8-12【サザータイムの町】

「セルフヒール……。ちっ、まだ足りねぇか。ならばピュアヒール」


俺は魔女が納屋を出て行ってからしばらくして、ありったけのセルフヒールとピュアヒールで自分の傷を癒した。


それで、とりあえずは動けるぐらいには回復した。


折れていた肩の骨も修復できたが、まだ違和感が残っている。


なんだか肩の関節がコキコキするのだ。


まだ完璧に全回復していない様子であった。


身体のあちらこちらがズキズキと痛む。


ヒール系の魔法に関してはスカル姉さんのようには、まだまだ行かない。


「ちくしょう……。メチャクチャにやられたからな……」


残ったダメージの回復は明日だ。


明日になれば魔法回数も回復するはずだからな。


とにかく動けるようになった俺は、血の臭いが立ち込める納屋から出て周りの様子を伺った。


夜の暗闇を警戒しながら見渡している。


漆黒、満月、星々──。


動く者の気配は無い。


「魔女はまだ居るのだろうか?」


宿屋に居るのかな?


俺は警戒しながら納屋を出て宿屋に向かった。


しかし宿屋内を探したが魔女の姿は見付けられない。


「あの女、何処に行ったんだ?」


俺は窓から闇の景色を眺めた。


野外は何も見えない。


ただただ暗闇だ。


「居ないなら居ないで、ホッとするか……」


俺は納屋に戻るとスコップを探した。


直ぐにスコップを見つける。


それから俺は納屋の横に穴を三つ掘った。


そこに三人の遺体を埋める。


三人を埋め終わったころには日が上がりだしていた。


「ちっ、朝になっちまったな……。もう疲れたぜ」


俺は宿屋に戻って厨房にあった飯を勝手に食った。


それから二階の部屋で昼間で寝る。


流石に疲れていたのかグッスリと眠れた。


そして、昼に起きると昼飯を食ってから宿屋ロンドンを出て旅立つ。


無人の宿屋になっちゃったけれど、誰かが見付けていいようにしてくれるさ、たぶん………。


善人が見付けてくれたら、宿屋を引き継いでくれるかな?


悪党が見付けたら、山賊のアジトになっちゃうのかな?


まあ、どっちに転んでもしゃあないよね。


そこまで俺には関係無い。


あとは自然に任せるのみである。


「さて、俺も行くかな」


俺は騒ぎに巻き込まれないように旅の宿屋ロンドンを去った。


アキレスを全力で走らせる。


出来るだけ遠くに逃げるんだ!!


そして俺は夕暮れ前にサザータイムズの町に到着した。


「うん、いろいろ忘れるために全力で移動してきたから早く付いたぞ。それにしてもサザータイムズの町はけっこう大きな町だな」


ソドムタウンやゴモラタウン見たいにちゃんと防壁もあるし人口も多そうだった。


俺はアキレスをトロフィーに戻すとゲートを目指して進む。


そして、通行料金を払うとサザータイムズの町に入る。


なかなか賑やかな町だった。


メインストリートには二階建ての店がズラズラっと並んでいる。


そして道いっぱいの買い物客で賑わっているのだ。


その向こうに大きな砦が見える。


軍部がちゃんとした町なのだろう。


兵隊の数がチラホラと窺えた。


「よし、まずは宿を探そう」


それから──。


「ソドムタウンにはしばらく帰れないな」


俺は自分の胸に手を当てながら呟いた。


心臓に違和感がある。


何かが物理的に引っ掛かるような違和感だ。


「くそ……」


魔女は俺の心臓に指輪型の探知機を仕込んで俺の居場所を監視してやがるのだ。


俺がソドムタウンに帰れば、俺が転送絨毯を使っていることがバレるだろう。


そして、俺の拠点がソドムタウンだともバレる。


なんかそれが嫌だ。


あの魔女にすべてを晒すのは、ひじょーーーに嫌だわ。


魔女に情報を出来るだけ与えたくない。


拠点がバレたら戦略的にも難しくなる。


とにかく、何かしら厄介になる。


あの魔女とはいずれ決着を付けなければならないだろう。


俺がもっと強くなったら打ち倒すべき相手の一人だ。


もう一人は糞女神かな……。


まあ、そんなヤツに拠点がバレるなんて駄目だわな。


戦略的に不利になる。


そうなると、この旅の道中で、心臓の指輪をどうにかして取り出さないとなるまい。


そんなことを考えながら俺は宿屋を探した。


もう少しで日が沈む。


夕日が防壁の影を伸ばして町並みを包み出し始めた。


「早く宿を取らないとな。夜が来るぜ」


そして、しばらく歩くと宿屋の看板を見つける。


「おっ、あれが宿屋かな。酒場の看板を見つけたぞ」


俺は宿屋の前に立つと看板を読み上げた。


「完熟フレッシュ亭……」


んー……。


なんか、親父が娘と一緒に漫才をやってそうな宿屋名だな~。


まあ、名前は微妙だけど、宿屋としては問題なかろう。


「ここに決めたぜ!」


俺が店に入ると一階の酒場は繁盛していた。


暑苦しい野郎どもが黒いセーラー服を着て酒盛りをしている。


うーん、なんで……?


