺はマミーレイス婦人の顔を凝視したが闇しか見えない。
だが、その闇から悲しむ気配が伝わってくる。
『我々魔族の女たちや非力な子供たちは、戦後捕虜に下り、奴隷として哀れに辱しめられるぐらいならば、魔族の誇りを保つために、ここで自ら命を絶つことを決めたのです。そして、上から多くの者たちが飛び込んだのです。あなたが今立っている場所に』
俺は足元の骨をミラリと見た。
戦争の闇だ。
それは人間だろうと魔族だろうと変わらないってことかい。
戦争は、綺麗ごとで始まるが、綺麗ごとだけでは終われない。
それがこの闇だ。
「それがこの白骨の山か……」
『私が魔王軍の金庫番だったのはご存知?』
「ああ、知ってるさ。だから訊きたい。宝物庫はどこだ?」
『ここです』
「やはり……」
俺は暗く俯いた。
『降伏寸前に、我々城の者が命を絶った。その中に私も居たから宝物庫が何処にあったか分からないとされています。それは幽霊になってから聞いておりました』
「だが、戦後から今に掛けて宝物庫が発見されなかったのは、あんたらの死体の山が、その入り口に積もって隠していたからだな」
『そうです』
だとするなら、どのぐらいの魔族が飛込み、ここで死んだんだ?
ここにどんだけの死体が積もっているんだ?
百や二百か?
千か二千か?
それ以上か?
宝物庫を隠すほどの死体だろう?
相当の人数が自害したのだろう……。
「でえ、何故にそれを俺なんかに聞かせる?」
『この話は、今まで何人かの者にも話して来ました』
俺は腰から黄金剣を抜きながら訊いた。
「そいつらはどうなった?」
マミーレイス婦人の霊気が強くなる。
その冷気から敵意が感じ取れた。
渦巻く霊気が小さな骨を浮かせるほどにだ。
『すべて、この飛込み墓地の中に居ますわ』
「ちっ、殺したか……」
こいつは悪霊だ。
幽霊や亡霊を越えた悪霊だ。
恨んでやがる。
呪ってやがる。
やはりこいつは倒さないとならないな。
こいつを倒さないと、この城は手に入らない。
何より……。
死後500年間も、恨んで呪って過ごすなんて可愛そうだ。
こいつは自害したが、こいつの戦争は終わってないんだ。
ならば、成仏させてやらねばなるまい。
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