いきなりなんでですか!?


なんで客の全員が黒い冬服のセーラー服を着ていますか!?


しかもミニスカートだよ……。


野郎どものセーラー服ミニスカート姿なんて、マジでキモイぜ……。


コスプレバーなのかな?


俺、いきなりハズレを引きましたか?


そんな感じで俺が入り口で呆然としていると、一人のセーラー服野郎が絡んで来る。


「よ~、にーちゃん、ここは俺たちセーラー服反逆同盟の専用酒場だせ。いったい何しに来たんだい?」


セーラー服を来た酔っぱらい野郎は、俺の肩に腕を回すともたれ掛かる。


絡まれたわん。


「ああ、知らなかったんだ。すまん。帰るよ」


うん、これは出て行ったほうが得策だろう……。


関わるのはやめよう。


「帰る~、どこに?」


「店を出ていくからさ」


「じゃあ金を置いていきな。迷惑料だ」


「マジで?」


「マジでだよ!」


セーラー服野郎が凄んだ。


俺は咄嗟にセーラー服野郎の腰に両手を回してクラッチを組んでから持ち上げる。


「えっ!?」


「そぅらぁ!!」


そのままセーラー服野郎を臍で投げた。


ジャーマンスープレックスだ。


「ふごっ!!」


投げられたセーラー服野郎の後頭部が床板を割ってめり込んだ。


俺はすぐさま立ち上がるとジャーマンスープレックスで投げた逆さまのセーラー服野郎のパンツを確認した。


捲れたスカートからパンツが見えていたが、俺はホッとする。


良かったぜ、パンツはボクサーパンツだった。


これでパンツまで女性用の下着だったら発狂するところだったぜ。


俺が安堵していると、別のセーラー服野郎が酒瓶を棍棒のように振りかぶって殴り掛かって来た。


「この野郎!!」


「おっと」


俺はヒラリと酒ビンを躱すと膝を立ててセーラー服野郎の腹に打ち込んだ。


「ニーリフトだぜ!」


「うぷっ!!」


そして続いてくの字に屈んだセーラー服野郎の延髄にエルボースタンプを叩き落とす。


「そらっ!」


「ぐへぇ!!」


二人目が俺の足元に倒れ込むと酒場内のセーラー服野郎たちが大声をあげて立ち上がる。


「なんだテメーは!!」


「殴り込みか!?」


「この糞餓鬼が!!」


「おかすぞ!」


大勢のセーラー服野郎たちが立ち上がり俺に飛び掛かろうと身構えた。


そこで店の奥から大声が飛んで来る。


「待ちやがれ、野郎ども!!」


その声にセーラー服野郎どもが動きを止めた。


そして、セーラー服野郎どもが道を開けて声の主が姿を見せる。


店内の一番隅のテーブルに陣取っていた男は、組んだ両足をテーブルに乗せながら、優々と酒を煽っていた。


その男は大柄で金髪の長髪だった。


キリッとした太い眉に少し垂れ目で、大きくマッチョな体格とは別に、顔の形はスマートである。


勿論セーラー服を着ている。


しかし、一人だけ半袖で白い夏服のセーラー服だった。


「若くて活きがいいな、坊や」


女か!?


見た目は男に見えたが、声色は女だった。


確かに、よくよく見れば女だな。


しかも若い。


まだまだ生娘の匂いがしてくる若さだ。


でも、マッチョでデカイ。


完全なガチムチ女だ。


いいや、女と言うより娘かも知れないな。


その娘は組んでいた足を崩してテーブルから下ろすと立ち上がる。


分かっていたが立った姿は大きかった。


身長は190センチを越えているだろう。


しかし、2メートルは無いだろうさ。


首は頭と同じぐらい太い。


胸は分厚く、腰はクビレて逆三角形だ。


腕も脚も筋肉でパンパンだ。


確実にハードなトレーニングで鍛えている体型だ。


まさに女バージョンのゴリだな。


いや、ゴリよりマッチョかも知れない。


「なんなんだ、あんたら?」


「あたいたちを、知らないのかい?」


「旅の冒険者なもんでね」


「じゃあ教えてやるよ!」


メスゴリラがサイドチェストのポーズで筋肉アピールをしながら述べた。


「あたいらは、セーラー服反逆同盟さ!!」


「あ、ああ……」


それは、一番最初に聞きましたがな……。


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